カシオ計算機の電子辞書「XD-CV810」。タイ語・ベトナム語を収録する出張ビジネスマン向けの製品だが、むしょうに欲しくなる。
幅108.5×奥行き87.0×高さ19.0mmと小さいのに、堅牢設計「TAFCOT」採用、単3形アルカリ乾電池1本で最長約100時間駆動。小さいのに丈夫で電池が長持ち。バッグに入れやすく、軽くてかわいい。
これだけで買う理由になる。カシオはXD-CV810をもっと推すべきだ。
カシオが1996年に電子辞書「EX-word XD-500」を発売してから今年で20年。世界累計販売台数は3000万台に達した。カシオCES事業部 大島 淳 12商品企画室長の話から、電子辞書の進化をたどるとおもしろい。
はじまりは電卓開発でつちかったLSI設計技術を生かして試験開発した「TR-2000」(1981年)。デザインは完全に電卓だった。
電子辞書業界への本格参入となったXD-500は「薄型・軽量」「5インチ大画面」「タッチパネル」と最新技術をつめこんだ。デザインは電子辞書というよりはPDA。自信はあったが、利用者層の高校生には不満を残す出来になった。
ペンはキーボードと比べて入力がしづらい。学校で使う辞書も入っていない。発音記号が読めない……ようするに利用者目線が欠けていた。
反省から開発したのが1999年の「XD-1500」。大画面はそのまま、キーボードを使用し、収録する辞書を見直した。英語はネイティブの音声を初収録。これが現在までつながるEX-wordの原型となった。
利用者を高校生にしぼって開発したのが、古語辞典を収録した高校生向けモデル「XD-S1200」(2001年)。学校で机から落としたり、満員電車で押されても大丈夫な、堅牢設計の「XD-H4100」(2004年)が続いた。
以降、高校生から大学生に上がっても使えるようにと辞書をSDカードで追加できるようにした「XD-LP4600」(2005年)、難読漢字など読めない言葉を手書きできる「XD-SW4800」(2007年)、単3電池で100時間もつカラー液晶ディスプレーモデル「XD-A10000」(2010年)などが続く。
単純に言うと、高付加価値モデルを増やしていった。
最近では冒頭のように社会人向け電子辞書ラインナップも拡充している。力を入れているのは英語学習用の「EX-word RISE」。専用の授業アプリ「クラブエクスワード」を配信、汎用機のスマートフォンにはまねのできない「英語学習専用機」としての設計にこだわって開発を進めている。
僭越ながらわたしの意見を書くと、冒頭にあげたXD-CV810のように「欲しくなる電子辞書」をたくさん作りつづけてほしい。多機能・高付加価値・専門特化もいいのだが「使いたさ」と「欲しさ」は別のところにある。理性ではなく欲望を刺激する電子辞書があってくれれば、ついでに英語学習もするかもしれない。
盛田 諒(Ryo Morita)
1983年生まれ、記者自由型。戦う人が好き。一緒にいいことしましょう。Facebookでおたより募集中。
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