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前田知洋の“マジックとスペックのある人生” 第34回

WELQ?クラウドソーシング?編集者とライターの仕事とは

2016年12月27日 17時00分更新

文● 前田知洋

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 その年の世相を漢字1文字で表する「今年の漢字」(2016年)が「金」に決まりました。お金に余裕のない僕には、いまひとつピンときませんでしたが(笑)、今回のテーマにはまさにピッタリかも…。

 最近炎上したDeNAによる「WELQ」。クラウドソーシングで未熟なライターを集め、偽の医療系情報を掲載していたのはご存知の通りです。そうした検索の上位をパクリ記事などで埋め尽くすキュレーションサイトが年末に問題になりました。ネット上でウェブライターに安価で記事を発注し、あげくに個人のサイトやSNS、YouTubeなどに投稿されていた画像や動画の盗用までも指摘されています。

 今回の炎上で初めて知って驚いたのですが、そうしたサイトの元ライターの告発によると、原稿料は1文字1円にも満たない安さだったそう。まぁ、それよりも問題だったのは、素人が切り貼りした医療系情報を素人がチェックして発信しちゃう編集体制だったわけですが…。

 筆者もこのASCII.jpや建築誌などでエッセイを執筆していますし、過去に女性誌で人生相談なども連載した経験もあります。記事を書くのが本業ではないにもかかわらず、上記の原稿料を見ると、なんだか自分がベテラン執筆者のなったような幻想すら感じほどの賃金格差です。まぁ、プロではないぶん、編集者に負担をかけているわけですが…。

 一般的に、記事は執筆者が書いただけではお金にはなりません。掲載をしてくれるサイトや雑誌、書籍などのメディアがあり、執筆者との橋渡しをしてくれる編集部や編集者がいなければどうにもなりません。筆者の仕事にたとえるなら「マジックができる」だけでは仕事にならないのと似ています。

 この「テキストの橋渡しをしてくれる」編集者は、執筆を仕事にする上でも、今回の炎上騒動などのリスクを回避する上でも、マジ重要です。

恋愛関係と同じかも…(笑)
ライターは不倫関係よりも結婚相手を求めている

 ツイッターなどでも「イラストを依頼されたが値踏みされた…」なんて話をよく目にします。しばらく前にも、どこかの行政機関が「デザイナー募集、ただし報酬なし」などとサイトに告知して、盛大に炎上したこともありました。

 ライターと編集者の関係は恋愛関係と似ていると筆者は思っています。つまり、非常識な発注者は「安く、できればタダで、ムフフな関係になりたい。あとは知らない」と、不倫のような関係を望むもの。かたや、ライターは「正当な対価も欲しいし、きちんと評価されたい。できるだけ信頼関係を続けたい」と望みます。もちろん、逆のパターン「ずさんな文章で真面目な編集者を騙そうとするケース」もあるかもしれません。

 今回の炎上ケースをたとえると「こんな予算で料理を30品作れって要求するなら、捏造するか、万引きしろってこと?!」という不満に「未来は明るいし、万引きのマニュアルもあげるからさぁ…」と説得する…みたいな感じでしょうか(笑)。

 こんな関係やビジネスモデルが長続きするはずもなく、すぐに破綻してしまったわけです。お互いに事情がある離婚とは違い、不倫のトラブルは社会的なイメージダウンは避けられません。運営会社のイメージが今回のトラブルで大きく損なわれてしまった部分も同じです。

執筆者から見た編集者のスペックとは?

 「編集者の仕事とは?」という解説は、ネットでも書店でも多くあります。しかし、そのほとんどは、編集者を志望する人や、出版社への就職希望者向け。ここでは執筆者から見た編集者について考察してみようと思います。

 まず、担当編集者は執筆した原稿の最初の読者になります。執筆者にとって、下調べなど時間をかけて書いた記事。編集者は文字の修正などとあわせてポジティブな感想が添えてくれます。それもお世辞のようなベタ誉めではなく、内容を理解し、短くてもダイレクトな評価をしてくれます。

 編集者は、文字を扱う仕事だけあって、記事についてのコミュニケーションは言葉で具体的に要求してきます。たとえば「なんとなく、〇〇みたいな感じで…」なんて、あいまいな表現を使う編集者はあまりいい編集ではありません。「この段落と次の段落のつながりをスムーズに」など、指示は具体的です。

 さらに、執筆者が自己嫌悪に陥るくらい、誤字や脱字、文章のねじれ(主語と述語が違ってしまうこと)、かぶり(同じ単語や言い回しの重複)、読者の誤読の可能性などをはっきりと指摘します(ただし、すぐに耐性ができてしまいます(笑))。

 あまり文章を直しすぎると教科書的な文章になってしまい、個性がなくなってしまう場合もあります。そんな理由からか、編集者と激しい口論になることもしばしですが…(汗)。そんなときでも、編集者は妥協はせず、お互いに納得できる落とし所を提案する能力を備えています(ただし、その落とし所に執筆者が納得するかは別ですが…(汗))。

 これは執筆者と編集者、お互いに言えることですが、特別な事情がないかぎり、約束は守ってくれるのも編集者の条件です。大きなトラブルもないのに、突然「すいません。掲載がなくなっちゃいました」、「文章が半分になっちゃいました」などはありえません。これは筆者が編集者に恵まれすぎているだけかもしれませんが…。

 そのわりには、筆者が「体調不良で締め切りを延ばしてもらえませんでしょうか…」なんてお願いするのはしょっちゅう。それでも、有能な編集者は、そうしたケースもみこして余裕のある進行を組んでいます。そんなスケジューリングも編集者のスペックのひとつです。これは、筆者は勝手に信じているだけかもしれませんが…。

前田知洋(まえだ ともひろ)

 東京電機大学卒。卒業論文は人工知能(エキスパートシステム)。少人数の観客に対して至近距離で演じる“クロースアップ・マジシャン”の一人者。プライムタイムの特別番組をはじめ、100以上のテレビ番組やTVCMに出演。LVMH(モエ ヘネシー・ルイヴィトン)グループ企業から、ブランド・アンバサダーに任命されたほか、歴代の総理大臣をはじめ、各国大使、財界人にマジックを披露。海外での出演も多く、英国チャールズ皇太子もメンバーである The Magic Circle Londonのゴールドスターメンバー。

 著書に『知的な距離感』(かんき出版)、『人を動かす秘密のことば』(日本実業出版社)、『芸術を創る脳』(共著、東京大学出版会)、『新入社員に贈る一冊』(共著、日本経団連出版)ほかがある。

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