“ここしばらく「そろそろ音楽を止める潮時かな」と漠然と考えている”――
そんな書き出しで始まる佐久間正英さんのブログエントリーが、一時、大いに話題となった。その趣旨は、商業音楽の市場縮小から、制作予算もかけられなくなり、レコーディングでの試行錯誤、取り得る選択肢が狭まっていること。これは音楽制作の現場にいる人なら、誰でも何となく感じていることに過ぎない。しかしタイトルは「音楽家が音楽を諦める時」。おまけに80年代以降のバンドサウンド、J-POPシーンを支えてきた大プロデューサーのエントリーということもあって、喧々諤々の議論となった。
一方、音楽以外の制作現場からも、佐久間さんの付けたタイトルをもじり「◯◯が◯◯を諦める時」と題するブログエントリーがいくつも登場。その1つが「漫画家が漫画を諦める時」と題する佐藤秀峰さんのエントリーだった。
佐藤さんは言わずと知れた「ブラックジャックによろしく」や「海猿」などの大ヒット作で知られる漫画家。かつ、前時代的な出版業界に対して正論を言い続け、様々な形で戦ってきた人でもある。来たるべき電子出版時代に備え、自身で「漫画 on web」という参加型の漫画配信サイトを運営し、そこから自身の作品も配信している。
佐久間さんも以前から音楽制作の仕方に疑問を持っているのは同じで、昨年から「サーキュラートーンズレコーズ」というレコード会社を立ちあげ、自身のバンドや制作した音源をリリースしている。表現手段こそ違えど、このお二人は似たような問題意識を持ち、「諦める」などと言いつつ、実際には常に次の手立てを考え続けているのである。
今回の件ではたから見ていて面白かったのは、佐久間さんが以前から佐藤さんの漫画のファンだと分かったこと。この二人が面と向かうと一体どんな話になるのか。そこで今回、佐久間正英×佐藤秀峰という、異業種対談を実現する運びとなった。
なお、この対談は佐藤さんの仕事場が見たいという佐久間さんの希望により「佐藤漫画製作所」におじゃまして行なわれた。「僕、今日はすごく緊張しているんですけど」と言って、大音楽プロデューサーは現れたのだった。

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