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クラウド会計サービスが超えなければいけない山はサポート

2014年01月27日 09時01分更新

文● 松下 康之/アスキークラウド

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 ソニー出身のCEOが経営するベンチャー、マネーフォワードが新しいWebサービスの提供を発表した。 今回の発表はクラウド型会計サービスとして『マネーフォワード 確定申告』『マネーフォワード For BUSINESS(法人会計)』の正式版リリースという触れ込みだ。 フリーミアムとして個人向けには無料、法人には有料だが月額1800円と格安の利用料と言えるだろう。このサービスのターゲットはサービス名にある通り、「確定申告」と「法人会計」ということで個人事業主と中小の法人である。

マネーフォワードの新サービス。
マネーフォワードの新サービス。

 Webサービスを立ち上げているベンチャーなどを追いかけていると次々と新しいサービスや会社が出てきているように見えるが、実際には日本の個人事業主や中小企業は徐々に減っており、大きな資本を投下出来る企業に個人主体の商店や企業が淘汰されているのは地方のシャッター街を見れば肌感覚で理解出来るだろう。また少子化の流れも止まらず、ビジネスを個人で立ち上げる人に向けたB2Bビジネスは限られた資源を奪い合うレッドオーシャンと言っても過言ではない。

2012年2月時点の経産省の速報値。中小企業は減少している。

2012年2月時点の経産省の速報値。中小企業は減少している。

http://www.meti.go.jp/press/2013/12/20131226006/20131226006.html

 ただ、クラウドコンピューティングやモバイルデバイスの進化によって従来参入できなかったバックオフィス向けのサービスにクラウドとモバイル対応を打ち出して新規参入しやすくなったのが、昨今のWeb系会計サービスが出始めている理由だろう。また3.11以降、自社内でデータを保管することが実はリスクになり得るという認識が出て来ていることも後押ししていると思われる。

Zaim:スマホから家計簿をつけるサービス http://zaim.net/

Freee:クラウド会計サービス http://www.freee.co.jp/

マネーフォワードもそのひとつと言えるだろう。

またアメリカにおいても個人向けの会計ソフトのリーダー、QuickBooksに対抗するように新規サービスが出てきている。XEROはニュージーランド発の会計SaaSだ。XEROにはPayPalの創業者が出資をしていることで有名だ。

http://www.forbes.com/sites/tomtaulli/2014/01/26/xero-taking-aim-at-the-intuit-goliath/

XERO:http://www.xero.com/us/

 小規模な企業や個人事業主とは、具体的には街のクリーニング屋さんであったり、ラーメン屋さん、パン屋さん、工務店、酒屋さんなどいわゆる街でよく見かけるビジネスと言えばわかりやすい。そういう商売が徐々に減ってコンビニや外食チェーン店に置き換わっているのはよく目にするところだろう。上記の経産省の2012年の調査でも1980年代後半から続く現状傾向には変化がない。

 そしてそのような日本の中小企業がまずお世話になる会計ソフトは「弥生会計」だ。BCNのソフトウェア小売のランキングでも業務ソフト市場では15年間連続のナンバーワンなのだ。弥生会計の売上のかなりの部分は製品のパッケージではなく、サポートであると言われている。だいたいライセンスとサポートと用紙などのサプライ品が売上を分け合っているというのが実態だという。つまり日本の中小企業の会計で必要なのはライセンスつまりソフトウェアの機能だけに限らず、電話に代表される手厚いサポートと給与明細や元帳、売上伝票、納品書などの用紙なのだ。中小企業においては戦略的な財務分析よりも印刷する時の用紙のほうが重要な場合が多いのかもしれない。

 そのような現状を踏まえた上で、クラウドベースの会計ソフトがインフラとして活用されるためには、現状のPCベースの会計ソフトを上回る何かが無ければスイッチすることは無いだろう。使い勝手という意味ではブラウザの進化や様々なJavaScriptのライブラリの充実、印刷機能の進歩などによってPCベースのソフトウェアを凌駕するのはそう遠くないと思われる。しかし街の自営業者が使い慣れたPCからスイッチするためにはよほど手厚いサポートを「移行」だけではなく「日常の業務」においてもサポート出来ないと難しいのではないか。インターネットに慣れたエッジの効いたユーザーではない、つまりあなたの親戚のおじさんおばさんが商売に使うソフトウェアがクラウドベースになる時、それは近いようで遠い。

 マネーフォワードがインターネットに慣れたアーリーアダプターを取り込んだ後の次のチャレンジは中小企業の大多数である弥生ユーザーを如何に取り込むか?だ。その一手を注目したい。

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