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HPは病める出版業界に“クラウドのメス”を入れるか

2011年09月09日 22時00分更新

文● 盛田諒/ASCII.jp編集部

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コストの削減から新しいイノベーションは生まれるか

 Web最適化、情報の一元管理化、それによる業務の効率化。

 メディアをもとに話してきたこの3つの流れは、実はHPがビジネスプリントの世界で手がけてきたシステムだ。HPは5月に米プリンテリジェント社を買収し、マネージドプリントサービス(MPS)事業に本格参入している。MPSは企業内のコピー機/プリンター/FAXなどを一元管理する、中堅企業向けのソリューションだ。MPSではいまや3000以上のクライアントを持っている。

HPはMPS(マネージドプリントサービス)事業にも本格参入。企業内の情報管理を一手に担う

 「オフィスの問題はプリンターで補える。ではオフィスの外にいるとき、書類をどう出力する? 請求書や確定申告などの公文書をどう出力し、管理する? すべてサーバー上で管理すればいい」

 彼らがねらってきたのはまさにここだ。時間のムダ、業務のムダ、経費のムダ。あらゆる企業の“ムダ”というコストにサービスで切り込んでいく。Webサーバーを使ったクラウド印刷技術「ePrint」は、いつでもどこでも業務の動きを止めないための仕組みでもある。業務と業務の間にある時間や経費、外注先をWebでクリアーにしていくこと。それこそが彼らのクラウド時代のIPG事業戦略の目的ではないだろうか。


テクノロジーの進化は“ムダ”の山を登った先にある

 最後に驚きの話を1つ。HPは薬品業界にも進出している。

 最近、なんと創薬プロセスにもプリンターの技術が活かされようとしている。ごく簡単に言えば、プリンターのインクタンクを化学物質に置き換え、適切な配合をする機械が試験的に開発されている。薬品を“プリント”することで、1つ1つの実験を高速化かつ効率化できる。創薬には半導体などと同じように研究開発のプログラムがある。現在はマニュアルで行なわれているそのプロセスを、オートメーションによって高速化していきたいという。

 この“薬品プリンター”、今は研究のためだけに使われているが、創薬にかかる経費そのものも大幅に減らせるはずだ。将来的にこれが小さな製薬会社に入っていけば、製法が共有されているジェネリック医薬品のように、“プリンテッドメディシン”のような薬品が使われる日も来るかもしれない。

驚きの「薬品プリンター」。インクジェットプリンターのインクタンクの位置に薬品成分を入れて“調合”する仕組みだ。創薬時のプロセスに実験的に組み込んでいる

 今も昔も、時代を動かすあらゆる技術の要は“効率化”にあった。ムダを排除したところに時間の余裕が生まれ、そこに新しい価値が生まれてくる。atomからbitへ、bitからatomへ。デジタルとアナログが結び合った時代は、その“ムダ”の削減のあとにイノベーションという形で訪れるのかもしれない。



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