kintoneな人 第1回
キーマンが語る「現場ユーザー」「コミュニティ」「受託開発」「グローバル」
日本発グローバルの業務改善クラウド「kintone」の5年を伊佐PMに聞く
2017年02月16日 15時00分更新
8割を締める現場部門のユーザーにコンセプトが届くまで
これを受けて、kintoneはターゲットを改めて現場部門のリーダーに絞り込み、エンタープライズの情シスにはあくまで反対されないことを重視した。そのため、プロモーションやサイトでのメッセージングも変え、「アプリのコンビニ」や「手軽さ」といったアピールを抑え、クラウドサービスとしての運用の手堅さやセキュリティなどを押すようになった。とにかく社内で稟議を通すに当たって障壁となるところは徹底的に排除しようというのが、2013年の動きだった。
こうした取り組みもあって、kintoneは「現場部門8割、情シス2割」というIT製品の中できわめてユニークなユーザー層を抱えるプロダクトになった。クラウドが台頭してきた昨今、ITの導入主体が情シスから現場部門にシフトするという流れをまさに体現しているサービスに成長したわけだ。
「(現場部門8割は)最初から狙っていたというのが1つですね。2014年以降は営業方針を変え、全社導入はいったん考えないで、大企業内の部門や中小企業など小さな契約だけを狙いに行っています。とにかくイベント等でコンタクトがとれた先進的な方に使ってもらう。そこで成果が出れば、きちんと拡がっていくと思っています。売り上げよりは、利用者数の拡大を大目的にしていたし、認知と契約で終わらせず、その先の活用と拡大を見据えたサイクルをもって活動すべきというのを全社的に定義していったのが大きいです」(伊佐氏)
こうした事情もあり、一時は感度の高い情シスに向けた交通広告などを展開していたが、現在は業務リーダーでありがちな悩みを訴求するプロモーションに変えている。最近では、働き方改革への関心を受け、労働時間や無駄な作業の短縮など具体的な数値を出して、業務リーダーの悩みに応えられるkintoneを訴えているという。
「悪しき受託開発文化を破壊する」に開発者の強い共感
2013年からはいわゆる開発者に向けたアピールも始めた。kintoneも、当初からREST APIによるデータの操作が可能だったが、2013年にはJavaScriptによる画面カスタマイズやイベントドリブンなAPI連携をサポートした。そして、2014年の4月には開発者コミュニティである「cybozu developer network」がスタートし、エバンジェリストの認定も行なわれるようになった。
「チームワークが向上するプラットフォームにしようというのは、当初から掲げているコンセプト。これを実現するため、社内の開発者を味方にできるのが一番いいんですけど、エンタープライズではなかなか業務部門をサポートする開発者を融通できないのがわかった。なので、やはり外部の事業者にお願いするしかないなと思い、開発者向けのコミュニティを立ち上げた」(伊佐氏)
kintoneにおける開発者は、単に今までのVisual BasicやAccessのシステムをクラウド化したいという人だけではない。実際、今kintoneの開発を積極的に手がけている人たちは、テクノロジーではなく、むしろkintoneが描く未来のシステム開発に共感しているという。簡単に言えば、受託開発の悪しき文化の破壊だ。
「ユーザーは業者にシステム開発を丸投げし、仕様書通りに作られた成果物を見て、こんなんじゃないと文句を付ける。一方、開発者はお客様の顔を見ないで、どんな価値を生み出すのかわからないまま、ただ納期に向かってソフトを開発しなければならない。当然、ユーザー部門に展開しても誰も使われず、人知れずクローズされてしまう。使われないシステムはなんの価値も生み出さないのに、コストはかかるし、重労働と鬱を生み出してしまう。こんなつまらない仕事って、もう辞めたいし、これからの日本に必要ない。そこに共感してくれた人が、今のkintoneを支えてくれています」(伊佐氏)
こうした業務課題を持った現場部門をサポートするkintoneのサービス形態を体現したものが、いわゆる「対面開発」という手法だ。これはエンドユーザーが直接サイボウズやパートナーと議論を重ねながらkintoneでのアプリ開発を進めていく方法。パートナーはユーザーの元に出向くのではなく、サイボウズ本社のスペースを使いながら、ユーザーの前でシステムを組み上げていく。仕様書を挟んだ受託開発と異なり、ユーザーはリクエストを直接開発側に伝えることができ、開発者側もユーザーのニーズに応えているという実感を得ることができる。当然、意見の齟齬が直接解消できるため、開発もスピーディで、お互いハッピーだ。
「お客様は、自分たちが欲しいものがどんなものなのかを対面でパートナーと議論しながら開発を進めています。お客様が開発にコミットするという点が受託開発と大きく異なるし、あとから変えられるというのも違う。なにより、開発が圧倒的に速いし、人月換算の受託開発のように、時間をかけなくてもビジネスになります」(伊佐氏)
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