11月7日、NECはビッグデータ事業を強化し、新たにビッグデータの分析を迅速に行なえるクラウドサービス3種類を発表した。どれも同社がR&Dで培ってきた画像解析や行動分析のエンジンをベースにして、迅速に導入できるサービスとして提供しているのが大きい。
100件を超える商談から見えてきたモノ
同社は今年の2月に全社横断のビッグデータプロジェクトを立ちあげ、製品・サービスの発表やR&Dの拡充を行なってきた。発表会においてNEC 執行役員の保坂 岳深氏は、この半年間のNECの取り組みを製品や技術の観点から説明した。
製品面では、ビッグデータ向けのデータベース「InfoFrame Rational Store」の販売を皮切りに、SAP HANAアプライアンスの提供、SASとの協業などの取り組みを実施。7月にはビッグデータの活用目的や分析方法を明確化するコンサルティングサービス「ビッグデータディスカバリープログラム」を発表している。また、R&Dでは画像認識や暗号技術、複合イベント処理、大規模映像処理技術などを進め、効率的なデータの入出力やバックエンドでの処理高速化に役立てている。
こうした強力なビッグデータ事業の推進により、工作機械の障害通報や予防保守などを実現する東芝機械のM2Mサービスを筆頭に数々の事例が創出できたという。また、100件を超える商談で、業種を問わず「マーケティング」「リスク管理」「運用・保守」の3つの領域での活用ニーズが高いことが明らかになったほか、非構造化データ解析や機械学習など分析ニーズがどんどん高度化していることもわかったとのこと。
さらに、顧客の要望も「本格導入前に検証したい」「本格導入も小さな投資で始めたい」という2つが浮かび上がったという。これらの活用ニーズや要望を受け、今回発表されたのが分析エキスパートによって導入前の検証を提供する「データ分析検証サービス」と、小さい投資で本格導入が可能な「分析クラウドサービス」になる。
エンジンにこだわった分析クラウドサービス
分析クラウドサービスでこだわったのが、R&Dで培ったデータ分析エンジンの強みをサービスに活用することだ。NECはビッグデータの処理を、サーバーやストレージなどの基盤層、センサーを中心とする収集層、イベント処理やデータベースや並列処理などのミドルウェアが提供するデータ処理・蓄積層の上に、データや用途にあわせた分析エンジンが載るというレイヤ型のアーキテクチャで捉えている。保坂氏は、「基盤やデータ収集や蓄積などの製品やサービスは、他社も提供している。しかし、データ分析エンジンに関しては、NECが一歩先んじている」とアピールする。
保坂氏はNECが誇る分析エンジンを説明し、いくつかのデモを行なった。たとえば、「インバリアント分析」ではデータの相関関係を自動発見し、「いつもと違う挙動」を発見できるもの。デモでは工場の製造ラインでのデータの流れを自動的に検出し、障害につながりそうなデータの挙動を発見するという事例が披露された。また、「顔画像解析」は画像の中から自動的に顔を検出し、高精度に同一人物を特定できるもので、米国国立標準技術研究所(NIST)主催のコンテストで世界No.1の評価を得ているとのこと。その他、人やモノの流れを予測する「行動分析」や大量データから異なるタイプや規則を自動発見する「異種混合学習」、2つの文が同じ意味かどうかを判定する「テキスト含意認識」などさまざまなエンジンがあるという。
今回発表されたのは、このうち顔画像解析や行動分析などのエンジンを活かした「顔認証技術活用マーケティングサービス」「不審者監視セキュリティサービス」、「テレマティックサービス」の3種類の分析クラウドサービスになる。商談でニーズの多かったカテゴリでの検証結果を基にテンプレート化したもので、迅速なスモールスタートが可能になる。
顔認証技術活用マーケティングは、名前の通り顔画像解析エンジンを活かしたマーケティングソリューション。店舗に設置したカメラに写った人物の年齢や性別を推定し、来店日時とあわせて継続的に蓄積し、来客者の傾向分析をスモールスタートで行なえるというもの。「POSデータだと購入に結びついたデータしかとれない。しかし、こちらは来客者を自動識別し、収集したデータを購買情報などの他の情報とかけあわせることができる」(保坂氏)。たとえば、朝と夕方に来た同一人物を判別可能なので、リピート顧客なども算出でき、キャンペーン施策に応用できるという。こちらは月額7万円/1店舗で提供される。
一方、不審者監視セキュリティサービスは顔画像解析をセキュリティに活かしたモノ。カメラから顔画像を切り出して、事前に登録した特定人物と照合したり、性別や年齢から特定人物を検索することも可能。マスクやサングラスの有無も識別できるという。サービスは個別見積で、2013年1月末に提供開始する。
3つめのテレマティックサービスは、自動車の走行実績情報を元に、行動パターンを自動抽出。遠隔での車両管理やマーケティングに活かすというモノ。こちらも個別見積となっており、2013年3月末に提供開始される。
分析クラウドサービスは、評判分析やエネルギー予測など今後順次拡大される予定。保坂氏は、「顧客でオーダーメイドするというニーズも多いが、業種問わずある程度共通しているところはクラウド化していく」と述べており、クラウドサービスをオンプレミスへの入り口と捉えるのではなく、顧客のニーズに合わせて提供していく考えを明らかにした。現状、ビッグデータという観点では、富士通やIBMがいち早く製品やサービスを整備しているが、NECも得意の基盤技術を製品やサービスに投入することで、巻き返しを図りたいところだ。
各サービスや技術は、11月8日・9日に開催される「C&Cユーザーフォーラム&iEXPO 2012」(東京国際フォーラム)で展示される。