先週行なわれたAWS Summit 2013の展示会場では、AWSのシステム構築や運用保守を担うSIerが出展していた。AWSのインテグレーションビジネスについて話を聞くべく、老舗とも言えるcloudpack(アイレット)とサーバーワークスの2社にお邪魔した。
SAP on AWSのケンコーコムを手がけたcloudpack
「cloudpack」はアイレットが手がけるインテグレーションサービスで、導入コンサルティングやサービス監視、バックアップリストア、サポートまでパッケージとして提供している。

cloudpackのブース
同社がcloudpackを始めたのは、今から3年前。データセンターが日本になく、サービスも英語、支払いもドル建てというなか、「日本円での請求払いをサポートし、為替リスクも吸収できるようにした。AWSの料金を含んだ定額料金でご利用いただける」(アイレット cloudpack事業部 取締役CTOの鈴木宏康氏)サービスを提供したという。当初は海外の企業や小規模事業者がほとんどだったが、2011年にはAWSのソリューションプロバイダーに登録され、実績を積んでいく。
その後、クラウドの柔軟性に目を付けたオンラインゲームなどの業者が導入をスタート。東京リージョンが設けられて以降は、エンタープライズ事例も急速に増えてきた。同社ではSAP on AWSを進めたケンコーコムをはじめ、トヨタメディアサービス、日本テレビ(JoinTV)、バンダイナムコゲームス、ローランドなど数々の導入事例を手がけ、200社を超える顧客を手がける。鈴木氏は、「やはりシステム全体をAWSに持ってきたケンコーコム様のインパクトは大きかった。震災以降は、無理してでもクラウド化してくれというお客様すらいた」と振り返る。こうした実績を踏まえ、2013年6月には最上位のプレミアコンサルティングパートナーになり、現在もエンタープライズのAWS導入を支援する。
日本でもようやく大手のSIerが同様のサービスをスタートさせつつあるが、「カタログを見ると、同じように見えますが、中身は違う。サービス開始から3年、けっこうな密度で実績を重ねている」という。1つはやはりスピード。「今まで2週間必要だった機材の調達が5分でできてしまうので、お客様に納期の言い訳ができない」とのことで、仕様が決まる前にシステム像やプロジェクトの動きを予測することが重要だと語る。また、エンタープライズの事例では、特にプロセスと品質が必要で、上流工程を手がけるSIerと連携し、マンリソースを効率的に動かすことが求められるようだ。
クラウドインテグレーションというと、やはり薄利多売というイメージがあるが、「うちはそもそも(マージンの出る)ハードウェアを売ってなかったので、儲けが出るようになっている」と話す。ただ、1つ1つの案件に時間がかけられないので、数をさばくためには効率的なプロジェクトマネジメントが必須になるという。
管理ツールまで作ったサーバーワークス
サーバーワークスは、2008年からサービスを提供するクラウドインテグレーターの老舗で、JAWS-UG(AWS User-Group-Japan)でも精力的に活動している。サービスは導入支援や運用管理、課金代行まで多岐に及び、DRスターターパック、VPCスターターパックなど数々のパッケージも提供している。さらに「Cloudworks」というAWS用のツール群を提供しており、無償版・有償版含め数多くの導入実績を誇る。

サーバーワークスのブース
同社がクラウドへの傾注を始めたのは、やはり自身がクラウドのメリットを痛感したからにほかならない。「あるユーザーさんでは10時にアクセスのピークが来ていましたが、性能をピークに合わせるとコストがかかる。そこで、AWSでキャパシティを確保した」(サーバーワークス 開発部プロダクトマネージャー 新坂学氏)。クラウドの威力を実感した同社は、AWSを積極的に顧客に勧めるようになり、Cloudworksのようなツールまで作ってしまったというわけだ。
同社では全農ビジネスサポートやロート製薬などのエンタープライズのAWS事例を手がけているが、最近ではSAP構築の足回りをクラウドで作るという案件が増えているとのこと。他のSIerとうまく連携し、AWSインテグレーションの構築ノウハウを活かすのが、ビジネス拡大の鍵のようだ。また、クラウドインテグレーションでは、やはりある程度案件の数をこなす必要がある。cloudpackと同様、「パートナーと組んでサポートを回すとか、少ない人数で数多くの案件を進める必要がある」(新坂氏)というのが、今後の課題と語る。
老舗の両社に聞いたところ、AWSのインテグレーションはきちんとビジネスになっているというのが結論だ。しかし、インフラの調達や運用管理が自動化できたからといって、人間の作業がなくなるわけではない。少ない人数で効率的にプロジェクトを回す。特にはパートナー等を協業し、人手の作業も“オートスケール”させる。クラウド時代のインテグレーションにはそんな工夫が必須になってくるようだ。ハードウェアで利益を得ていたり、レガシーアプリケーションの技術者を多く抱える大手のSIerは、クラウド時代にどう戦うのか? 今後のテーマになるだろう。
初出時、サーバーワークス様の事例で「JAやロート製薬など」と記述しましたが、導入先の会社名が誤っておりました。正しくは「全農ビジネスサポートやロート製薬など」になります。お詫びし、訂正させていただきます。本文は訂正済みです。(2013年6月10日)
