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山あり谷あり!NTTPCの「WebARENA」が歩んできた15年 第2回

当時、新人は人間インストーラーでした(笑)

海外事業者が来る前にNTTPCが25MB・月額3000円でやろう

2012年03月08日 09時00分更新

文● 大谷イビサ/TECH.ASCII.jp 写真●曽根田元

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1997年にデータセンターサービスとして開始されたWebARENAは、インターネットの爆発的な普及期を迎える時代に誕生すべくして誕生した新たなサービスであった。WebARENA開始からブロードバンド前夜の話をWebARENAの運営に関わったメンバーに聞いた。

インターネットビジネスのための一等地を提供

 WebARENA開始時のパンフレットをひもとくと、WebARENAの「ARENA」とは「大きなコンサートホールに匹敵する情報配信環境を備えたハイクオリティWWWサーバサービス」を指すと説明されている。これはISPに対してNTTPCコミュニケーションズ(以下NTTPC)のインターネット接続サービスのインフラに設置された配信環境を貸し出すという意味合いがあった。「当時のおもなコンセプトは『バックボーンを利用するお客さまがストレスなくWebブラウジングできる』『コンテンツホルダーやインフォメーションプロバイダーがインターネットの全方位的に高速で安定した情報発信を行なうことができる』ことの2点でした」と振り返るのは、NTTPC データセンタ事業部 担当部長の伊藤琢巳氏だ。

NTTPC データセンタ事業部 担当部長 伊藤琢巳氏

 こうしたWebARENA誕生の背景には、1990年代後半のインターネット業界におけるサバイバルレースがあった。1985年にパソコン通信の会社として設立されたNTTPCが「InfoSphere」ブランドを掲げ、ISP事業に参入したのは、1995年1月。他社に先駆けてインターネット接続サービスをスタートさせたNTTPCは、国内バックボーンを拡充すると共に、他のISPとのトラフィック交換(ピアリング)を積極的に進めた。しかし、大手・新規の事業者が次々と参入したことで、サービスの多様化と価格破壊が進み、厳しいサバイバルレースに突入する。こうした中、モデムとInfoSphere加入クーポンのバンドルやIP網の卸し売りなどの施策とともに立ち上げられたのが、WebARENAなのだ。高速な回線で他のISPとピアリングされているInfoSphereのインターネットインフラは、まさに一等地。「インターネットビジネスのための場所を貸してくれ、という要望でできたサービスですね」(伊藤氏)というコメントも頷ける。

センターステージに立つ時が……来た。と書かれた当時のパンフレット

 当初のWebARENAは「Gold」がラックを貸すハウジングで、「Silver」が自社ドメインを利用できる専用サーバーサービスでスタートした。インターネット関連サーバーの運営や回線の終端としてNTTの局舎を借り、サービスを提供していたこともあり、当時から品質はキャリアグレードだった。実際、カタログには、「耐震性、停電対策もトップレベルの設備を誇る」と記載されている。また、専用サーバーサービスのSilverでは、マシンの運用・管理をNTTPC側が一元的に行なうメリットについても言及されており、以降のWebアウトソーシングの流れを見越していたことがわかる。

 1990年代後半、米国型データセンターの上陸や情報通信事業の規制緩和により、従来の通信事業者やISPに加え、これら新興ホスティング事業者が加わった。クボタシステム開発(現ファーストサーバ、1996年創業)、CPI(現KDDIウェブコミュニケーションズ、1997年からホスティング開始)、さくらインターネット(1996年創業)、クララオンライン(1997年創業)、アイル(現GMOクラウド、1997年創業)などが市場に参入。競争は一気に激化していく。

 一方で、ドットコムブームの到来とともに、これらハウジングや専用サーバーのサービスは徐々に知名度を上げていく。インターネットビジネスの事業者がサービスを継続的に提供するためには、安定したサーバー運用と広帯域なネットワーク、堅牢なファシリティが重要であることが理解されるようになったわけだ。NTTPC データセンタ事業部 技術開発部 サーバプラットフォーム担当 主査 萩原正浩氏は、「2001年にはWebARENA Soloという名前で専用サーバーのサーバーレンタルを開始しました。フルマネージド型で始めたので、月額10万円とけっこう高かったですね」と振り返る。

NTTPC データセンタ事業部 技術開発部 サーバプラットフォーム担当 主査 萩原正浩氏

共用ホスティングで市場を一気に拡げる

 開始当初、ある意味業者向けのサービスだったWebARENAだが、1999年にリリースされた「WebARENA Suite」で一気に市場を拡大することになる。共用型のホスティングであるWebARENA Suiteは、企業だけではなく、個人まで視野に入れた価格設定やサービス開発が行なわれた。そのため、Webだけではなく、メール用のディスクスペースも標準で用意され、SSLやメーリングリストもいち早く実装された。今となっては当たり前だが、自前でサーバーを建てることなく、こうした機能が利用できるのは驚きであった。

 なにより衝撃的だったは25MB・3000円/月という価格だ。これについて伊藤氏は、「当時、米国ではこの手のサービスが多かったですし、大手の事業者が日本に上陸にするという話もありました。ですから、先に25MB・3000円という価格で展開してしまおうというのが目論見でした」と語る。競合との競争という面もあるが、やはり玄人向けのハウジングや専用サーバーではなく、低価格な共用ホスティングで市場自体を拡げようというのが、同社の戦略だったわけだ。

 果たして、この戦略は大当たりする。「当初、3000ユーザーくらい来ればいいなと考えていましたが、一気に2万ユーザーくらいまでいきました」(伊藤氏)とのことで、裾野は広がった。個人や小規模なユーザーも増え、「マイドメインでマイサーバーを持つ」というのも、夢ではなくなったわけだ。

