物質・材料研究機構は10月20日、使用するレアアース(レアメタル)が少なく、従来のネオジム磁石よりも強力な磁石になる新物質を開発したと発表した。
現在、HDDのような小さなものからEVやハイブリッドカー、発電機まで幅広く使われているネオジム磁石は世界最高の磁力強度を持ち、1982年に開発されて以来、これ以上の強度を持つ磁石は開発できないと言われていた。その一方、ネオジム磁石はネオジム(Nd)やジスプロシウム(Dy)はほぼ全量を輸入に頼っているレアアース(希土類元素)であり、いわゆるチャイナ・リスク(中国によるレアアース輸出制限以降の材料調達の不安定性)から、レアアースの使用量を抑える磁石材料の研究開発が進められている。
新たに合成された「NdFe12Nx」は異方性磁界8テスラ、飽和磁化1.66(±0.08テスラ)と、これまで最強とされていた磁石物質「Nd2Fe14B」を全温度域で上回る性能を持ち、耐熱性も優れているという。ネオジム磁石がジスプロシウムを8%含むのに対し、新物質はジスプロシウムを使わなくても安定し、ネオジム自体の使用量も少ない。また、レアアースではないものの材料として高価なホウ素(B)も使わない。
ただし、現時点では厚み350nmの薄膜を成長させ、物質の特性を調べただけという段階。さらに合成には、酸化マグネシウム単結晶基板の上にタングステン結晶を成長させ、窒素中で加熱させて結晶格子中に窒素を入れるといった処置を行う。実用化には粉末の大量製造、磁石の形に固めるというプロセスを開発する必要がある。とはいえ、“これ以上の磁石強度は出ないだろう”と言われていたものを超える物質が32年ぶりに合成されたことは新たな磁石開発の可能性を開くものと言える。