ソーシャルコンテンツへの関心が急速に高まっている。4月10日刊行の自著『ソーシャルゲームのすごい仕組み』(アスキー新書)も、断続的に品切れになっているほどだ。
本連載「メディア維新をいく」でもゲームについて追っていく。
前回の小林ディレクターとの対談に続き、今回はコナミデジタルエンタテインメントにソーシャルコンテンツへの取り組みを訊く。ここではヒットタイトル『ドラゴンコレクション』の企画・開発を主導し、現在は「ドラコレスタジオ 兼吉プロダクション」でエグゼクティブプロデューサーを務める兼吉完聡(かねよし さだあき)氏を取材した。
パッケージゲーム大手がソーシャルコンテンツへ
兼吉氏は、KONAMI入社以来、同社の人気ゲームシリーズの開発チームに在籍し、パッケージゲームに長年携わってきたが、意外にも入社時から「オンラインゲームを手がけたい」という志望を持っていたと話す。
オンライン機能が加わった作品でユーザーが楽しむ様を見たことで、その面白さと可能性を強く感じ、その思いを実現すべく企画したのが『ドラゴンコレクション』というわけだ。
『ドラゴンコレクション』は会員数600万人を超えたソーシャルコンテンツの代表格と言えるタイトル。
冒険や対戦を通じてモンスターカードや秘宝を集めながら、最強のドラゴンマスターを目指すRPGで、1500種類以上に及ぶさまざまなモンスターカードをコレクションする楽しみや、簡単な操作で手軽にゲームを進められる点などが好評だ。
しかし兼吉氏は「2010年9月の公開当日はほとんど数字が伸びず、じつは落胆した」と振り返る。
「ソーシャルコンテンツではリリース前後のPRよりも、新しいお客様を連れてきてもらえるような“ゲームデザイン”が重要です」と強調する兼吉氏。『ドラゴンコレクション』においてその成果──これはITサービスの世界で重要視される“ネットワーク効果”を狙うと言い換えることもできるだろう──が現われ始めたのは翌日以降。
2日目以降の勢いを見て、兼吉氏はアクティブなお客様の手ごたえを得たという。バイラルの広がりが新たなユーザーの流入を生み、そこから幾何級数的にユーザー数が伸びていく結果を生んだのだ。
リリースに向けて兼吉氏がこだわったのは、ソーシャルコンテンツの方法論を突き詰めること。当時、人気ソーシャルコンテンツはそれを専門とする開発会社(Social Application Provider=SAP)が手がけたものがほとんど。大手ゲームメーカーももちろん参入していたが、ゲームデザインや運営方法では、発展途上であった。
「そこには悔しさもありました。ソーシャルコンテンツを徹底的に研究し、きちんと真正面から取り組もうと考え、準備を進めました」と兼吉氏。
少人数での機動的な開発と運営体制、既存タイトルの知名度に頼ることのない独自IP(知的財産)の採用、ソーシャルコンテンツでは当時珍しかった(しかし本来は王道とも言える)ファンタジー風の世界観構築。このように、パッケージゲーム大手のソーシャルコンテンツへの挑戦はじつに基本に忠実だったが、同時にその方法論はパッケージゲームのそれとは大きく異なるものだったという。
それは、ソーシャルコンテンツに携わる楽しさとは何か? という質問に対して、「スピード感、そして反響がダイレクトに返って来て、まるでユーザーと対話するように『コンテンツ』に関われることです」という回答からも伺える。
カードバトルという「コンテンツ」
もともとカードゲームやボードゲームが好きだった兼吉氏は、企画にあたって、コレクション要素を取り入れようと考えた。友達と対戦したり、協力してカードを集めることは、ソーシャルコンテンツとも相性が良いはずという読みだった。
カードゲームをモチーフにしたことには、別のメリットもあった。表現能力に限界のあるフィーチャーフォンでも展開しやすく、多くの人に遊んでもらえると考えた。PC以上に普及が進んでいる“ケータイ”をプラットフォームに選び、ゲーム内容やタイトルをシンプルで分かりやすいものにしたのもそのためだ。
