トリチウムで発光します(してました)
トリチウムは水素の放射性同位体で、普通の水素の原子核が陽子ひとつなのに対し、トリチウムの原子核はひとつの陽子と2つの中性子。質量数が3の重水素ということで三重水素とも呼ばれ、弱いβ線を放出します。化合物にして塗ると自分で発光し、夜光塗料として最初のMIL-W-46374の頃から使われていたのですが、弱いとはいえ放射性物質です。1975年5月にMIL-W-46374Bが策定された際、トリチウムを使用していることを明確にするため、文字盤の中心部にありハッキリと見える場所にトリチウムを示すH3という文字と、放射線マークを入れることが追加されました。
このトリチウムをより安全なものにするため取り入れられたのがトリチウムバイアルです。これはトリチウムガスを密閉されたガラス管のカプセルに封じ込め、内側に塗られた蛍光塗料にβ線が当たって光るというもの。同時に放射線量を25mCi(ミリキュリー)、現在の単位だと925MBq(メガベクレル)以下にすることという規定も追加され、安全性が高まりました。これは現在の日本のT25(25mCi以下)という規制値と同じものです。ちなみに、トリチウムの放射線は極微量でエネルギーが弱いため、ガラスどころか調理用ラップも通過できないそうです。
トリチウムの半減期は約12.3年。もう25年ぐらい経っているので、4分の1ほどになっている計算になります。実際、残念ながらもうほとんど光りません。25年という年月の長さを感じたりしますね。
裏面には11行に渡って型番などが記されています。
- 1 WATCH, WRIST
- 2 GENERAL PURPOSE
- 3 MIL-W-46374E-TYPE 1
- 4 STOCKER & YALE-90640 CODE
- 5 MILLICURIES-UNDER 25-3H
- 6 NSN 6645-00-066-4279
- 7 MODEL. SandY 490
- 8 NRC MFR ID NO. 20-16532-02E
- 9 USA CONTR. 6S-00F-300001
- 10 DEC. 1991
- 11 SWISS MADE
1、2行目は説明文。一般用途の腕時計といったところです。3行目は仕様。MIL-W-46374EにはクォーツのTYPE3などもありますが、このモデルは機械式のTYPE1。最も簡素なモデルです。
4行目はメーカーとCAGEコード。メーカー名はSTOCKER&YALE。CAGEコードというのは米国国防総省が契約をする民間企業に割り振った5桁のナンバー。Commercial And Government Entityの頭文字をとってCAGE(ケイジ)と呼ばれます。STOCKER&YALE社に割り当てられた業者コードみたいな感じです。
5行目は放射線仕様と放射線源。25ミリキュリー以下、3H(トリチウム)です。6行目はナショナルストックナンバー。米国国防総省が使用する物品管理ナンバー。
7行目はモデル名。SandY 490。SANDYでサンディーだと思っていたのですが、SアンドYですね。8行目はNRC ID。NRCは米国原子力規制委員会。STOCKER&YALEの同委員会での登録番号です。
9行目はNRCの契約番号。これはよくわかりませんでしたが、たぶんこのモデルの契約番号ではないかと思います。10行目は米国国防総省の受理日付。1991年12月。同年10月にはすでに次のMIL-W-46374Fが策定されたりしています。11行目は生産国。スイス製!
この時計のミルスペック番号はMIL-W-46374Eで、その策定は前述の通り1989年5月です。1991年10月にMIL-W-46374Fになったということは、ほんの2年程度で改訂されたということになります。昔この490が大量に払い下げられたのも、その改訂により古くなってしまったからだと思いますが、逆にいうと短い期間にしか作られなかったので、MIL-W-46374E準拠のモデルはのちのち希少になっていくのかも……。
2個買って1個は使わずにしまっておけばよかったかなぁ(先見の明なし)。

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