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ASCIIネクストイノベーターズ「新型ラジオハードウェアHintの気配」 第2回

デザイナー・メチクロ氏が語る「Hintというプロジェクトの本質」

求めるのはAIに真似できない仕事

2016年08月23日 09時00分更新

文● 西田宗千佳 編集●北島幹雄/ASCII STARTUP 撮影●愛甲武司

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 ニッポン放送・吉田尚記アナウンサー発案によるラジオ「Hint」を追いかける連載の2回目は、デザインを担当したメチクロ氏にご登場いただく。メチクロ氏は、クリエイティブブランド「MHz」を主宰する造形家でありデザイナー。フィギュアの原型からグラフィックデザインまで、幅広く活躍している。そんなメチクロ氏がHintのプロジェクトに関わることになったきっかけと、デザインを進めて行くうえでのアプローチについて聞いた。

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「ラジオとはなにか」を問う

 連載の初回にご登場いただいた吉田尚記アナのコメントにもあるように、メチクロ氏がHintのプロジェクトに参加することになったきっかけは、吉田氏がグッドスマイルカンパニーの安藝貴範社長に相談を持ちかけたところから始まる。安藝社長とメチクロ氏は2015年夏に、「とにかくかっこいいヘッドホンを作る」という発想で開発された「THP-01」を共に開発した間柄だ。そもそも、吉田氏が「かっこいいラジオを作りたい!」と考える元になったのがTHP-01である。だから、そのデザイナーであるメチクロ氏に話が行くのも当然の流れではあった。

 「まずは安藝さんから吉田さんにLINEのトークをつないでもらう形でした。深夜に」とメチクロ氏は笑う。

 メチクロ氏(以下敬称略):吉田さんとの話の中で出てきたのは、単刀直入に「かっこいいラジオ」ということでした。私は普段、ハイエンド寄りのオーディオやマニア向けのオーディオの開発にも携わり、デザインも行なっています。

 でも実は、どこから来るリクエストも同じなんです。それは「かっこいいものを作りたい」という話で。しかし、きちんとすべての意味を考えると、それぞれのメーカーのいう「かっこいい」は意味が違うはずなんです。きっと、「かっこいい」という言葉よりもっと大事なことがありそうだと。ですから、吉田さんには挨拶もそこそこに「ラジオってなんですか?」というお話をさせていただきました。

メチクロ氏がデザインを手掛けた「toon WORKSHOP THP-01」

 メチクロ氏が「ラジオとはなにか」というという問いを投げかける理由は、彼がデザインを行う上でのスタイルにあった。

 メチクロ:どんなデザインをする時でも「そいつがなんなのか」を知る必要があります。いろいろな角度から見ることで見えてくるものがあるので、ニッポン放送には何度かうかがいました。

 「ラジオとはなにか」を探り始める前、メチクロ氏がラジオに抱いていたのは「終わろうとしているなにか」だった。

 メチクロ:家電メーカーでプロダクトを作る側は、引いてしまっている領域ですよね。ユーザーから見ても、ネットを介し、ラジオというデバイスを必要としない聴取が増えている。

 だからこそ、メチクロ氏は、ラジオ局に「ラジオとはなんなのか」を聞くところから始めたのだ。打ち合わせは、普通の会議室ではなく、実際に放送が行われるスタジオなどでも行われた。そこがラジオにとっては「現場」だからだ。

 メチクロ:素晴らしいプロのエンジニアの方がいっぱいいる場所なので、いろんなところから、いろんなアドバイスをいただけるんですよ。聞いてもいないのに(笑) そこから手探りで、「ラジオとはなにか」「どういうラジオが必要なのか」を探っていきました。

 吉田氏をはじめ、ニッポン放送関係者とのミーティングを繰り返して、メチクロ氏はラジオというものをつかんでいく。結果的に得たのは、「終わりつつあるもの」とは真逆のイメージだった。

 メチクロ:「そうか、すごく今っぽいな」と思うようになりました。ラジオこそ今っぽい。ソーシャルなコミュニケーションが広がる昨今、マスなメディアとの断絶が大きくなっています。マスと言われていたメディアの中ででも、(ラジオは)相互でパーソナルなコミュニケーションがすごくしやすい、ソーシャルネットワークに近いメディアなんだな、とまず思いました。ちょっと考え方を変えると、「双方向性」もある。他の媒体よりもずっとやりやすい。だから、メディアとしては全然アリだと。

ハイエンドオーディオの「正解」から離れて

 メチクロ氏は、大手オーディオメーカーのハイエンドオーディオ機器のデザインも担当しており、「音を出すガジェット」には造詣が深い。デザイン的な部分だけでなく、技術的な側面や官能的な側面もよく理解している。その上で「ラジオ」を作ることには、また別の意味合いを見出していた。

 メチクロ:オーディオをずっとやっていると、「いい音」という最適解を目指そうとします。実はある種の「幻想」なんですけど、それがあるかのように作り込んでいきます。そのメーカーなりの、いろいろな方向で「いい音」を目指していくわけですけれど、それとは違うチャンネルで、「ラジオとしてのいい音」があるんじゃないか、と。

【吉田アナ・メチクロ氏・Cerevo柴田氏が登壇!】2016年8月26日(金)開催のIoTとハードウェアスタートアップの祭典“IoT&H/W BIZ DAY 2 by ASCII STARTUP”ではHintのセッションを実施予定です。参加登録はイベントレジストまたはPeatixの申し込みページからお願いします。

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