「居酒屋」がカテゴリーにある理由は……!?
業種カテゴリーは、世界中の地図で共通化されている。その正確な数は公表されていないが「1000以上」とされている。これらの選択は、「人力。必要と思えるものを突き合わせながら、『便利か便利じゃないか』を考えて選んだ」(ハーマン)という。
例えばレストランの業種には、前出の「居酒屋」のほか、「しゃぶしゃぶ」もあるし、中国料理は「四川」「広東」で別れているし、「オイスターバー」もある。
「居酒屋に行きたいんだ、という話は、海外から出張してきた人にもよく言われますしね。なによりこれで、私が説明しなくても良くなる」と須之内さんは笑う。
業種カテゴリーが日本で特に有用であることには、日本ならではの理由もある。日本の地名は住所の「枝番」で呼ぶが、海外の場合には「道の名前」をベースにする。後者の場合、道さえ分かれば地図と突き合わせなくても現地に到達できるが、日本のような仕組みでは難しい。「目的地の周囲になにがあるか」という情報が大切になる。だから、「そこの近くにホニャララというIzakaya Restaurantがある」という情報があることで、土地勘のない人でも街を歩きやすくなるのである。
「その上で、大使館や病院などを重視するようにしています」とハーマンさんは説明する。旅行者にとって緊急時に必要になる場所は、やはり重要なのである。
この作業は、須之内さんとハーマンさんの2人が担当している。世界中のものを2人で、だ。サービスに実装するためのコードを書くことから、業種カテゴリーの選定までである。もちろん大変な仕事量なのだが、それでも2人でできているのには訳がある。
「他のチームが作ってくれた部分が、勝手にやってくれるところもあるんですよね」、そうハーマンさんは言う。
実はそこが、Googleマップのシステムの妙でもある。後藤さんは次のように説明する。
「Googleマップは様々なチームが協力して作っているプロダクトです。例えば、地図を拡大した時にどの項目を優先に表示していくか、といった部分は、そこを専門にやっているチームがいます。そこは彼らに任せて、自分たちのタスクに集中することで、全体として最適なプロダクトになるよう、工夫されているのです」
旅行者にも現地の人にも優しいサービスを目指して
地図の翻訳、という作業は、Googleマップが生まれて以降、綿々と行われているものである。翻訳自体は2007年からスタートしているもの。業種カテゴリー翻訳も、英語向けは3月16日から動いていたが、今回は19言語まで拡大してのスタートとなる。
一方で、単純に翻訳してしまっては、むしろ現地で通じなくなる。そのため現在は、現地の読み方をできるだけ再現する「トランスリテレーション」というやり方を採用する部分もある。例えば「目黒通り」を「Meguro Street」ではなく「Meguro Dori」とすることで、より現地で伝わりやすくしているのだ。
また6月の第1週から、各地点や通りの名前については、「現地語」と「翻訳語」の両方を表示する形になった。これは筆者も経験があるが、タクシーで現地語に向かおうとした時、Googleマップに「日本語での地名」だけが表示されていると、それを運転手さんに提示しても理解してはもらえない。そこで、現地語と日本語の両方することで、自分と運転手さん、両方が場所を把握できるようにしているのだ。この点は須之内さんが長くこだわった部分だという。
もちろん、まだこれでも完全とは言い難い。
そのためグーグルでは、積極的に「誤訳のフィードバック」を求めている。Googleマップの翻訳は、人の手による部分もあるが、多くの部分が機械翻訳だ。通りの名前などはそれでもOKな場合が多いが、会社名などの場合、固有名詞の読み方を間違い、結果、翻訳も間違いになる、ということがある。そういった場合には、「フィードバックの送信」から「マップを翻訳」を選ぶことで、「より正しい翻訳」をグーグル側に伝えることができるようになっている。
また、翻訳チームでは別に、「Google翻訳コミュニティ」というサービスを提供しており、ここの中で、機械翻訳で作られた地名を評価する試みも行われている。そうした結果はバックエンドで統合され、我々が日常的に使う地図へとフィードバックされていく。
Googleマップは巨大な「システム」が支えるものである。しかし一方で、人々のアイデアや献身によって支えられている部分も少なくない。そういう意味ではとても「人間臭い」サービス、と言えるのではないだろうか。