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クソゲーを社員に強いるブラック企業

2013年10月23日 07時07分更新

澁野 義一(Shibuno Giichi)/アスキークラウド編集部

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 ユニクロの過剰労働について指摘した、週刊文春の記事を巡る裁判。10月18日、東京地裁は「記者の取材内容や経緯から真実と判断する相当な理由がある」として、ユニクロを傘下に持つファーストリテイリングの訴えを退けた(ファーストリテイリングは「事実に反する」として控訴を検討)。焦点になったのは、「店舗運営において、苛烈で非人間的な労働環境を現場の店長ら職員に強制」(ファーストリテイリング プレスリリース)したかどうかだ。

 この判決をもって「ユニクロはブラック企業だ」と断定するのはたやすい。ひょっとすると、その認識は正しいのかもしれない。ただ難しいのは、ブラック企業の定義は従業員によっても変わることだ。過酷な労働環境でも、やりがいを持って仕事に臨んでいる社員もいるだろう。一方で、仕事への情熱は、いとも簡単に労働力の搾取につながる。仕事に追い回され続ければ、やがて体を壊し、心を病む。社員が健全に、かつ高いモチベーションを維持して仕事できる環境作りは、企業にとって永遠の課題だ。

 解決の糸口は、ゲームにあるかもしれない。「パズドラ」や「艦これ」といった人気ゲームには、人を熱中させる性質がある。こうしたゲームの要素を、社員が日常業務に進んで取り組んでもらうためのモチベーションの向上に生かす「ゲーミフィケーション」を採用する企業が増えつつある。

 有名なのは、東京ディズニーリゾートを運営するオリエンタルランドの事例だ。同社はアルバイトを「キャスト」(役者)と呼ぶが、彼らのモチベーションを向上させるさまざまな仕掛けを講じている。キャストには「M・A・G・I・C」の5段階のグレードが設定されており、一定の条件を満たすことで昇格する仕組みだ。業務のフィードバックには「ファイブスターカード」というアイテムが用いられる。上司が素晴らしいパフォーマンスを発揮したキャストに手渡すカードで、オリジナルの記念品と交換できるほか、定期的に開催されるファイブスターパーティーに参加できる。キャスト同士がお互いの対応を評価する「スピリット・オブ・東京ディズニーリゾート」という制度もあり、受賞者には「スピリット・アワード」と呼ばれるピンバッジが贈られる。

東京ディズニーリゾートのキャスト募集ページ。

 5段階評価による自分のステータスの可視化や、カードやバッジといったアイテムの付与など、仕事にゲームの要素を導入して従業員満足度(ES)を高めている。オリエンタルランドはESの向上が顧客満足度(CS)を実現すると考えているが、実際に2013年4~6月期の連結純利益は同期過去最高の162億円と、成長を続けている。

 ただし、仕事にゲームを持ち込めば必ず成功するわけではない。ゲームの中にもつまらない作品があるように、下手なゲーミフィケーションは「クソゲー」化して逆効果になる。

 国際大学GLOCOMでゲーム研究を専門とする井上明人氏は、ゲーミフィケーションが上手く機能しなかった例として日本マクドナルドの「エンジョイ! 60秒サービス」を挙げる。来店客が注文したものを60秒以内に従業員が渡せなかった場合、バーガー類の無料券をプレゼントするという内容だったが、シビアな労働環境に批判が集まった。

 失敗の理由は、従業員がこのゲームを辞められる可能性が低かったことだと井上氏は言う。「ストレスの与え方が下手なゲームは苦痛でしかないが、業務に組み込まれたら従業員は仕事なのでやらざるを得ない。つまり、従業員がゲームを辞められる可能性が低い。単一の評価軸で人を順位付けして、できるようになるまで強制し続ければ、誰でも参ってしまう」(井上氏)。

 つまり仕事をクソゲーにしないためには、以下の要素が重要だということだ。

●ゲームを強制しない

どんなに面白いゲームも、ストレスを与えることに変わりはない。ましてや自発的にプレーするのと、上司から言われて「やらされる」のではモチベーションも大きく異なる。ゲーミフィケーションの入り口をなるべく自然にして、ゲームだと感じさせないような工夫が必要だ。

●ゲームバランスを配慮する

いくらレベル上げをしても倒せない敵が登場するようなゲームは、優れているとは言えない。ゲーミフィケーションも同じだ。努力次第で達成できる程度の難易度が望ましい。

●複数の評価軸がある

どんなゲームにも、得手不得手がある。苦手なゲームをやらされ続けるのは精神衛生上よろしくない。ひとつのゲームが苦手でも別のゲームをチャレンジできるようにしたり、ランキングが低いユーザーは自分の順位が見えないようにしたりするといった施策が求められる。

 優れたゲーミフィケーションの設計を俯瞰すれば、自然とブラック企業認定されないための注意点も見えてくる。さて、ユニクロはブラック企業か? 判断は読者に委ねたい。

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