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四本淑三の「ミュージック・ギークス!」 第100回

プロが仕事を諦める時 対談・佐久間正英×佐藤秀峰【職業編】

2012年08月04日 12時00分更新

文● 四本淑三

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プロデューサーは霞のような存在が理想

―― 佐久間さんも「ここ直して売れるようにしろ」なんて言われるようなことは?

佐久間 昔はあったよね。「もうちょっと売れるような感じに」って。売れるような感じって何だかわからないけど。最近はもう、アーティストとのダイレクトなやり取りで、ああしたいこうしたいという話を聞きながらやってる。

―― 漫画にはプロデューサーっていないんですか?

佐藤 担当編集者がそれに当たると思うんですけど。漫画家出身で編集者になる人っていないし、普通に大学を出て編集者になるので、色々アドバイスを受けて、すごくいいことを言う方もいるんですけど、話が合わないことのほうが多いんです。

漫画家にとって編集者はプロデューサー的存在でもある。アドバイスは人それぞれで、話が合わないことも多いとか

―― 音楽も昔はそういう感じでしたよね。プロデューサーはミュージシャンじゃなかった。

佐久間 そうそう。レコード会社のディレクターみたいな立場の人がやっていて。

佐藤 佐久間さんがプロデューサーになろうと思ったのは、どこかで決めてそうしていったということなんですか?

佐久間 四人囃子の頃からそういう気持ちだったかな。というのは日本にそういう人がいないのは知っていたから、必要だというのも分かっていたし。

―― あるアーティストは「佐久間さんって、スタジオにお茶を飲みに来るだけだけど、それでいいんだよね」なんて言ってましたけど。

佐久間 なるべく口は出さないようにしたいなと。最近はそれがエスカレートしているかもしれないですね。霞のような存在がいいんじゃないかな。何だか知らないけど、その人がいると良くなる。良く考えると、あの人今日は一言も喋ってないよな、ぐらいの。そういうのが理想。

―― でも、バンドをプロデュースする場合はピックの持ち方や、ドラムを叩く姿勢の指導から入ると最近聞いて、逆にびっくりしたんですよ。

佐久間 うん、やるよ。それは今でも。それはもう弦の張り方から教える。

―― そういう基本がダメなバンドでもプロになったりするものですか?

佐久間 これからデビューくらいならみんなダメでしょう。自分で言うのもなんだけど、僕のプロデュースの最大の利点は、レコーディングで必ずバンドが良くなることなんです。

「スタジオで最高に良い音が録れるようにすること」が佐久間さんのプロデュースワーク

―― 何を直すと良くなるんですか?

佐久間 たとえば、ドラムの子のシンバルが決まらないなと思ったら、その理由を探すわけ。そうすると実はシンバルの位置が遠いだけだったり。ちょっと手前に置けば、バスドラとのアタックが揃うとか。あるいはスティックの持ち方、椅子の高さ、膝の角度。そういうのを見つけて、教えてあげる。すると音が変わってくる。音が変わると、それは必ず演奏に影響する。

―― それは間違いなくそうでしょうね。気分よく演奏できるし。

佐久間 レコーディングスタジオって特殊な環境じゃない? 普段、人前で演奏するような高揚感は生まれにくいし、ムダな緊張感しかない。それをいかにほぐして、ライブでもできないくらいの最高の演奏をさせるか。それが一番の目的なんです。仮にGLAYみたいになって、東京ドームで5万人を前に演奏できたとしても、作った音源を聴くのは5万人だけじゃない。録音した1回限りの演奏を、ものすごい人数の人が繰り返し聴く。だったら、それに見合う演奏をさせないといけない。その演奏をさせるためだけに存在しているんです、僕は。そういう仕事ができなくなるということなんだよね、大元の話に戻すと。

―― なるほど。佐久間さんの最大の利点が発揮できないと。

佐久間 アルバム制作に1ヵ月かけられた頃なら、1ヵ月間、その子たちと付き合える。その間に、その子たちが何をやりたいかを自分も見つけ出す。それを3日でやってくれと言われても、コミュニケーションは取れないし、バンドが何をやりたいかなんて分かるわけがない。それでも3日目には完成させなければならないんだよね。


(次回、「業界編」に続きます)



著者紹介――四本淑三

 1963年生まれ。高校時代にロッキング・オンで音楽ライターとしてデビューするも、音楽業界に疑問を感じてすぐ引退。現在はインターネット時代ならではの音楽シーンのあり方に興味を持ち、ガジェット音楽やボーカロイドシーンをフォローするフリーライター。


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