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「ASCII Research Report」 リアルタイムウェブ時代の企業ブランディング セミナー

Twitter界の著名プレーヤーが語る、Twitter企業活用の鉄則

2010年04月16日 09時00分更新

文● まつもとあつし 写真提供●ケツダンポトフ(http://ketudancom.blog47.fc2.com/ )、ASCII.jp

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第2セッション
「ソーシャルメディア事例:“つぶやき“ではなく“対話”へ~」

 第2セッションは、株式会社博報堂DYメディアパートナーズ メディアコンテンツ・ソリューション局のクリエイティブ・ディレクター島崎昭光氏をモデレーターに迎え、以下のパネラー・特別ゲストでのディスカッションを行なった。

  • ホテルサンルート札幌/ホテルネッツ函館 グループ代表 才式祐久氏
  • テーブルマーク株式会社 コーポレートコミュニケーション部 部長 末広栄二氏
  • 株式会社内田洋行 知的生産性研究所 高橋祐人氏
  • NECビッグローブ株式会社 ポータル事業部「ついっぷる」 高橋幸恵氏
  • ヤマハ発動機株式会社 経営企画部 ブランド戦略グループ エクスレルム 二宮宏央氏
  • 特別ゲスト:株式会社博報堂 クリエイティブ・ディレクター 須田和博氏
博報堂DYM島崎氏

博報堂DYメディアパートナーズ メディアコンテンツ・ソリューション局のクリエイティブ・ディレクター島崎昭光氏。Twitterが今のように普及する以前の2007年に、オロナミンC「キモチスイッチ」キャンペーンでTwitterを採用するなどの実績を持つ

 キーノートや第1部のセッションでもあったような、対話を通じて顧客とのコミュニケーションを深め、ブランディングを行なっていくプロセスを実践しているのが、テーブルマークの末広氏だ。

 末広氏(@KATOKICHIcoltd)によると、会社名が「加ト吉」から「テーブルマーク」に変わり、ブランディングの必要性に迫られたことが、Twitterの活用を始めた背景にあった。新社名でのTV CMがまだ流れていなかった2010年の1~2月に、Twitterを使って直接ユーザーに語りかけてみようと考えたのがきっかけだという。テーブルマークをはじめとする食品メーカーにとって、日常の顧客は流通業界などの取引先であり、その先にいる消費者と直接交流するのは新鮮な体験だった。

 島崎氏は、「Yesカトキチなう」というコピーが広告的にも優れたものであったと評価するが、末広氏によると「言葉を柔らかくしたかった。そして、すでに認知されていたキャッチコピー“Yes高須クリニック!”に、インスパイアされたものだ」とか。

テーブルマーク末広氏

テーブルマーク コーポレートコミュニケーション部 部長の末広栄二氏。言わずと知れた@KATOKICHIcoltd、通称「かときちなう」の中の人だ。「Twitterは企業ブランディングのための“自社メディア”になる」

 そして、島崎氏は「どのようなキャラクター設定で、Twitterを用いた対話を演出していくのが良いのか?」と、大塚製薬の「体内怪人」キャンペーンなどを手がけたゲストの博報堂 須田氏に質問を投げかけた。須田氏は「“体内怪人”のキャンペーンでは、クライアント企業自身ではなく、代理店としてキャラクターを演出することで、思い切った取り組みを行なえた。だが、企業の担当者が直接Twitterで消費者と向き合うのには、かなり高いスキルが求められるのではないか?」と、Twitterでの取り組みが従来のマーケティングと異なる点を指摘した。

 これに対して、テーブルマーク末広氏は「普段の広報の仕事と、本質的には変わらない」と答えた。「このような新しい取り組みでは社内調整していてはとても追いつかないので、例えば自社製品についてユーザー同士がやり取りをしている中にも、思い切って飛び込んでいく」という。新しいソーシャルメディアへの向き合い方は、まずは「性善説」に立つことが大切だと末広氏は説く。そして、ユーザーはその場を気持ちよく楽しみたいはずだというポジティブな前提に立てば、その中に飛び込んでいくことができるはずだというのだ。

 次に、商品の紹介を中心とした販売促進のためのTwitter活用について、才式氏による事例の紹介が行われた。

才式氏

ホテルサンルート札幌/ホテルネッツ函館 グループ代表の才式祐久氏。個人の@saisikiのほか、@sunroutesapporoおよび@nets_hakodateのアカウントから、各ホテルの担当者がそれぞれ情報発信している

 才式氏(@saisiki)がTwitterを使って行なったのは、ホテル サンルート札幌の「朝食無料キャンペーン」だ。当初、宿泊者を対象にしていたが、Twitterユーザーから「宿泊者でなくても食べれますか?」という想定外のコメントが寄せられた。それに対して、もちろん断るという選択肢もあったのだが、才式氏は支配人と相談のうえ、「先着5名様まで無料、以降は1人500円で」と回答したところ、早速時間ぴったりに4人連れがホテルを訪れ、「サンルートよかった」とのコメントを残してくれたという。

 その他にも、「札幌ツイッターオフ」に会場を提供し、企業アカウントとしてこちらも有名なOKWaveの中の人(@OKwave)も参加を表明したところ、50名を超すユーザーが集まった。この企画の担当者も「お客様はターゲットではなく、パートナーだ」ということを痛感し、スタッフの教育面にも良い影響を及ぼす出来事だったという。

 島崎氏は「Twitterは、現時点では流行り物なのでアテンションが高いが、そこに依存した販促は当然ながら効果が薄い」と指摘し、一方でこの事例のように「Twitterそのものをサービスとし、ホスピタリティを提供する場となることが、良い結果を生む」と分析した。

