研究室や民間企業が実験を行なう
物質・生命科学実験施設
RCSから陽子ビームを受け取る物質・生命科学実験施設(Materials and Life Science Experimental Facility、以下MLF)は、陽子ビームから中性子とミュオンを生成し、それらを利用して研究室や民間企業が研究する目的の場所だ。
そのため、小さな実験室がミッシリと集まっており、具体的にどういったことをしているのかは、その時々で異なる。
たとえば、ASCII.jp読者に身近なものとしては、非破壊リアルタイム観測で充放電するリチウムイオンバッテリーの内部挙動を解析したり、全固体セラミックス電池につながる超イオン伝導体を発見したり、セラミックコンデンサー中の水素不純物が絶縁劣化を引き起こすメカニズムを解明したりなどがある。
また住友ゴム工業の「ADVANCED 4D NANO DESIGN」開発ではゴムの運動解析に利用されてもいるほか、タンパク質の動きを見ることもできるため、パーキンソン病発症につながるタンパク質分子の異常なふるまいの発見など、多くの成果を出している。
さて、施設はというと、上記のように巨大な空間に小さな実験室が並ぶため、上から見ると密度が高い空間、下りてみると迷路のように複雑な構造となっている。
実験室には写楽や大観、アマテラスといった名称がつけられており、法則性がなさそうだったので聞いてみたところ、担当者が自由につけており、機器が多いのでニックネームを付ける習慣があるとのこと。
いくつか並べてみると、冷中性子ディスクチョッパー型分光器・アマテラス、特殊環境微小単結晶中性子構造解析装置・千手、試料垂直型偏極中性子反射率計・写楽、大強度型中性子小中角散乱装置・大観といった具合に、声に出すとテンションが上がる系であり、明朝体でテロップ入れると無条件にかっこよくなる系でもある。
さて、RCSから入射された陽子ビームは、グラファイト製ターゲットにあたり、生成したミュオンはミュオンビームラインに送られ、また水銀製ターゲットに当たって生じた中性子は、先に紹介した大観やSOFIAなどに分配される。
今回は水銀ターゲットを管理するエリアも取材できた。このエリアはもっとも線量の高いエリアで、分厚い遮蔽壁に覆われているが、内部の機器移動やメンテナンスのために、鉛ガラス越しにマニピュレーターで内部の作業を行なえる。
水銀ターゲット。20世紀のシューティングゲームの主役機みたいなビジュアルだが、これまでの水銀を格納する容器は、中性子を作る過程で生じる強い圧力の波で傷付きやすく、長期間の使用することが難しかった。そこで気泡発生器を搭載し、圧力を吸収させることで長期的な運用を実現したものだ














