ASCII倶楽部

このページの本文へ

ASCIIネクストイノベーターズ「新型ラジオハードウェアHintの気配」 第4回

「Hint」の舞台裏では何があったのか

グッドスマイルカンパニー・安藝貴範社長に聞くモノづくりプロジェクトの神髄

2016年09月20日 18時00分更新

文● 西田宗千佳 編集●北島幹雄/ASCII STARTUP 撮影●曽根田元

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷

 ニッポン放送・吉田尚記アナウンサー発案によるラジオ「Hint」を追いかける連載の4回目は、プロジェクトを推進する3軸のひとつ、グッドスマイルカンパニー(以下グッスマ)の安藝貴範社長だ。グッスマは、サブカルチャーコンテンツに興味がある方なら知らない人のいない、フィギュアを中心に活躍するメーカーだ。

 今年2016年は、グッスマ創業15周年にあたる。Hintは「ラジオ局が作るラジオ」として注目されているが、その推進役に、一見家電とは離れた会社に見えるグッスマが関わっていることも驚きのポイントだ。グッスマがなぜHintに関わることになったのか、そして、どういう効果を生み出していこうとしているのかを聞いた。

クリエイターを「つなぐ」ことからプロジェクトがスタート

グッドスマイルカンパニーの安藝貴範社長

 「僕は、イケてるやつとイケてるやつを組み合わせるのが好きなんです」

 安藝社長はそう笑う。グッスマ創業の理由についても「なんで始めたか、わからないんですよね。やりたい人がいて、それを手伝ってきたケースが多い」と話す。だが、その中にこそビジネスがある。

安藝社長(以下敬称略):クリエイター同士のスキーム構築というか、「どうすればファンに届くのか」という部分については、作家性が強ければ強いほど作家本人にはわからなかったり、苦手だったりするんです。そういうケースに僕らがいろいろやっていくことが多い。市場が足りないのか、プレゼンテーションが足りないのか、それとも「力」が足りないのか。そこを助けることに、グッドスマイルカンパニーの基本的な機能がある、と思っているんです。

目標金額を倍以上の形で達成したHint

 吉田アナとラジオを作ることになったきっかけは、本連載で何度も述べてきたように、深夜に吉田アナと安藝社長がチャットしていたことがきっかけだ。吉田アナを「個人としてすごく高く評価している」という安藝社長は、「とにかくカッコいいラジオが作りたい」という吉田アナの言葉に、同社とつきあいの深いデザイナーであるメチクロ氏を結びつけることで何かできるのでは……と考えたのだ。

 吉田アナとメチクロ氏が結びついたのは、メチクロ氏がデザインをし、グッスマが製品化を手がけたヘッドホン「THP-01」の存在あってのものだ。だが実は、THP-01に至るまで、グッスマの「家電的なものへのチャレンジ」は数年間続けられていた、という。

安藝:あの形になるまで、2、3年掛かっているんですよ。刀型のヘッドホンだったり、ケーブルが組紐編みだったり……。FOSTEX(THP01の開発を担当したオーディオメーカー)さんからメチクロさんを紹介され、「彼を活かそう」ということで、THP01は「変形ヘッドホンで行こう」ということになりました。彼とはそれ以来のつきあいですね。

 吉田アナは、ラジオに人一倍思い入れがある。それは、安藝社長にも伝わっていた。その思いに、力のあるデザイナーであるメチクロ氏を合わせられれば……というのが、安藝社長の発想だった。それは、吉田アナのラジオへの思いから感じたことを、ファンに届けるための「仕掛け」でもあった。

安藝:吉田さんからの話は「ラジオを再発明したい」ということでした。でも、それはちょっと重たい。文化的な話で終わってしまい、発見や驚きを感じてもらいづらいかも知れない、と思いました。その解決方法として「カッコいい」というものがあるんです。メチクロ・ヨッピー(吉田アナ)のコンビで「カッコいい」ラジオができれば、ある一定の人達にウケるものができる、と考えたんです。

 また、今回のプロジェクトについては、「ニッポン放送が関わる」ということも大きい。その価値を安藝社長は高く評価している。

ニッポン放送

安藝:面白いですよね。ニッポン放送がラジオを作ること自体が。なんというか、懐の広い会社だなあ、と。ああいう計画にゴーが出ること自体に興味を持ちます。会社としても非常に熱意をもってやっていただいています。吉田さんを泳がしているのか、それを許す空気感があるのか。やはり危機感があるのでしょう。

ドミネーターがCerevoとグッスマをつなぐ

 安藝社長は、グッスマから生まれた数々の製品と同じように、「才能と才能」を組み合わせることで、ニッポン放送が作るラジオ、という新しい世界を実現しようとしていた。次に必要になるのは何か。もちろんテクノロジーだ。

 そこで安藝社長は言葉を切る。

 「そこでCerevoさんと……、ということになるんですが……」

 Cerevoとの出会いは、少々変わったものだったのだ。

 グッスマとCerevoがつながったのは、Cerevoが2016年2月に発売した「ドミネーター」だった。ドミネーターはアニメ『PSYCHO-PASS サイコパス』作品内に登場する銃を、変形に至るまで実際に動く形で実現したガジェットだった。安藝社長は語る。

安藝:ドミネーターは、悔しかったですね。あれは僕らがやりたかった。ああいう方向で、ある種のアーリーアダプターに「精密電子玩具」を届ける、ということをやられてしまった。

 まあ、ホビーとしては一線を越えた値段だと思いますが(苦笑)(注:ドミネーターの価格は税抜き7万9800円から)。だからこそ組んでいきたいんです。Cerevoのようなコンパクトな会社と、我々は相性がいい。あの「何者も恐れていない感じ」は、僕らの駈け出しの頃に近い。

ドミネーター発表会では、司会進行は吉田アナウンサーが務めた。右はCerevo岩佐琢磨代表取締役

 ドミネーター発表後のある展示会のCerevoブースに、グッスマの担当者は直接出かけていったという。彼が名刺を見せ挨拶すると、Cerevo・岩佐社長はこう言ったという。

カテゴリートップへ

この連載の記事

ASCII倶楽部の新着記事

会員専用動画の紹介も!