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『角川インターネット講座』(全15巻)応援企画第12回

田中浩也准教授(慶應大学SFCソーシャルファブリケーションラボ代表)、青木俊介氏(ユカイ工学CEO)が語る

Makerムーブメント最前線~これまでの10年とこれからの10年

2015年12月19日 18時00分更新

文● 二瓶朗 編集●村山剛史/ASCII.jp

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10年で変わる! 国内のモノづくり
「モノをソフトウェアのように作れる」ようになる

天井まで届こうかという巨大な自作3Dプリンター“ArchiFab”。さまざまなペレット状の材料をつかうことができる
巨大3Dプリンターで作った特殊な内部構造を持つパーツ。軽量で、かつ予想以上に頑丈だ

田中 BOCCOって工場で量産ですよね。いくつ作りました? 工場には最小ロット数がありますけど。

青木 数千のレベルで、最初は国内で作りました。国内で生き残ってる会社って、小ロットに対応してるところなんです。大きい仕事はほとんど海外に行っちゃっているので。わりと試作から小ロットのモノまで対応してくれます。

田中 究極的には、Amazonには将来、フルカラーの3Dプリンターを配備しようという計画があるらしいんです。ユーザーが何かを注文したら、一番近い場所の倉庫でオンデマンドで1つ作って届けてくれちゃうかもしれない。

 海外からダンボール箱に入れて運んだら2日以上かかるところが1時間で届くし、あらかじめ作り貯めておかなくても、注文された瞬間から作り始めるので絶対在庫の無駄が出ない。もちろん、現在の3Dプリンターでできることって精度や表現力、耐久性で限界があるので、いまのところは工場での量産にはいろいろな意味で敵わないんですけど。

 でも、3Dプリンターが今の10倍速になってフルカラーになって、もっと精度が高くなって、地域ごとにセンターができたら「1つだけモノをつくる」という時代がほんとに来るかもしれないと思うんですよ。

 「あらかじめ量産して売る(そして売れ残る)」という流れではなく「注文が来たときに1つだけ作る」。別の言い方でいえば、ニーズドリブンでモノがつくられる。それで初めて超スマートな物質の循環がはじまると思うんです。

遠藤 それはどのぐらいのレンジで実現されそうですか?

田中 5年でしょうか。僕はそういう研究をしてるので。自分でやりますという宣言ですけど(笑)。

遠藤 5年! どのような種類のモノができるんでしょう?

田中 まず、ロボットは大きいと思います。オンデマンドで作れて、3Dプリンターでカスタマイズや修理ができるようになるはずです。東京五輪ではロボットも注目されるはずですしね。

 あ、「5年」は目標ですよ。というか、それは研究室レベルでの話で、社会に展開するのはまだその後でしょうね。「10年」で実現しましょう……冒頭で「2005年から10年経ってMakerムーブメントがここまで来た」というような話をしましたから、「次の10年」としておいたほうがいいかも(笑)

青木 そういったオンデマンドなモノづくりって、どんな分野で必要とされるのでしょう? わりと農業用とかプレハブだったりとかで可能性があるのかなってなんとなく思うんですけど。

田中 農業や林業のような、これまでデジタルの恩恵をあまり預かってこなかったような1次産業の分野でのインパクトも大きいと思います。あとは看護、福祉、医療などのコ・メディカル領域なんじゃないかなぁと思っています。多様な装具や自助具がつくれるといいですよね。

 今期から、看護医療学部や、訪問介護士さんたちとプロジェクトを始めています。訪問介護士さんって1日5件ぐらい高齢者の自宅を回ってお世話して帰ってくるんですが、その現場では欲しい「道具」が無限にあるんだそうですよ。

 世話をしている人の手をある角度で固定する台とか、特定の姿勢をキープしてくれる道具とか。だから、3Dプリンターを持って現場を回ってる訪問介護士さんが1人いれば、現場で必要なモノを「ピッ」って作って取り付けていくみたいことができるんじゃないかと。

遠藤 そういう介護や医療の現場で必要な「パーツ」って、「動かないロボット」みたいなものですよね。

田中 そうですね。「動かないヒューマンアシスト」といったところでしょうか。人間はひとりひとり身体が違うから、特に医療分野だと3Dプリンティングが必要とされる場面はすごく多いです。高齢化社会に対応するコ・メディカル・ファブリケーションの研究は進めていかないといけない。

そろそろロボットの「ベーシックなUI」が決まってもいい時期

遠藤 青木さんが携わっている世界は5年、10年でどうなっていくんでしょう?

