このページの本文へ

「準天頂衛星」は宇宙ビジネス成功のカギとなるか?

日本の準天頂衛星は世界からの遅れを取り戻せるのか?

2012年08月24日 12時00分更新

文● 秋山文野

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷

準天頂衛星は災害情報の提供も可能
しかし広範囲な整備も必要

東京大学 空間情報科学研究センター教授の柴崎亮介氏。衛星、航空機、車両などのプラットフォームを対象にした都市空間の3次元マッピングなどの研究を行なっている

 アジア市場での可能性を指摘するのが、内閣府宇宙戦略本部 準天頂衛星推進WGの委員を務めた東京大学空間情報センターの柴崎亮介教授だ。「準天頂衛星は、海外で売れる可能性の方が高い」という。有望分野は東南アジアだ。2004年インドネシアの津波、2010年のタイの大洪水というように、他人ごとではない災害が発生してきた地域である。日本が東南アジア各地に大気中の水蒸気の量を調べる拠点を整備すれば、降雨の情報を集め、GPSや他の衛星技術と組み合わせて災害情報の発信、集中豪雨、津波の観測ネットワークを作るといったことができるようになると柴崎教授は説明する。

 観測ネットワークを作るにはまず、衛星だけでなく地上に、衛星からの電波を受信するアンテナ設備を備えた『基準点』が必要になる。民生用として、国内で電子基準点を整備した実績のある日本なら、東南アジア各国で測位衛星を利用する基盤を整備することが可能だ。ただし、基準点を設置するにあたっては当然だが東南アジア各国に日本の準天頂衛星の認知度をあげ、設置国との協力関係を築くことが必要だ。

「アンテナ設備、電源、ネットワーク接続などの設備を持つ基準点設置には、一台数百万円かかりますが、これを測位衛星とセットにして展開することが必要です。内閣府といった組織が主導して、ODAなどのお金も使ってできるか。その辺りの戦略が重要です」(柴崎氏)。

 アジア開発銀行(Asian Development Bank)も関心を示していると言うが、「まずは準天頂衛星の存在がアジアで知られていない。測位技術の関係者は知っているが、(応用先である)交通や災害対策の関係者にはこの半年くらいでやっと知られてきたところ」(柴崎氏)というので、まずは認知度アップが必要だ。

欧州は位置情報ビジネスの確立を目指す
中国は利用実証と市場創出を同時に計画

 では、同様にアジア太平洋地域でのサービスを予定している中国をはじめ、各国の測位衛星計画はどうなっているのかも見ていこう。全地球規模の衛星測位システムを整備しているのはアメリカのGPSのほか、アメリカと同時期に衛星測位を始めたものの一時は衛星数が維持できず、2011年末に衛星がようやく24機に達成したロシアGlonassの2つのみである。

各国の測位衛星の状況をもう一度おさらいしよう。全世界をカバーしようとする測位衛星が各国で打ち上げられている

 3番目の全地球測位衛星システムを計画したのは欧州。2000年代初頭に「Galileo計画」を発表し、米露に続いて27機の衛星で全地球をカバーする測位システムを始動した。計画当初は米の激しい反発にあったが、米GPSのブロックⅢ(第三世代)衛星と相互運用性を持たせるところまで交渉を進めている。同時に測位衛星サービス国同士の国際会議「ICG」を米と共同で国連にセッティングし、軍用サービスを主、民生用は従であったGPSと違い、ビジネス促進を目的としているのが特徴だ。商用サービス用の信号形式を持ち、認証などのコードを埋め込むことも可能となっており、この商用コードを利用して、認証ベースのロードプライシングなどの用途を考えている。測位衛星による産業創出を促進したい考えなのだ。

 このICG国際会議で測位衛星の利用促進を話し合うサブグループの共同議長を務めているNECの峰正弥氏によれば、欧州が関心をもっているものの1つに「認証に関連する部分」という。サービス利用のイメージとして「危険物や高価な品の輸送管理、ロードプライシング(通行料金)、スマートフォンを使った位置情報ビジネスといったものが検討」されており、現状では「Androidを使った端末に、わざと位置情報の誤情報を入れて、それを端末側で検出するといった実証実験を行なっている」(峰氏)という段階と語る。

NEC 航空宇宙・防衛事業本部 エグゼクティブエキスパート 峰正弥氏。準天頂衛星計画では地上局設備の開発を分担した

  そして中国は、当初は欧州の「Galileo」に参加予定だったが、2000年代後半から独自の測位システム開発をスタートした。東京海洋大学の安田明生教授によると、中国は2007年に中高度の周回円軌道に1衛星を打ち上げ、全世界航法衛星システムCOMPASSの開発を始めている。2012年8月までに静止衛星4機と周回衛星2機を追加し、さらに2010年8月から1年半の間に対称8の字地球同期衛星5機を打ち上げた。今後年内に周回衛星2機、静止衛星1機を打ち上げ、16機でまずは、アジア太平洋地域でのサービスを開始する。12月予定とのことだが、中国は今年の11月に北京でICGを開催する議長国でもあるため、それに合わせて11月に早めてくる可能性もある。将来的には、2020年代には全地球測位衛星システムにする予定だ。

 ただし、地上での受信機器はアピールしているものの、「時間によって精度にばらつきがあり、しかも情報はオープンになっていない」(安田教授)という状態だ。また峰氏によれば、中国は「2014年に上海地区500kmエリアで2000万人規模の大規模な実証実験を計画しており、利用実証と市場創出を同時に計画しています」とのこと。屋内測位にも対応しており、日本のような独自技術ではなく、Wi-Fiを併用する形で進めているという。しかし、Wi-Fiのように機器は普及しているものの、もともと測位用ではない信号を使うのであれば「信号が屋内で壁などに反射して正確な位置情報が得られない『マルチパス』などの問題を解決できない。この点がWi-Fiの難しさだと思う」(峰氏)とネガティブな面もあるようだ。やるとなったら一気に衛星を打ち上げてくる力がある中国だけに油断はできないが、こと日本との技術競争でいえば、精度や技術、オープン度の度合いで日本にはまだいくらかのリードタイムがあるとは言えそうだ。

中国のUNICORE社が配布している測位衛星に対応したチップ製品のチラシ。中国の静止衛星Beidou、GPS、Glonass、Galileoに対応しているという。価格や販売開始時期は今のところ不明だ

カテゴリートップへ

この連載の記事

注目ニュース

ASCII倶楽部

プレミアムPC試用レポート

ピックアップ

ASCII.jp RSS2.0 配信中

ASCII.jpメール デジタルMac/iPodマガジン