このページの本文へ

囲碁・スポーツ「勝負の世界」をAIとデータが変えた

文● 週刊ダイヤモンド編集部(ダイヤモンド・オンライン

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷

『週刊ダイヤモンド』3月4日号の第1特集は「勝つための絶対スキル データ分析」です。人工知能(AI)・データ時代の本格的な到来によって、「勝つために必要なスキル」はまさに様変わりしています。囲碁やスポーツ、もちろんビジネスの領域でも今、最も熱い「データサイエンス」の世界に足を踏み入れてみましょう。文系こそ学ぶべきスキルです。

「アルファ碁」の登場は囲碁界に衝撃を与えた Photo:AP/AFLO

 最も難しいとされるボードゲームの囲碁でプロ棋士がAIに敗れた。この余波は囲碁にとどまらずスポーツにも及んでいる。データとAIの力によって勝負の世界は大きく変化している。

「もはや人類は勝てないのではないか」。この年末年始、韓国と中国のインターネットの対局サイトに突然登場した囲碁AIの戦いぶりに、プロ棋士たちは戦慄した。

 囲碁界にとって、この1年はAIに揺るがされ続けた歴史の転換点だった。昨年3月、韓国のイ・セドル九段が米グーグルの「アルファ碁」に1勝4敗と完敗。その後、アルファ碁は鳴りを潜めていたが、グーグルが論文を公表したことで、その強化法を取り入れた中国製とみられる囲碁AIが昨秋ごろから続々と登場した。

 こうした“アルファ碁クローン”に対するプロ棋士の勝率は約1~2割。だが唯一、世界ランク1位の中国の柯潔九段は互角の戦いを見せたため、「AIと何とか共存できるのではないか」という機運が棋士の中では高まっていた。

 そんな甘い気持ちを吹き飛ばしたのが、後にアルファ碁の進化版と明かされた「マスター」だ。柯や井山裕太名人とみられる世界トッププロたちを相手に60戦全勝と、桁違いの力を見せ付けた。

 アルファ碁が囲碁界に突き付けたのは、人間には理解できない判断をAIがしたときに、いったいどう向き合うかという問題だ。

 例えば、囲碁AIに詳しい大橋拓文六段が「好手」と評価するアルファ碁のある手は、従来の常識とは懸け離れていたため「悪手」と考える棋士も多く、評価が真っ二つに割れている。

 アルファ碁の選択を好手と解釈するならば、研究すべきはその局面にならないための対策だ。しかし、悪手ならばその後の対応が研究課題となる。AIの選択をどう解釈するかで、棋士のやるべき優先課題が正反対になる。

 ただ、さらに強いAIが登場したとき、マスターの判断が最善ではなかった可能性もある。だが、現時点では人間にそれが分からない。「囲碁というゲーム以外の世界で同じ状況に陥れば、AIの判断の是非をめぐる人間同士の戦いが起きるのでは」と大橋は危惧する。

 これほどまでにアルファ碁を強くしたのは、深層学習(ディープラーニング)と呼ばれる最新の手法だ。この技術を使って、自分自身と繰り返し戦い生み出された膨大な数の棋譜データを学んだことで、アルファ碁は「6ヵ月間で、人間でいえば600年分の経験を積んだ」(趙治勲名誉名人)。

 AIが生み出した膨大なデータが囲碁の歴史を塗り替えたのだ。

 データの活用はこれまで縁遠かったスポーツの世界でも加速的に広まっている。

日本スポーツアナリスト協会理事・日本スポーツ振興センターの千葉洋平氏 Photo by Takeshi Kojima

 フェンシングの男子フルーレ日本代表と共に、世界の大会を飛び回るのが、日本スポーツアナリスト協会理事で、日本スポーツ振興センターの千葉洋平だ。

 大会中の千葉は、とにかく試合を撮りまくる。約20分間の試合が終われば、その場でプレー以外の無駄な場面を削ぎ落として編集する作業をひたすら繰り返す。すぐに選手が映像をチェックできるようにするためだ。撮影は、年間で約2000試合分にも上るという。

 大会が終了してからが、アナリストとしての千葉の真骨頂。プレー集を見ながら、攻撃をどのタイミングで仕掛けたのか。敵の体のどこを攻撃したのか。その攻撃は成功したのか、防がれたのか、それとも反撃を食らったのか。さまざまな情報を、プレー集の映像に付け加えていく。

 千葉の情報が加わることで、攻撃の成功率などの客観的な指標が算出可能になるほか、特定のシーンだけをまとめた映像を簡単にチェックできるようになる。プレー集という映像データが、フェンシングのデータベースという価値に生まれ変わるのである。

 AIを使えば自動化できそうな作業にも見えるが、AIは“正解”のデータがなければ、そもそも学習することができない。「世界で一番試合を見ている」と胸を張る千葉のように、フェンシングに精通した人材が必要不可欠だ。

 こうした分析手法やデータベースは、2009年にフェンシングを担当するようになった千葉が、コーチや選手の要望を聞きながら自ら構築していったものだ。

 客観的なデータという指標があることで、特定のシーンで失点しやすいという選手の“癖”など、強化ポイントが簡単に分かるようになる。あらゆるスポーツでデータを活用することは避けて通れない時代が到来しているのだ。(敬称略)


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

カテゴリートップへ

最新記事
最新記事

アスキー・ビジネスセレクション

ASCII.jp ビジネスヘッドライン

ピックアップ