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JALのジェットエンジン整備はミリ単位の繊細な作業だった!

2014年03月09日 01時00分更新

文● 藤山 哲人

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6)修理
 検査で問題があった部品は、修理工程に回る。今回はエンジンの空気取り入れ口にあるファンブレードを見せてもらった。扇風機で言うと羽の1枚1枚にあたるが、ジェットエンジンは高速で回転するためチタンという軽く硬い金属でできている。

 しかし何年も使っているとファンブレードのエッジが削られザラザラになってしまうのだ。扇風機もひと夏使うと空気を切る側のエッジにホコリが溜まるが、ファンブレードのエッジを実際に触ると大根がおろせそうなぐらいザラザラだった。こうなると空気がスムーズに流れなくなるので、元通りのツルツルに磨きあげる必要がある。

修理前のファンブレードのフチ。硬さが自慢のチタンでも、ここまで荒れてしまうとは!

ブレードの角度を調べる特殊工具

ファンブレードのフチを研磨する専用の工具。砥石は120~240番だという

研磨したあとはツルツルの美しい仕上がりになった

 整備センターでは、特殊工具で角度を測りながら、専用の工具で硬いチタンのエッジを磨き上げていく。砥石は意外に荒く120~240番(木工用だと荒仕上げ~中仕上げ程度)を使うということだった。

 研磨を終えるとザラつきはまったくなくなり、ツルツルとしたエッジになる。とても240番とは思えない仕上がりで、800番ぐらいの耐水ペーパーで仕上げた感じだった。

 さてこのファンブレードは整備のたびに削っていくので、6~7回で廃棄処分となるという。しかしその価格は、1枚で1000万円(ボーイング777の場合)。ブレードは全部で22枚あるため、一式で2億2000万円となる。これはエンジンに使われている一部で、実際にはさらに高熱で高回転するファンなどもある。安心・安全を維持するには莫大な経費がかかることを思い知らされた。

ロビーに飾られていた主なパーツと価格一覧(CF6型)。1個数百万から数万円の部品までさまざま。十万円程度の安い部品もあるが、数が100個必要だったりしてヤッパリ高い

ファンブレード1枚で普通乗用車が買える。先の777用GE90の1000万円よりは安いが……

エンジン1台で7億6400万円。なんだかフェラーリが安く思える

7)組み立て
 整備を終えベストコンディションになった部品は、再び部品からモジュールへ、モジュールからエンジンへと組み立てられる。

ブレードの根元は特殊な形状をしていて、同じ形が刻まれたディスクに差し込むと、正確な角度でかつ、高い強度で連結できる

ブレードを止めるねじも特殊

エンジンの回転動力が出力されるギア。ここには油圧(ハイドロ)発生器を接続する

およそ1ヵ月ぶりに元の形になったエンジン

クレーンで引き上げられ、最終工程に向かう

8)試運転
 組み立てを終えたエンジンは、クレーンに吊り下げられ試運転室に設置される。ここではエンジンを機体に載せなくても、実際に稼動させパフォーマンスをテストできるという。

組み立てられたエンジンはテスト施設に運ばれる

この巨大な扉の奥にエンジンを入れてテストする

扉の奥はこのようになっていて、外部からエンジンの出力を調整しながらデータを取り試運転する

安心・安全は莫大な経費と
エンジニアの繊細な作業で守られる

 エンジンのオーバーホールだけでも、これだけ緻密で、ていねいで、かつ時間のかかる作業なのだ。機体全部をオーバーホールするとなると、どれだけ大変なことかうかがい知れる。

JALの機体は細かい部分まで気配りが効く日本人のエンジニアたちの手によって整備されている

 なにより航空機の安心と安全は、空港ロビーや座席からはまったく見えない作業で守られていることを実感した。LCCは、コスト削減のために人件費の安い国外に機体の整備を委託している場合が多い。それが悪いこととは言わないが、少なくてもJALの機体は細かい部分まで気配りが効く日本人のエンジニアたちの手によって整備されているといえるだろう。

【取材協力】

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