速度を2倍にするチャネルボンディング
40MHzチャネルとは、隣接した2つの20MHz幅チャネルをつなぎ、2倍の帯域幅を得る技術である。これにより一度に伝送できるデータ量が増えるため、データ通信速度が向上する(図2)。これは「チャネルボンディング」と呼ばれ、日本では2007年6月の電波法改正により使用できるようになった。11aではW52/W53で8チャネルあるが、40MHzチャネルとして使えば4チャネルぶんしか確保できない。しかし、2007年2月の電波法改正で5.6GHz(W56)の利用が可能となり、新たに11チャネルが増えた。W52/W53と合わせると19チャネルになるため、40MHzチャネルでの運用に十分な環境が整っている。
なお、2.4GHz帯でも40MHzチャネルは不可能ではないが1チャネルぶんしか確保できないため、従来の11b/gとの干渉を避けて運用するのは難しいと思われる(正確には2.4GHz帯のチャネル幅は22MHzであり20MHzではない)。2.4GHzでの運用はまだ解決するべき課題が多いとする立場もあり、Wi-Fiアライアンスのドラフト2.0の認定にも含まれていない。
OFDMの効率改善
OFDM(直交波周波数分割多重)は、11a/gで採用されている変調方式である。11a/gの20MHzチャネルでは、52の搬送波(データ用48、同期用4)で通信速度54Mbpsを実現している。11nではこれを改良し、20MHzチャネルでも56の搬送波(データ用52、同期用4)にして65Mbpsを実現している。
11a/gと同じ20MHzチャネルを使用しているが互換性がなく、特に「HT(ハイスループット)モード」と呼ぶ。HTモードの20MHzチャネルを2つ合わせて40MHzチャネルにすると、搬送波が114になるように工夫されている。この場合、通信速度が150Mbpsとなる。
ただし、11nでは従来の11a/gと互換性のある54MbpsのOFDMも必須とされている。詳しくは後述するが、これは「レガシーモード」と呼ばれる。
ショートガードインターバル
ガードインターバル(GI)とは、送信されるシンボル(ビット)とシンボルの間に挿入される間隔のことを指す。これは、受信側で反射などによりタイミングがずれた信号が重なり、復元が困難になることを防ぐ仕組みである。11a/gでは800ナノ秒と決まっているが、11nではオプションとして400ナノ秒も可能になっている。これをショートガードインターバル(ショートGI)と呼ぶ。ただし、時間差で届く電波同士の干渉(フェージング)に弱くなるため、近距離で通信品質に問題のない範囲で使うべきオプションである。
以上の技術を総合することで、理論上は600Mbpsの通信が可能になる。ところが、実効速度はこれよりもはるかに低いことが予想される。その理由はCSMA/CAによるオーバーヘッド、つまり送信やACKの待ち時間などをいっさい考慮していないからだ。このため、たとえデータそのものが600Mbpsで送信されても、トータルのスループットは低下してしまうことになる。
11aを例として試算してみると、待ち時間などを考慮に入れた場合の計算上の最大スループットは約38Mbpsである。一方、11nでもデータ伝送速度とACKの送信速度を無限大(送信時間をゼロ)と仮定しても、理論上は140Mbps程度にしかならない。MIMOや40MHzチャネル、HTモードなどを駆使してもCSMA/CAの仕組みを変えない限り、実効速度100Mbpsの壁はかなり厚いのである。次回は、この壁を破るために行なわれたMAC層の拡張について紹介しよう。
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