7月9日、エーピーシージャパン(以下、APCジャパン)は都内で「SOLUTIONS FORUM」を開催し、それにあわせた新製品発表会を行なった。UPSベンダーとして高いシェアを同社だが、ドイツのインフラ系企業であるシュナイダーエレクトリックの傘下に入り、「APC by Schneider Electric」としてデータセンターのインフラを中心に据えつつある。
今のデータセンターは寒い
記者発表会においてシュナイダーエレクトリックのチーフオフィサーであるアーロン・デービス氏が、APCの親会社であるシュナイダーエレクトリックについて説明した。170年以上の歴史を持つ同社は、鉄工業からスタートし、20世紀は電気と制御系、そして21世紀はエネルギー、工業、ビル、住宅、データセンターなどのエネルギー管理という分野をビジネスのコアに据えている。スマートグリッドの例を見るまでもなく、「ITの世界とエネルギーの世界は融合しつつある」(デービス氏)とのことで、シュナイダーエレクトリックにとって、APCの抱えるデータセンターソリューションは存在感を増している状況だ。
デービス氏が訴えたのが、UPSや冷却装置の負荷を考えると、サーバーのみの対策では、効率が損なわれるという点。「すべてのコンポーネントと設計を見直し、データセンター全体を最適化する必要がある」(デービス氏)。これに対して、APCが提供するのが、過剰な冷却を回避するためのクラス最高のコンポーネント(Component)、近接冷却(Close-Coupled Cooling)、ホットエアコンテインメント(Containment)、キャパシティ管理(Capacity Manager)の4つの「C」だという。
続いてAPCプロダクトラインマネージャー ジョン・ニーマン氏は、APCの冷却ソリューションと昨今のデータセンターの展望について解説した。同氏はエネルギーコストの増大や電力密度の増加といった課題を挙げつつ、昨今高密度化がますます進む米国の現状を紹介。「従来のデータセンターはラックあたり8~12kWで設計されていたが、IT機器の高密度化が進んだことで20~35kWで設計するデータセンターも増えてきている」(ニーマン氏)。こうした課題に対して、APCでは冷やすIT機器の近くで冷却する「InRow Coolong(列単位冷却)」、ラックの入り口で温度を監視する「Active Response Controls」、そして熱の封じ込めを行い、冷気と熱の混合を防ぐ「コンテインメントシステム」の3つを挙げた。このうち、InRow Coolingに関しては、「発表してからすでに6年が経つが、ようやく冷やすモノの近くに置くというコンセプトが受け入れられてきた」と話す(ニーマン氏)。
ニーマン氏は将来のデータセンターの展望として、「高温下」や「外気冷却の導入」、「旧設計と新規のハイブリッド型」という3つのトレンドを示した。特に高温化は顕著な現象で「今のデータセンターは寒いので、セーターやジャケットを着なければならない。しかし、最近は多くのデータセンターが徐々に温度を上げている。(空調関連の学会である)ASHRAEでも18~27度と結露しないレベルであればよいと基準を変えている」という。とはいえ、27度になると多くのサーバーは自動的にファンを回しはじめてしまうので、節電に限界がある。こうしたトレンドを見据え、今回投入されたのが、既設のデータセンターに後付けできるAPCの新冷却システムだ。
近接冷却を後付けできるシステム
今回発表された新製品は冷媒ポンプ方式の冷却システムで、ラック上に設置する冷却ユニット「InRow OA」とInRow OA用の冷媒分配装置「InRow RDU」の2製品で構成される。ITラックのホットアイル側の上部にInRow OAを設置し、排熱を冷却。InRow OAによる冷却のための冷媒はRDUから供給される。つまり、既設のラックに対して、冷却システムを後付けし、高密度化に対応することができるわけだ。
冷媒の冷却は水冷および空冷が利用でき、最大27kWの冷却を実現するという。コンプレッサーを使用しないため低消費電力。最低負荷要求もないため、サーバーが少ない台数でも効率的に運転が持続する。
既存のAPCのInRowソリューションのなかでは比較的大規模なユーザーを対象としており、高密度化を計画するデータセンター事業者をメインのターゲットに据えている。価格は10kWラック14本にシステムを導入した場合のInRow OA、RDU、アクセサリ等を含め、2900万円になる。