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ハリウッドではなくフランスのようにはなりたい

クールジャパンと国家戦略−−中村伊知哉氏に聞く

2013年12月26日 09時00分更新

文● 遠藤諭(角川アスキー総合研究所)

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大学が音楽産業化している

-- うちの女性スタッフで子供にプログラミングのワークショップを受けさせたいといっている人がいるんですよ。プログラミングって、表現力だとか、コミュニケーションとか、本来国語でやるべき内容が学べる領域でもある。そして、人と助け合って問題を解決するとか、なしとげるよろこびも体験できますからね。

中村 プログラミング教育とかデジタル教育というと、ついついプログラミング言語を教えるとか、ITを教えるといったことに見られがちだったんですが、少しやってみると、プログラミングで国語を勉強するとか、ITで理科を勉強するとかそういう話になります。

−− それもありますね。一緒に伸ばせれば一石二鳥だろうというのですね。

中村 普通に社会に出たときにほとんどの時間に使うものですからね。それと、僕も授業をやってますけど、同じようなことを繰り返す授業ならいらないやって思ってるんですよ。全部録画してサーバーに上げてみてもらって、実際の授業ではみんなでちゃんと討議するとか。それでいいじゃないと。反転授業とか言いますけど。これまでの授業は映像でオンラインで観る。

−− とくに米国で大学の授業なんかを配信するサービスが注目されていますよね(MOOCs = Massive Open Online Courses )。

中村 それも、完全にボーダレスの競争に入ってます。東大も京大も慶応も、強いコンテンツを持っているところは自分のところでそれを出し始めましたよね。しかも、困ったことにMITはそれをタダでやっている。みんな無料モデル。そっから先の回収をみんなライブでやるわけ。

−− フリーミアムモデルなんですね。

中村 そうフリーミアム。音楽業界化してるわけですよ。コンテンツフリーにしてライブで稼いだり。そのうちにグッズで稼がないといけなくなったりして、そうなると早い段階で大学がガラっと変わる。

−− 営々とやってきたアカデミズムの流れが変わるというタイミングなのですかね?

中村 大学で知識を得るという感覚はなくなってしまって、知識は大学のコンテンツ、タダ。そういう状況で実際に大学に入ってコミュニティーの中で学ぶものがあるとすると、教えて学びあったりする場だったりとか。

−− 授業は実演だったと!

中村 面白いのは音楽コンテンツそのものが値崩れしていても、ライブのチケットって値崩れしてない。日本でライブやっても中国でライブやってもどちらも1万円ぐらいで買ってもらえる。きっと教育もそうなんだよね。

−− ソーシャルブレインって言葉あるじゃないですか。脳というのは1人の人間の問題ではなくて他者や社会と関係して活動しているという。それのための場と時間を与えるのが音楽ライブであり、大学であるということなのかもしれません。

中村 学校とか授業でこそソーシャルメディアが生きてくるはずなのに、まだ日本ではソーシャルワークっていうのは皆無です。

−− 自分が先生だったら怖い部分がないですか。

中村 韓国はガンガンやってますよ。授業の中での先生と生徒の教えあい、学びあいもソーシャルネット上でやったり、家で宿題やって来いっていうのもソーシャルメディアで連絡する。教育用のソーシャルメディアがあって、それを使ったり、保護者の連絡にFacebookやTwitterを使ったりしているんです。韓国の先生も最初は怖かったそうです。

−− 生徒のほうが先生より地位があがってしまうようなことも起きかねない。

中村 あるいはモンスターペアレンツみたいな親とかを心配したらしいんですが、やってみたら逆だったそうです。学校が透明になって学校はやるべきことをやってくれているのねと評判が高まってやりやすくなったそうです。

−− なるほど学校も透明性の時代だと。

中村 日本は逆にケータイを子供に持たせるなという動きもあったりして、デジタルから子供を遠ざけようっていう空気があります。ただ保護者の年齢が下がるに連れてそういう感覚も変わりつつあります。今年からおもちゃメーカーが子供向けのタブレットを売り出したんでけど、それを買う親は小学校、中学校じゃなくて、2〜3歳児に買い与える親です。かなりデジタルにネイティブな層だと思います。

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