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『角川インターネット講座』(全15巻)応援企画 第14回

【前編】鹿野司氏、堺三保氏、白土晴一氏「設定考証ブラザーズ」かく語りき

なぜNetflixはとんがった企画に金を出せるのか?

2016年01月16日 18時00分更新

文● 田口和裕 編集●村山剛史/ASCII.jp

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インターネットを表現するのは難しい

―― インターネットが効果的に使われている作品を挙げるとすれば?

一同 それは難しいなあ……

―― あら。

鹿野 そういうものはないよ(笑)

白土 たぶんないと思いますよ。

 だってインターネットでしょ? それはなかなか難しい。

鹿野 映像で表現されているのはインターネットじゃなくてヒューマンインターフェースなんです。たとえばインターネットの表現としてパソコン通信のような画面を見せたり、今はスマホなんかを使うシーンもありますが、それらはあくまでインターフェイスを見せてるだけです。

 つまり、通信や情報交換をどのようなインターフェイスで出すかというのはたくさん表現されているけど、その背後で動いている仕組みであるインターネットを直接描くのはエンターテインメント作品ではかなり難しい。

白土 「水道をどう描く?」って聞くのと同じ話だと思います。

 ハッカーの話はたくさんあるけど、描写としてはハッカーが超高速でキーボードを叩いてるか、インターネットの内部にジャックインして、サイバースペースの中でなんかやってるって絵があるだけで、実際なにをしているかは描かれない。

だれもゴミ箱を漁ってパスワードを発見するハッカーなんて求めていないんだよね(堺)

鹿野 だって本物のハッカーはアプリ走らせてるだけで、あまりキーボード叩いたりしないからね。

白土 ハッカーのシーンの設定をなんとかしてくれって依頼は来るけど、うまくいった試しはあんまりないですね。

鹿野 みんなが思ってるだろうハッカーのイメージを描くしかないよね。

 「スコーピオン」っていう本物のハッカーをモデルにしたアメリカのテレビドラマが去年から始まったんだけど、やっぱりキーボード叩いてるだけじゃ一般向けのアクションにならないので、無理やり理屈を付けて低空飛行するジェット機にスポーツカーで地上から追いついてケーブルをつないでアクセスするってシーンを1話からやってて……。

白土 そこまでくると逆におもしろいじゃないですか(笑)

 おれはこの1話見た瞬間にもういいやって思ったんだけど、世間的には当たって2シーズン目までやってるんだよ。世の中なんてそんなもんなんだって(笑)

鹿野 だれもインフラそのものについては興味がない、と。

白土 これがインターフェイスになると一変するんですよ。作品にもよるんですが、CGモニター打ち(あわせ)というのがあるんです。たとえばロボット物なら、パイロットが見るモニターのデザインと情報をどこにどう配置するかを考えるわけ。なぜならそれを読む視聴者がいるから。

鹿野 昔はそんなの一時停止してまで見る人は少なかったから適当だったんだけど、今はいちいち「ガンダムのコックピットのここに数字が出てるけどこれはなんだ?」って読む人がいるわけよ。

 「エウレカセブンAO」の設定考証をやったときも、契約書の文字とか、ありとあらゆる画面に出てくるデジタルの文章作りましたね。

白土 僕は「ヨルムンガンド」のときに武器商売の取引に関する書類を全部英語で書きました。

鹿野 おれも「機動戦士ガンダム THE ORIGIN」でやってますよそれ。「要る」って言うからさあ(笑)

 昔はアニメに登場する英字新聞の英語なんかよく見るとでたらめなものが貼ってあったりしたじゃないですか。それが今アニメに関して言えば許されない。

白土 新聞もたくさん書きますし、モニターの中の数字も一応計算して出してますよ。

 オレはなるべく数字が出ないようなモニターを考えてくれって言ってる。

鹿野 架空の文字にするとかね。あと、原作での描写が大前提という場合もあって。たとえば「~THE ORIGIN」の2話ではテキサスコロニーから月が見えるんですよ。本当はコロニーから絶対月は見えないけど、原作で月が描かれているので、そういった場合はそちらを尊重します。

 やっぱり映像で映える絵にしなきゃってことになるよね。そうなると結局、画面の前でキーボード叩いてるハッカーの人になっちゃうという。

たぶんハッカーって魔法使いと同じ意味あいでしか使われていないですよね(白土)

白土 「ウォッチドッグス」というゲームですでにやってるけど、エンターテインメントのハッカー像は、もうスマホに集約されるんじゃないですかね。アクションしながらハッキングできるし。

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鹿野 たまに、すごくクリエイティブな形で全然違うハッカーのイメージを出してくる人もいるけど、それは映像側の天才なんだよね。

白土 論理のほうではなかなか出しにくいですよ。

鹿野 そう。リアルはたいしておもしろくない。ハッカーと言ってもリアルなハッカーがほしいわけじゃなくて、作劇のなかでハッカーというスーパーマンがほしいだけだからさ。

 一方、実際のハッカーがやってることは、ゴミ箱漁ったりして物理的にパスワードを盗み出す行為だったりする。

鹿野 ソーシャルエンジニアリングがハッキングの極意だからね。セキュリティーホールを狙うとかさ、そういうのは現実として重要なことだけど、ドラマとしてはおもしろくないんだよ(笑)

Q 本物のハッカーは何をしている?

 汚い部屋でパソコンに向かうTシャツにジーンズ姿の若者。目にも止まらぬ速さでキーボードを叩くと、真っ黒の画面に文字が滝のように流れ、やがてお目当ての金庫の扉が開く……。フィクションのなかのハッカーはまるで、杖を振る代わりにキーボードを叩く魔法使いのようだ。

 だが、現実世界では政府機関や大企業への不正アクセスが頻発、安全保障の一分野として認識されている。もはやハッキングは魔法などという牧歌的な存在ではなく、相手国家を攻撃するための武器にほかならない。角川インターネット講座 第13巻『仮想戦争の終わり サイバー戦争とセキュリティ』では、このインターネットを舞台に日夜繰り広げられている「戦争」の実情を詳しく解説している。監修は土屋大洋氏(慶応義塾大学院政策メディア・研究科教授)。

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