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【所長コラム】「0(ゼロ)グラム」へようこそ

TVアニメ53作品と、消費のパースペクティブ

2010年03月16日 06時00分更新

文● 遠藤諭/アスキー総合研究所

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 電通は2月10日に、「メディア・コンテンツ領域の機構改革について」というリリースを出した。それによると、4月1日付けで「MCプランニング局」という部署を新設するのをはじめとして、新中期経営計画に基づく戦略的な取り組みがなされるという。

 「生活者の消費スタイルが、かつてない程に流動化し、企業は絶えざる変化に直面しています。クライアントのブランド課題が、複雑化の一途を辿る中、その解決にあたり、メディア・コンテンツの重要性は一層高まっています」(※同社リリースより)

 これまで、テレビ、新聞、雑誌、ラジオといったマスコミ4媒体を中心として、業務推進機構やプランニング機構は別々に配置されていた。いわば、コミュニケーションの物理的なレイヤーで分けられていたわけだ。それを、MCプランニング局という新部署を設置して、メディアやコンテンツを統合的に、いわばアプリケーションレイヤーから眺めることができるようにするという。

 消費者のスタイルが、どんどん変化してきているのは、紛れもない事実である。1999年のiモードから始まって、2001年にはYahoo! BBが登場し、この10年ほどの間にインフラの整備が進んだ。そして2005年頃から、一般の人たちのコミュニケーション基盤も大きく変わったといえる。会話の中に出てくる恋人、友だち、家族、食べ物、タレントやスポーツなどの話題は変わらないが、情報アクセスのパイプやエンターテイメントの手段が、いつの間にか入れ替わっているのだ。

 これを象徴するようなトピックが1つある。2004年末から2005年初めにかけての、ポータブル音楽プレーヤーの販売状況である。これは、アスキー総研の『iPhone利用実態調査』の中で、Gfkさんからデータをお借りして引用させてもらったものだが、図1のようなグラフになっている。

ポータブルオーディオプレーヤーのシェア推移

図1:ポータブルオーディオプレーヤーの、台数ベースでのシェアの推移。2004年の年末商戦ではMDが大きく上回っていたのが、2005年1月末にはデジタル音楽プレーヤーが逆転した。 出典:Gfk Japan

 「パソコンがないと使えないようなシリコンオーディオプレーヤーは、一般層までは売れるはずがない」と、まだ当時は言われていた。その通りで、2004年12月の年末商戦では、売り上げでMDプレーヤーがデジタル音楽プレーヤーを大きく引き離していた。ところが、2005年が明けると、1ヵ月を待たずにそれが逆転してしまうのだ。

 携帯のネット活用が、まだ日本の専売特許ともいえた時代であるし、MDプレーヤーは、香港などのアジアの一部と英国・日本でしか普及しなかったメディアである。したがって、あくまで日本市場における一分野についてではあるが、2005年頃に「デジタルの臨界」ともいうべきものを超えるということが起きている。ちなみに、着うたフル端末も、auの2004年冬の新製品から始まって、2005年夏にかけて各社出そろっていた。

 わずか5年ほどの間に、我々をとりまくメディア環境が、大きく様変わりしているのだ。


切り口は、伝達する手段ではなく
コンテンツそのもの

 こうした変化に答えるために、メディアも広告業界もさまざまなアプローチを展開してきている。今回の電通の機構改革に関していえば、それが技術論ではなく、メディアとコンテンツが重要であるという、いわば原点まで立ち返っているところが注目すべき点だろう。

 もともと、メディアやコンテンツというのは、それを提供する側と、受ける側の2つのポジションしかなかった。そこに、「みなさんお楽しみのところですが、ちょっとこの話を聞いてくだいな」と入ってきたのがTVコマーシャルなのである。もちろん、消費者は広告に情報を求めている部分もあるが、それもメディアやコンテンツとの関係で語られるべきだろう。

 消費者が見たいのは、サザエさんであって、ニュースというメディアであって、あるいは朝まで生テレビというコンテンツなのである。すでにニュースなどは、ネットで流される場合に、新聞社が作ったものなのか、テレビ局が流しているものなのか、ブログメディアなのか、あるいは個人が書いているものなのかさえ、見分けがつかなくなりつつある。

 つまり、テレビ、ラジオ、新聞、雑誌といった物理レイヤーではなく、コンテンツとその関係性というアプリケーションレイヤーが、きわめて重要な意味を持ってきているのだ。

 ところで、ニュースやドラマといったアプリケーションの消費状況を細分化して見ていくことは、いままではあまり意味がなかった。広告やプロモーションがマス主体だったので、あまり細かいことが分かっても使えなかったからだ。ところが、現在は検索広告のキーワードの設定のように、細かく知ることに意味がある。

 それは、単純にターゲッティングの精度を上げるという議論だけではなく、マーケティングの各フェーズにおいて、企画を検証するためにも有効な手段となる。ユニクロの「ガッチャマンTシャツ」は商品が消費者に刺さっただけでなく、同社のその層へのブランドの訴求という点でも大きくプラスに働いたものと思われる。

TVアニメの協調関係

図2:TVアニメ試聴状況の協調関係。アスキー総研「MCS 2010」より。協調関係の強いものに関して、分かりやすい例のみ色づけしてみた。

 図2は、2009年4~9月に放送された、TVアニメの試聴状況の協調関係を出したものだ。TVアニメには子供向けのものもあれば、深夜テレビで放送されている“大きいおともだち”向けのものもある。子供向け以外のアニメでもさまざまな傾向があり、それぞれの視聴者層が存在している。

 たとえば、大型テレビのプロモーションを考えるとしよう。大型テレビの購入者は、さまざまだと思うが、『ヱヴァンゲリヲン』や『サマーウォーズ』を見た人で切り出してみる。彼らの接触媒体や利用しているサービスをねらえば、きわめて明確にターゲッティングされたプロモーションが可能となる。単にリーチできるだけでなく、「ヱヴァ/サマーウォーズ」層として、誰がどんな視聴環境で何を求めているかなどの議論がより明確になる。

 さて、こうした背景をにらんで行なったアスキー総研の『MCS(メディア&コンテンツ・サーベイ)2010』の集計が終わり、先週より集計データとアプリケーションの販売を開始している。1万人規模のユーザーに対して、11ジャンル777作品の視聴傾向、ネット323サイト、ケータイ105サイトの利用状況などを聞いた。まさにメディアとコンテンツの実際が分かる、国内初の詳細なデータとなっている。

 メディアとコンテンツを知ることが、これからの広告・プロモーションや商品企画・マーケティングにおいてきわめて重要となる。そして、ネットや携帯でのメディア行動が、その消費者を知る大きなカギとなるのである。「MCS 2010」の詳しい情報は、アスキー総研サイトの該当ページをご覧のこと。また、2010年3月17日(水)の18時より、「MCS 2010説明会」を行なうので、ご興味のある方はぜひお運びください。

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