内田洋行高橋氏

内田洋行 知的生産性研究所の高橋祐人氏。内田洋行は、3D/ARなどの研究に関する情報発信をする@3DiLab、広報担当者が担当する@UchidaYoko(ウチダヨウコ)といった複数のアカウントで、顧客と向き合っている

 内田洋行(@UchidaYoko)の高橋氏は、事例としてTwitterやUstream、あるいはセカンドライフやAR技術を使ったバーチャルな施設ツアーを紹介。リアルな見学ツアーでは、多くの場合注文や批判は寄せられないが、Twitterイベントなどでは耳の痛い突っ込みも多く、それがフィードバックとして参考になるという。また、バーチャルでの体験を経たユーザーに、「次は実際に場を訪れたい」という意識を持ってもらえる。バーチャル空間での体験が、リアルに対しても良い影響を与えているというわけだ。

 一方で、製品キャンペーンを通じての取り組みを紹介したのは、ヤマハの二宮氏。電動アシスト自転車「PAS」で全国を巡り、そこでの出来事を発信していくことで、電動自転車の楽しさを伝えるというキャンペーンサイト「Becle(びーくる)」を展開している。二宮氏が強調するのは、従来であれば、こういったキャンペーンで発信するのは編集済みのコンテンツだったが、Twitter(@becle_jp)によって、未編集だが、リアルタイムで情報の発信が行なえるようになったことだ。

ヤマハ発動機二宮氏

ヤマハ発動機株式会社 経営企画部 ブランド戦略グループ エクスレルムの二宮宏央氏。電動自転車「PAS」のレンタル情報サイト「びーくる」(http://becle.jp/index.html)で、ハッシュタグ「#becle」を使った情報発信を行っている。

 二宮氏は、「Twitterでつぶやくためには、あの事象を見る、あるいは話に行くなど、直接働きかける必要がある。それは、参加者のコミットメントの高まりにつながっていく」と語る。こいうった動きが、プロモーションのみならず、ほかのメディアや取引先・協力先に対しても良い影響を与えているはずだとする。

 そして、サポートの事例。「変化が求められるポータルサイトの、ひとつの可能性」(BIGLOBE高橋氏)として、BIGLOBEはTwitterクラインアント「ついっぷる」を提供している。ついっぷるは、カラムやフィルタ表示に対応しており、非公式RTと公式RT両方をサポートするなど、シンプルながらも便利なTwitterクライアントだ。

 初心者の利用も多いという「ついっぷる」の中の人(@twipplesan)として、BIGLOBE高橋氏は日々ユーザーから直接寄せられる質問にも答え、必要に応じてついっぷるの改修も行なっている。サポートセンターを経由しない、スピーディな対応を実現しているわけだ。UstreamやTwitterで中の人として顔を出していくことで、ユーザーからより多くのアクティブな反応が寄せられるようになったという。また、Twitterのまとめサービス「Togetter」をつかって、ついっぷるへの要望をユーザー側がまとめてくれるなど、ユーザーと一緒にサービスを作り上げていくプロセスを実感している。もちろん、ユーザーとそのように向き合うためには機動力が求められ、その点には覚悟が必要だと話した。

BIGLOBE高橋氏

NECビッグローブ ポータル事業部「ついっぷる」の高橋幸恵氏。Twitterクライアントサービス「ついっぷる」に関して、アカウント@twipplesanでのユーザーとのサポート・対話を担当している

 ここで、島崎氏は「ユーザーからの問いかけに対して、どこまで、どのように対応するのかというルールを設けているか?」という質問を投げかけた。BIGLOBE高橋氏が述べたように、担当者の裁量で判断しなければならないことも多く、負担が大きかったり、企業としてリスクが高まる場面も想定されるからだ。

 それに対して、才式氏は「特にルールを設けておらず、現場がそこから学ぶことに期待している」と答えた。末広氏は「かときちなうは、世界観として緩い感覚でやっているので、例えば製品に対する問い合わせでも、分からないことがあれば、分からないと素直に答えることもできる」。ほかの登壇者も特にルールを定めずに取り組んでいるという回答だったが、高橋氏や二宮氏は、Twitterに流れる空気を読み取りながら、新しいツールならではの“遊び”を通じて、ユーザーとの対話を深められるスキルが求められると語った。そして末広氏は、フォロワーが少ない間はある程度やり直しが利くので、杓子定規に考えずに取り組んだ方が良いのではないかと付け加えた。

博報堂須田氏

特別ゲスト:博報堂 クリエイティブ・ディレクター 須田和博氏。「ミクシィ年賀状」などを手がけており、『使ってもらえる広告』(アスキー新書)の著者でもある。

 結びとして、ゲストの須田氏は「mixiコミュニティでも体験していたことだが、Twitterでのユーザーとの対話においては、最初からすべてを分かって取り組めるわけではなく、やってみて学びながら進めていくことが大切だということを再確認した。企業が直接消費者と向き合い、対話が始まっていく。広告代理店には、それを如何にサポートできるかも問われている」と話した。島崎氏は「Twitterで顧客と直接向き合うということは、担当者自身が自社サービス・商品に対して真正面に向き合うことも同時に求められる。Twitterの企業活動の黎明期である今は、試行錯誤を通じてのそのスキルを向上する機会でもある」と語って、セッションをまとめた。

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著者紹介――まつもとあつし

まつもとあつし

 ネットベンチャー、出版社、広告代理店などを経て、現在は東京大学大学院情報学環修士課程に在籍。ネットコミュニティやデジタルコンテンツのビジネス展開を研究しながら、IT方面の取材・コラム執筆、ゲーム・映像コンテンツのプロデュース活動を行なっている。デジタルハリウッド大学院デジタルコンテンツマネジメント修士。著書に『できるポケット+Gmail』など。公式サイト 松本淳PM事務所[ampm]

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