青木 そうですね、僕たちは家の分野にすごく注目しているので、ロボットがインターフェイスとして使われることで暮らしやすくなるのでは、と思っています。

 ノートパソコンって20年ぐらい形が変わってません。初期のVAIOも十分薄かったし、キーボードは絶対必要で。だからスマホももうこれ以上あんまり変わらないんじゃないかと思っていて、その代わりに、インターフェイスとなるロボットが出てくるのではと期待しています。

UI・記号・形状などの“スタンダードを発見すること”が、ロボットを次のステージへと進化させるカギになる!?

遠藤 IoTで思うのは身の回りのモノがすべてネットにつながるのってちょっと怖いところがあると思うのです。そういうときに、ロボットが、ゲートキーパーというかエージェント的にいてインターフェイスになってくれるといいですよね。

 そのときに、ロボットと付き合うための“言語”も含めて、共通のインターフェイスがあるといいですよね。イメージとしては“時計”の針みたいに、かなり自由に表現できるけど同じ意味が伝わるみたいな。

田中 それは面白い。パソコンやスマホでGUIとなるウィンドウとメニューが決まったときみたいに、ロボットにもそういった「ベーシックなUI」が決まる時期なのかもしれませんね。なるほど、ちょっと今日コミュニケーションロボットに目覚めました……今までロボットについてこういう風に考えたことはなかった(笑)

 つまり、BOCCOって抽象化されてるのがいいんですよね。つまりUIっぽいですよね。石黒さん(編注:石黒浩大阪大学教授)のような超リアル路線ではなくて、高橋さん(編注:ロボットクリエーター・高橋智隆氏)のカッコイイ路線ともちょっと違って。

遠藤 10年経つと、なんで10年前はロボットを作るのにあんな毎回毎回違う形にしてたんだ? なんであんなに記号が全部違っていたんだ? とか思われる日がもしかしたら来るかもしれない。

田中 Appleじゃないですけど、ユーザーインターフェイスガイドラインが決まると新しい展開が始まりそうですね。ロボットのビジュアル、ジェスチャー、音声。そういうのを含めたスタンダードが。なるほどね。そういうことが進んでいたんですか。素晴らしい。そして青木さんはユカイ工学をこれからどういう会社にしていきたいんですか?

青木 「パーソナルなロボット」というものを定義する会社になれたらいいなと思っています。固定電話とか留守番電話とかラジオとか、そういったモノのほうがこれからも変われる余地があると思っていて、それらの機能をロボットに入れられたらもっと便利になるかなと考えています。

遠藤 家庭電化製品の中にロボット的な要素が入っていく?

青木 そうです。固定電話はいずれなくなると思うのですけど、固定電話の「場所が決まっていて必ずそこに着信する」という機能自体は便利ですよね。そういった機能をロボットに置き換えられるんじゃないかなと。

遠藤 非常にソフトウェア的なハードウェアじゃないですか。では今日のテーマの「モノを作る」ところに関していうと今後どうなっていくんでしょうね?

田中教授「BOCCOは一家に1台のコミュニケーションロボットだから、置き場所はみんなが集まるところ……たとえばここ(リビングのテレビの上)なんてどう?」

青木 僕は「モノづくり」は国内にまた帰ってくると思います。たとえばモノづくりをする企業が集積している深セン(編注:中国広東省の同国第4位の都市)では、熟練した女工さんの月給がどんどん上がっていて、だいたい10万円弱ほどだそうです。日本の東北地方とそこまで差がないのでは無いでしょうか。かつては国内にも大きい工場がたくさんあったものです。だから、国内でモノづくりのメーカーをやるチャンスはいまもあるのではと。

田中 コストが判断材料にならないところまで来ているとすれば、結局「ユーザーの近くでつくる」ことが大切になると思うのです。メイカーがつくって、ユーザーがつかって、一緒につくりなおして、というサイクルを回すしかないのですから。

遠藤 それとても重要ですね。そういうことが情報だけでは伝わらないから、今日は、お2人から大切なお話がお聞きできました。田中先生、青木さん、本日はありがとうございました。

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