まつもとあつしの「メディア維新を行く」 第47回
セルフパブリッシングの未来(6)
ベストセラー連発の投稿小説サイトE★エブリスタは4年間で書籍化300作品!
2014年08月29日 09時00分更新
書籍化作品は300、スマホ小説大賞は応募総数1万
ミリオンヒット連発のスマホ小説サービス
引き続き、セルフパブリッシングの動向を追う。今回話を聞いたのは「E★エブリスタ」。DeNAとNTTドコモがタッグを組み、2010年からサービスを展開している投稿小説サイトだ。KDPのように販売するのではなく、原則として無料(一部、ドコモユーザー対象に月額200円(税別)のプレミアム制や作品の販売制度も開始されている)で、200万作品以上が読み放題となっている。主な収益モデルは原作の単行本化、映像化やゲーム化などの二次利用だという。
また「スマホ作家特区」と銘打ち、毎月の「生活費」を援助し、作家活動を本気で支援するというユニークな取り組みも。代表取締役社長の池上真之氏に詳しく話を聞いた。
―― まず、エブリスタの成り立ちと現状を教えてください(編註:社名→エブリスタ、サービス名→E★エブリスタで統一)。
池上 「2010年4月1日にできたDeNAとドコモの合弁会社です。元々モバゲー内に小説コーナーがあり、ケータイ小説を集めて展開したところ、それが非常にPVを稼いだことがきっかけになっています。その事業化を検討していたところで、“ケータイでの個人発の文化”に強い関心を持っていたドコモさんに一緒にやろうと言っていただいた形ですね。
当初は、小説・漫画・レシピ・写真・俳句といったジャンルを展開していましたが、一番早く形になったのが小説でした。今では累計560万部を超えた『王様ゲーム』という作品がヒットし、それを読んだ人が刺激を受けて、今度は『復讐教室』という作品をE★エブリスタで書くといった動きが続きました。
『王様ゲーム』が出た後に、さらに双葉社さんから出版される形で『奴隷区』という作品が当たり、現在累計約160万部に達しています。双葉社さんとしても『王様ゲーム』で当たった形をうまく活かそうと取り組まれ、漫画化を進め、コンビニ流通にも積極的に展開されました。先ほどの『復讐教室』も売れていますし、ホラーというジャンルにおいては、ビジネスも含めて形ができてきたという手応えを感じているところですね」
―― ヒット作はかなりの実績ですね。これまで書籍化・映像化された作品はどのくらいあるのでしょうか?
池上 「約300作品に達しています。現在では、毎月約10タイトル/年間120タイトル書籍化しているペースですね」
―― ちょっとした出版社や、文庫・新書のレーベル並みの規模感ですね。
池上 「同じくらいの規模ですね。個人が商業的に成功するところまでは、ある程度サポートできているのではないかという自負はあります」
―― 最近、マンガボックスやcomicoなどでも作品の単行本化・書籍化の動きが活発です。E★エブリスタの場合、どのような流れで書籍化が進むのでしょうか?
池上 「3種類くらいのパターンがあります。
1つめは我々から出版社におすすめするパターンですね。これは集英社さんとやっているピンキー文庫(毎月3冊発刊)のように、E★エブリスタ専門のレーベルとして結実しています」
―― 言わばルーティンになっている、というわけですね。
池上 「2つめは編集者さんがE★エブリスタをよくご覧になっていて、『最近この人の順位が高い/面白いじゃないですか』といった感じで、出版したいと仰っていただくパターン。双葉社さんとのケースがこれにあたりますね。我々がノーマークだった作品が提示されることも結構あるんですよ(笑)。
そして3つめは、イベントで決まるというパターンです。E★エブリスタでは『スマホ小説大賞』を毎年開催しています(授賞式は9月8日)。そこに集まった約1万作品をまず我々で下読み後、出版社の方が最終選考して優秀作品は出版されるというものです。また、『セブンティーン小説グランプリ』のように、メディアとタイアップして個別に開催するケースもあります」
―― なるほど。公募で1万作品というのはもしかすると、文芸では最大規模になるのでは。3つめの公募を掛ける際はジャンル分けしているのですか?
池上 「今年は、ホラー、恋愛、エンタメ、ラノベで、恋愛が大人と十代に分かれています。応募が一番多いのはラノベですね」

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