同氏本人を特定するまでの過程
興味深いのは、Newsweek誌が同氏本人を特定するまでの過程だ。調査開始から本人接触まで2ヵ月がかかったと説明しているが、Satoshi Nakamoto氏を特定するのは容易ではなかったようだ。そもそも同姓同名が何人も存在するし、「Satoshi Nakamoto」自体が偽名の可能性がある。例えばニューヨーク在住のRalph Laurenのデザイナーや2008年にハワイ・ホノルルで死亡した人物、さらにはLinkedInプロファイルから日本在住のBitcoin開発者を自称する人物など、さまざまな人物のデータをあたってきたが、Bitcoin開発そのものに関わるプロファイルとは一致するものがなく、最初は人物特定に時間が割かれたようだ。
最終的に、各種公共データの照会から米国市民の中で近いと思われるプロファイルの人物を特定し、テンプルシティ在住の同人物に電子メールでの接触を図れるようになったのは、この直接対面のわずか2週間前。しかも、電子メールでのやり取りの大部分は同氏の趣味である鉄道模型関連の話題で、日本や英国からパーツを取り寄せて加工、組み立てを行なう同氏のメールでのコメントはティーンエイジャーのようだったという。
その過程で、少しずつ出自や過去のキャリアについて聞き出せたが、核心であるBitcoinに関する話題に触れた瞬間、それまでのやり取りが嘘であるかのように返答がなくなったようだ。息子であるEric Nakamoto氏に接触してみたものの、こちらは「父はBitcoinに関して語ったことはない」とのみ返答してコンタクトを拒否されてしまう。
最終的に、長男であるSatoshi Nakamoto氏の3兄弟の末っ子、Arthur Nakamoto氏にアクセスしたところ、プロフィールの一部について知ることができた。Satoshi Nakamoto氏は優秀な研究者だが、そのキャリアの多くは機密情報にかかわっており、プロファイルとして存在しないという。そして、Bitcoinに関するものを含む、すべての情報について長兄は語ることはないだろうとだけ警告して電話を切ったとしている。
Arthur氏が語ったように、同氏の仕事内容については家族でさえも把握しておらず、妻のMitchell Nakamoto氏も夫が優秀なエンジニアであることは知っているものの、その仕事内容について本人が家族に語ったことはないという。
Newsweek上でのストーリーはまだまだ続いているので、詳細は記事を読んでほしい。ひとつ分かるのは、本人の外見的なイメージとBitcoinが結びつかず、さらに周囲の人間でさえBitcoinに関わった人物であることをほとんど把握していなかった点だ。一方で、エンジニアとしての優秀さや一般には示せない秘密のキャリアの存在と、Bitcoinを開発するだけのバックグラウンドは備えていることも、これら証言は示している。Bitcoinに関する騒動はまだしばらく収束することはないだろうが、その秘密のベールの一端が紐解かれた段階かもしれない。
