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まつもとあつしの「メディア維新を行く」 第41回

セルフパブリッシングの未来(1)

同人小説で食べていく――野田文七さんの場合

2014年04月26日 15時00分更新

文● まつもとあつし

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セルフパブリッシングとしては最も身近ともいえる同人誌。今回は東方Projectの二次創作を発表し続けている野田文七さんにお話を伺った

セルフパブリッシングに向き合う人々を連続インタビュー

 2012年終盤にスタートしたKindleストアが起爆剤となり、昨年は大手出版社も電子版の積極的な刊行やセールを通じた拡販に努めた。その一方、KDP(Kindle Direct Publishing)によって、出版社を介さず作品を発表・発売できる環境が一気に整った。いま作家や電子出版に関わる人々は、セルフパブリッシングにどう向き合っているのだろうか? シリーズでインタビューをお届けする。

 第1回は、熊本で東方の同人小説を書く野田文七さん。小説投稿サイトで作品を発表し、そこからpixiv、ニコニコ動画へと展開を拡げ、同人イベントと同人誌販売店で“紙の本”を販売している。作品の造り方から、広め方、“商品”としてはあくまで紙に拘る理由など詳しく聞いた。

プロフィール●野田文七さん:1982年生、熊本県在住。学生時代に角川書店、講談社に投稿、一次で落選。2008年小説投稿サイト「東方創想話」で東方二次創作小説の発表を開始。R-18や文芸的な耽美描写で一部の読者から支持を受け始める。2010年「第七回博麗神社例大祭」でイベント初参加。2010年コミックマーケット79(冬コミ)以降は毎年の例大祭、夏コミ、冬コミにすべて参加。読者間では、秘封倶楽部をテーマにして動画・漫画化もされた「メリーの悪夢」や、仮想歴史モノの「明治十七年のメトロポリス」などが比較的よく知られている。尊敬する作家はドナルド・キーン。十年前は安部公房。最近マイブームは宮崎駿版「風立ちぬ」と梅原大吾。「死ぬまで小説を書く」ために日夜奮闘中(インタビュー撮影協力:ペンネーム 女生徒さん)

イベント前にはニコニコ動画に最新刊のPVを投稿している。

東方にハマって二次創作を開始
作品発表の場に熱量を感じた

―― まず野田さんが書いている作品の概要を教えてください。

野田 「東方Project(同人サークル上海アリス幻樂団が制作する同人ゲームならびに関連作品群、以下「東方」と表記)の同人小説を書いています。自分が東方が好きだ、というのはもちろんなのですが、東方自体が日本の神話や歴史を題材にしていて、ファンもそういう分野が好きな人が多いので、その世界を拡げるような作品を書いています。

 仮想歴史ファンタジーに、実在した人物にも登場してもらって真面目に政略を語らせたり、文学っぽくちょっとドロドロした人間関係が出てきたかと思えば、少年マンガやロボットアニメで展開されるような派手なアクションが展開する、そんなイメージですね」

東方Projectの最新作『弾幕アマノジャク』のPV


―― 盛りだくさんですね(笑)。

野田 「はい(笑)。でも、硬軟織り交ぜたギャップがあるところが受けている理由かなと自分では思っています。一般的には、いわゆる“ラノベ”っぽい作品が多いジャンルなのですが、歴史書などの資料にもあたって、その方面に詳しい人や、本格的に小説を読み込む方にも楽しんでもらえるよう頑張っています」

―― なぜ東方の二次創作に取り組むことになったのでしょう?

野田 「活動を始めた2008年頃、自分がゲームにハマっていたというのがまずありますね。すでに二次創作は盛んだったのですが、東方は他の作品に比べて物語を拡げる余地が大きいなと感じたのがきっかけです。

 それでいて、作品を発表できる場は整っていたことも大きかったです。小説ならこの後お話しする投稿サイトがありましたし、マンガやイラストを販売できる例大祭やコミケも盛り上がっていました。場所やそこで活動している人が熱かったというのが東方を選んだ大きな理由だと思います」

―― いわゆる二次創作ということになりますが、作品を作る際に気を付けていることなどはありますか?

野田 「そうですね、作品の世界観を大事にする――とはいえ、あまり細かな設定に拘り過ぎる、いわゆる“設定厨”にならないようには気を付けつつ――ことはもちろんなのですが、東方の作者・ZUNさんが設定されているルールに則って書いたり、販売するようにしています。特に一般商業流通は禁止されていますので、あくまでも同人流通での販売です。

 そのため、残念ですがKDPなどのセルフパブリッシングの仕組みは使えないんです。

 とはいえ、いずれは、東方の同人で実績を重ねた上で、つまり、お店でいうところの常連さんがもう少しついたら、オリジナル作品でKDPなどにもチャレンジしてみたいですね」

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