このページの本文へ

前へ 1 2 次へ

「量子コンパス」はGPSを置き換えるか—プロトタイプが3〜5年で登場?

2014年05月22日 19時00分更新

文● 鈴木淳也(Junya Suzuki)

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷

 「量子コンパス」(Quantum Compass)という技術をご存じだろうか?

 位置情報システムとしては人工衛星を使った「GPS」(Global Positioning System)がメジャーな存在であり、現在スマートフォンなどで利用されているA-GPSは、この衛星システムに地上の携帯アンテナやWi-Fi情報を加えて位置特定速度や精度を向上させたものだ。

 一方で量子コンパスは、こうした固定のアンテナや衛星等に頼らず、地磁気等の情報のみを取得してデバイス単体で位置を特定できるメリットがある。

GPS以外の位置情報特定システムが求められる背景

 最近では位置情報システムというと、ごく自然に「GPS」というキーワードが出てくるが、GPS自体はアメリカ合衆国が運用するシステムであり、これを多くの機器がそのまま利用しているに過ぎない。

 地表における詳細な位置を特定するというのは航空機や船舶の運航、情報収集において非常に大きな意味を持っており、GPSももともとは軍事目的として30〜40年ほど前から研究や配備が続けられてきたものだ。

 現在のGPSも、その過程で打ち上げられた衛星の一部がそのまま運用されてきたもので、準同期軌道という静止軌道より低い軌道を約30個の衛星が周回して地上全土をカバーしている。

 GPS受信器は、現在位置からこの衛星のいくつかが出している信号をキャッチし、誤差計算を加えた上で正確な位置を割り出している。

 だが、元が軍事用途を中心としたものであり、GPSが現在の形で開放されたのはここ15年ほどのことだ。以前までは「Selective Availability」という仕組みがあり、軍事用途では誤差数メートルほどの正確な位置情報が取得できるようになっている一方で、一般にはこれにダミー情報を加えて範囲100mほどの誤差まで落とした情報を提供するようにしていた。

 これが、1996年にビル・クリントン大統領(当時)によって「デュアルユース」という一般開放に向けた指針が示され、2000年5月の段階でようやく「Selective Availability」が解除され、今日のGPSの形で利用できるようになった。今日、GPS技術は進化を続け、スマートフォンのような小型デバイスであってもごく一般的に搭載されるようになったのも、デュアルユースによる解放後の技術開発があったからだといえる。

現状のGPSにおける問題点

 しかし、現在のGPSにはいくつか問題があることは、普段利用しているユーザーにもよく分かってわかっているだろう。まず、衛星を利用した位置測定ということで、屋内やビルの谷間といった入り組んだ地形では衛星の情報を受信器がキャッチできず、正確な位置を測定できない。

 また、詳細は後述するが、これは水の中でも同様で、特に連続で潜行して移動することになる潜水艦ではGPSによる位置計測が使えない。加速度センサーなどを組み合わせた、GPSを利用しない最高精度の位置測定機器を用いているが、1日で1km程度の誤差は出てしまうという。

 もうひとつは、政治的・地政学的リスクだ。そもそもが軍事用途であり、GPSが米国の所有物である以上、何らかのリスクは考慮しなければいけない。仮に米国を全面的に信頼していたとしても、システムハッキングやジャミングなど、第三者による介入は常に考慮せねばならず、有事の際に全面的にGPSに頼るのは厳しい。

 そうした理由もあり、米国と利害関係にある国や団体は独自の位置情報システム構築を進めている。著名なものにロシアの「GLONASS」、欧州連合の「Galileo」、中国の「Compass」(北斗衛星導航系統)などが挙げられるが、現在利用可能なのは数年前に配備が完了したGLONASSのみであり、残りはまだ実験中または配備途中の段階にある。

 また、配備計画そのものに対する他国からの牽制も常に行なわれており、例えば誤差1m以内とGPSと比べても高精度な技術を搭載したGalileoは、米国政府によって「悪用される危険性が高い」との警告が行なわれている。もちろん、裏の意図としては「GPS利用を阻害するライバルへの牽制」という意味合いもある。

 こうした政治的対立以外でも、テロ攻撃の危険性は考慮しなければいけない。例えば、北朝鮮によるジャミング工作などの危険がある韓国では、衛星による位置情報システム以外に、地上に多数設置したアンテナを使って詳細な位置を特定できるシステムを構築しているといわれる。同種の仕組みは地政学的リスクを考慮して、これ以外の地域でも用いられているという。だが、衛星同様に固定の通信網に頼る仕組みではリスクの完全排除は難しく、今回の「量子コンパス」のような自立型のシステムが大きな意味を持ってくる。

前へ 1 2 次へ

カテゴリートップへ

注目ニュース

ASCII倶楽部

プレミアムPC試用レポート

ピックアップ

ASCII.jp RSS2.0 配信中

ASCII.jpメール デジタルMac/iPodマガジン