NTTPC データセンタ事業部 データセンタサービス担当 担当課長 祷 陽一郎氏

 こうして安価な共用ホスティングを取り入れたことで、WebARENAはより広い意味でのITアウトソーシングのブランドとして認知される。NTTPC データセンタ事業部 データセンタサービス担当 担当課長 祷 陽一郎氏は、「WebARENAはユーザーによって、ブランドの姿が違うんです。ある人はハウジングだし、ある人はホスティングのブランドとして認知していると思います。いずれにせよ、当時はこういうサービスという決まりがなく、自由な感じでした」と当時を振り返る。

増え続ける管理の負荷とセキュリティ問題

 一方で、その急成長を支えるインフラの構築は、人海戦術的な力仕事も多かったという。2000年入社でWebARENAの部署に配属されたNTTPC データセンタ事業部 サービス開発部 ホスティングサービス担当の伊藤綾子氏は、「新人はとにかくサーバーにメモリを挿して、キッティングやOSインストールという作業の繰り返しでした。本当に人間インストーラーでしたね(笑)」と振り返る。サービス開発当時は、ラックマウントサーバーといえばサン・マイクロシステムズのSPARCサーバーしかなかったため、ラックにボックス型サーバーを詰め込んでサービス提供していたという。

NTTPC データセンタ事業部 サービス開発部 ホスティングサービス担当の伊藤綾子氏

 そして、2000年以降のブロードバンド普及でさらに顕著になったのが、セキュリティの課題だ。OSやソフトウェアの脆弱性を狙うCodeRedやNimda、Blasterなどのウイルスが次々と登場し、サーバーへの不正侵入を試みた。この攻撃の矢面に立っていたのが、現場でシステムを運営する萩原氏や伊藤綾子氏だ。両氏は、「秒殺というか、インターネットにつないだ瞬間に大量の攻撃に晒されました。インターネットが以前に比べて汚れてきたのを実感しましたね」(萩原氏)、「ホスト名を逆引きできないトラフィックがApacheのログにどんどん溜まっていくんです。MRTGなどで表示しているトラフィック量もあり得ないほど増えて、上司に慌てて報告したのを覚えています」(伊藤綾子氏)と、攻撃の恐怖を振り返る。

 個人情報保護法の施行やプライバシーマークの取得などが進んだ当時の動向もあり、WebARENAではセキュリティ対策に関していち早く本腰を入れた。アンチウイルスや迷惑メール対策などの製品をいち早くサービスに導入したほか、OSやサーバー設定などをつねにセキュアな状態に保つよう継続的に取り組んでいる。「UNIXのサーバー構築や管理に長けていないユーザーも増えていましたので、デフォルトでオープンになっていたSSHを制限にしたり、試行錯誤を重ねて、セキュア化をしていきました」(萩原氏)という。こうしたノウハウの蓄積は、今のWebARENAを支えているサービスのDNAとなっていく。

 ●

 1990年代後半からインターネットアスキーやネットワークマガジンなどの月刊誌を担当してきた筆者からすると、今回の話はまさにサービスの舞台裏をのぞいたようで面白かった。当時、インターネット関連業界は、新興の事業者が次々と参入し、身軽なフットワークと価格勝負で大手を駆逐していくことすらある下克上の世界であった。今や上場するような大手の事業者も、最初は数台のサーバーに未来を描き、新しいビジネスをスタートさせていた。WebARENAは、そんな多くのビジネスを支えつつ、自らも物々しい時代の空気の中でスピーディーに変化を繰り返してきたわけだ。

 さて、WebARENA 15周年を振り返る次回は、WebARENAの代名詞ともいえるサービスに育ったWebARENAのVPSサービス登場の背景を振り返りつつ、クラウド時代のWebARENAの形を予想してみたい。

NTTPC「サーバーお乗り換えキャンペーン」を展開中!

 WebARENA15周年を記念し、NTTPCではWebARENAのVPS SuitePRO V3や共用サーバーSuiteXの初期費用や月額利用料が無料になる「サーバーお乗り換えキャンペーン」を以下の要項でスタートさせた。

対象商品

VPS:WebARENA SuitePRO V3タイプ

共用サーバー:WebARENA SuiteX

※オプションの利用料金はキャンペーンの適用外になります。

期間

2012年2月14日(火)~2012年5月14日(月)

※オンラインでのお申し込みは2012年5月14日(月)17:00まで 書面によるお申し込みは2012年5月14日(月)の消印有効

対象ユーザー

キャンペーン期間中に、対象商品を新たにお申し込みで、契約時のアンケートにお答えのお客さま。

※ 契約時のアンケートにお答えのない場合、キャンペーン対象外となり通常料金でのご利用となります。

キャンペーン特典

VPS:WebARENA SuitePRO V3タイプ
初期料金無料
共用サーバー:WebARENA SuiteX
初期料金+月の利用料が最大3ヵ月分無料 ※
※ 年一括払いでお申し込みの場合は、年額利用料の3ヵ月相当が無料となります。 ※ 1ヵ月目は加入日より日割り計算となります。

キャンペーン適用条件等

・キャンペーン適用期間終了後は通常料金となります。
・オプションの利用料金はキャンペーンの適用外になります。
・お申込み内容に誤りがあった場合には、キャンペーン特典が適用されない場合があります。
・本キャンペーン内容は予告なく変更及び終了する場合がございます。
・最低利用期間は1年となります。途中で解約された場合、残存期間分の料金は請求対象となります。

 締め切りは2012年5月14日(月)までとなっているので、共用ホスティングやVPSを検討しているユーザーはぜひ検討してもらいたい。


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