6)修理
検査で問題があった部品は、修理工程に回る。今回はエンジンの空気取り入れ口にあるファンブレードを見せてもらった。扇風機で言うと羽の1枚1枚にあたるが、ジェットエンジンは高速で回転するためチタンという軽く硬い金属でできている。
しかし何年も使っているとファンブレードのエッジが削られザラザラになってしまうのだ。扇風機もひと夏使うと空気を切る側のエッジにホコリが溜まるが、ファンブレードのエッジを実際に触ると大根がおろせそうなぐらいザラザラだった。こうなると空気がスムーズに流れなくなるので、元通りのツルツルに磨きあげる必要がある。
整備センターでは、特殊工具で角度を測りながら、専用の工具で硬いチタンのエッジを磨き上げていく。砥石は意外に荒く120~240番(木工用だと荒仕上げ~中仕上げ程度)を使うということだった。
研磨を終えるとザラつきはまったくなくなり、ツルツルとしたエッジになる。とても240番とは思えない仕上がりで、800番ぐらいの耐水ペーパーで仕上げた感じだった。
さてこのファンブレードは整備のたびに削っていくので、6~7回で廃棄処分となるという。しかしその価格は、1枚で1000万円(ボーイング777の場合)。ブレードは全部で22枚あるため、一式で2億2000万円となる。これはエンジンに使われている一部で、実際にはさらに高熱で高回転するファンなどもある。安心・安全を維持するには莫大な経費がかかることを思い知らされた。
7)組み立て
整備を終えベストコンディションになった部品は、再び部品からモジュールへ、モジュールからエンジンへと組み立てられる。
8)試運転
組み立てを終えたエンジンは、クレーンに吊り下げられ試運転室に設置される。ここではエンジンを機体に載せなくても、実際に稼動させパフォーマンスをテストできるという。
安心・安全は莫大な経費と
エンジニアの繊細な作業で守られる
エンジンのオーバーホールだけでも、これだけ緻密で、ていねいで、かつ時間のかかる作業なのだ。機体全部をオーバーホールするとなると、どれだけ大変なことかうかがい知れる。
なにより航空機の安心と安全は、空港ロビーや座席からはまったく見えない作業で守られていることを実感した。LCCは、コスト削減のために人件費の安い国外に機体の整備を委託している場合が多い。それが悪いこととは言わないが、少なくてもJALの機体は細かい部分まで気配りが効く日本人のエンジニアたちの手によって整備されているといえるだろう。