「ドラえもんのひみつ道具100展」が内陸最大の街、中国四川省の省都「成都」で開催された。
この時、地元新聞の「成都日報」が「中国の各都市に展開されたドラえもんの文化活動のうしろの政治的意義について考えねばならない」「世界の大改革時期において、文化の影響は計り知れず、ソフトパワーは重要である」「日本政府はドラえもんを出す一方で、中国脅威論を防衛白書で挙げており、矛盾している」などと書き連ねた記事を掲載した。
中国の主要ネットメディアは「これはPVがとれる」とばかりに「こんな記事があったぞ」とニュースで紹介。「リーダー様、よくわかりました、ウルトラマンについても語ってただけますか?」「ドラえもんを恐れるレベルまで落ちぶれたのか?」などと、ネットユーザーの間でこの論説をバカにするコメントが万単位で書き込まれ、記事と反応がセットで書き込みコメントの何倍もの読者に読まれたのだった。
この文章からも、中国は今も日本のようにコンテンツ大国になりたいことがわかる。実際これまでも、コンテンツ大国になるために、「アニメ産業開発区(動漫園・国家動画産業基地)」を中国各地に設定して、数多くのコンテンツを生み出してはいる。
アニメやゲームを内包する「クールジャパン」は、ドラえもんをはじめとしたさまざまなアニメやゲームのコンテンツそのものに加え、ファンによる二次創作もキーとなっている。
時間もお金もない学生時代……
発展の土壌が乏しい中国のサブカル文化
中国人のサブカル事情を紹介する記事は大体「中国のサブカルイベントにやってきた」「中国人オタクの日本語が上手で歌まで歌える」「あまつさえ日本人顔負けなほどアニメに詳しい」ことから、「若い中国人の日本への関心は高い」といった締めに持っていきがちだ。
それは正しいといえば正しいのだが、中国のオタクは結局“収集して終わり”の人が非常に多い。詳しいと思われる中国人のオタクを見てみると、コレクションを集めて、そこそこの知識を持つ人は多いのだが、ウンチクを語ったり、脳内で妄想する人は少ない。
日本のアニメ、ゲームに限らず、中国にある鉄道や歴史を見ても、日本のオタクらしいオタクというのは多くない。たとえば中国語で日本のコンテンツを検索してみると、ファンコミュニティーがいくつか見つかるが、日本人のやりとりのほうがより妄想性がある。
中国の環境は、日本の環境と比較するに、サブカルに浸れる土壌があまりないことが挙げられる。まず高校生までは、PCを与えられる学生もいるが、学校でも部活がなく、家でも勉強尽くし。つまり、趣味に没頭する時間も金もない。
大学生になれば晴れて同じ趣味の人間が集まるサークル活動のようなものができるが、日本の大学ほどありふれたものではなく、学生は自由に趣味に投じれる金があるわけでもない。時間こそあるが金がないのだ。
そして社会人になったとき、はじめて自分で自由に使える金を手に入れ、浪費の自由を得たうれしさに大人の消費の世界へと旅立ってしまうのが一般的だ。社会人で引き続き学生からの趣味に金を投じて没頭し続けるのはかなりの変人で少数派である。
さらに、中国にはサブカルを育む場がない。日本ではコミケが重要な柱となっているが、中国では最大のサブカル系イベント「ChinaJoy」とて、コスプレくらいしか2次創作を共有する場がなく、日本のオフィシャルアニメグッズを売ってばかり。
ChinaJoyは上海で開催されるが、そうそう簡単に中国全土の人間が上海に足を運べるわけではなく、同じ趣味の人間がリアルで会える場にはなっていない(社会人となっても、たとえば沿岸の上海と内陸の成都の人間が距離が原因で簡単に交流できるわけではない)。
上海以外にも中国各地で一応はコスプレを中心としたサブカルイベントは開催されているが、規模は小さい。
流行の発信基地になる個性的な街がない
中国各地にある電脳街にはPCショップはあるが、サブカル街にはなりきれておらず、都市に点々と店が散らばるだけで、愛好者が集まる場にはなっていない。
中国ナンバー1といえる北京の電脳街「中関村(ジョングワンツゥン)」で、かつて中国のアキバになろうと、コスプレショップやアニメグッズショップやゲームショップなどを集めて場を作ったが、結局人気を博すことなく消滅している。
インターネット普及以前は、新宿や渋谷や秋葉原など、個性的な街が流行の発信基地となったが、中国の都市はどこを見ても金太郎アメのように同じ雰囲気で個性的な街がない。これもカルチャーが生まれづらい一因であろう。
結果、日本好きの中国人が生む日本的サブカルチャーは、作られる数が少ない上に、学生のころから積み上げるオタク経験値なるものが少ないこともあって、「なんとなく日本のコンテンツをマネてみました」的なものにとどまる。
(次ページに続く、「中国ならではのサブカルチャーとは?」)
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