農園系、育成系と呼ばれる、ほのぼのとしたソーシャルコンテンツが多かった当時、ドラゴンコレクションが異彩を放っていたのは、カードバトルというモチーフだけではない。
課金をしなくてもきちんと遊べることをテーマに、ゲームをデザインしたことも大きな特徴だ。
『ドラゴンコレクション』は、無課金でゲーム内のほぼすべての要素を楽しめるよう設計されている。一度手に入れたアイテムが壊れたりしないのもこだわりの1つだ。
「ソーシャルコンテンツのビジネスで重視すべきなのは、まず多くのお客様に集まっていただくことです。そして、集まっていただいた全員が遊べるゲームを目指さなければいけない。そうすれば収益は後から自然に付いてくると思います。実際、ユーザーの年齢・性別に偏りが少ないのも『ドラゴンコレクション』の特徴です。女性のお客様が他のタイトルに比べて多いんですよ」と兼吉氏。
すべてのゲームはソーシャルな要素を内包していく
兼吉氏がユーザーの変化を直接目の当たりにしたのは昨年の東京ゲームショウだ。
「出展ブースで限定レアカードを配付したのですが、予想を上回るお客様で……。ネット上での人気はもちろん把握していたのですが、わざわざ会場まで足を運ぶ方々がこんなにいらっしゃったということに正直驚きました」
昨年の東京ゲームショウでは、GREEが巨大ブースを構え、その存在感を示した一方、『ドラゴンコレクション』もCESAのフューチャー部門特別賞を受賞。そしてネット上ではなく、リアルなイベント会場でKONAMIブースのソーシャルコンテンツコーナー前に長い行列ができていたことは、潮流の変化を強く印象づける出来事になった。
「ソーシャルコンテンツのお客様もリアルイベントでアクティブに動いてくれる、という手応えを得ました。面白いコンテンツが用意できれば、パッケージでもオンラインでも違いはないということを確認できた場でもありました」と兼吉氏は振り返る。
それでは、ゲーム史におけるマイルストーンになるであろうタイトルを世に送り出した人物は、ゲームの未来をどんな風に見ているのだろうか?
兼吉氏がいま気にかけているのは“スマホシフト”だ。フィーチャーフォンに比べ、スマートフォンの普及によって画面サイズ、処理能力が向上し、ゲームの表現力が増すことはプレイヤーにとっては歓迎すべき変化だが、間断なき開発・運営が求められるソーシャルコンテンツにおいては悩ましいことでもある。
「フィーチャーフォンに絞り込んだことで成長を続けてきたソーシャルコンテンツにとって、(スマホシフトは)リッチ化に伴うコスト増以上に、開発スピードの低下はないか?を常に気にしています」と兼吉氏。
しかし、リッチ化や開発スピードという課題は控えるものの、その未来には楽観的だ。
「KONAMIはこれまでも様々な事業を展開し、そこでヒットを飛ばすことができている珍しい会社です。成功のノウハウを共有し、各事業に反映する仕組みも備わっています。『ドラゴンコレクション』シリーズの成功を活かせるでしょうし、伝統的なゲームとのシナジーも生まれてくるはずです」
すべてのゲームはソーシャルな要素を内包していくというのが兼吉氏の見立てだ。いまはソーシャルコンテンツが中心だが、いずれパッケージゲームも含めたあらゆるゲームがソーシャルな遊びになっていく――。
「そこで鍵を握るのはコンテンツです。お客様が楽しめるコンテンツを作る、という基本姿勢は変わりません。スキルを合わせる必要はありますが、伝統的なゲームを作ってきた人たちにも、もちろん活躍の機会があります」
ソーシャルコンテンツは終わらない「サービス」だ。兼吉氏、そしてコナミデジタルエンタテインメントの取り組みはこれからも続いていく。
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