さて今回は前回に引き続き、S3 Graphics社(以下S3)に移管されてからのS3の話である。
DeltaChromeで船出した新生S3
移管当初のS3の作業は新コアの開発というより、これまで開発してきたGPUコアを、台湾VIA Technologies社(以下VIA)のチップセットに統合する作業であった。
まず最初に、VIAが2000年に発表した「KL133/KM133/PM133」というチップセットに、「Savage 2000」の2Dエンジンと「Savage 4」の3Dエンジンを組み合わせ、さらにUMA(Unified Memory Architecture:メインメモリーをビデオメモリーとして使う)対応とした「Twister」コアを統合している。さらに、これを高速化した「Twister-DDR」は、VIAのKM333などのチップセットに搭載された。
これと並行して、S3は新コアの開発も進めていた。その最初のものが、2002年6月に発売を予定していた「AlphaChrome」である。もっともこの製品、当初は「Savage XP」という製品名が予定されていた。開発コード名は「Zoetrope」で、実際はSavage 2000の機能向上版といったものだ。
その実態はSavage 2000のバグ潰しと、いくつかの新機能(おそらくDirectX 8での新機能への対応)といったあたりで、DirectX 9には未対応だったようだ。結局このAlphaChromeはサンプル展示は披露したものの、製品化は行なわずにお蔵入りとされてしまう。
結果、S3 Graphics最初の製品は、2003年3月にリリースされた「DeltaChrome S4/S8」になった。内部的にはDirectX 9に完全準拠した製品で、「DeltaChrome S8」はほぼ同時期に登場したGeForce FXの下位機種(GeForce FX 5600)あたりと同程度の描画性能を目指したものである。また同時にパイプライン数を半減させ、メモリーバスも64bit化した「DeltaChrome S4」も用意された。
スペック表に見えない部分では、例えばMPEG-2/4の動画再生支援機能を搭載した「Chromemotion」、変なところではClearTypeのフォントスムージングを高速化する「ClearType Font Acceleration」なんて機能も搭載された。DeltaChrome S8は、無印/Pro/Nitro/XE/F1といったバリエーションが用意されたが、いずれも構造は同じで、動作周波数が異なるのみである。
この当時、S3としては真剣にグラフィックスカードのメインストリーム向けで一定のシェアを確保することを狙っていて、DeltaChromeを搭載したカードを製造・販売するOEMベンダーを模索する。しかし、主要なベンダーはほとんどATI/NVIDIAの体制で固まっており、採用例はごくわずかに終わる。
そのため、S3は通常では考えられないベンダーにまで製造を依頼した。確か2003年のCOMPUTEX TAIPEIでは、マザーボードベンダーのTyanが、DeltaChrome搭載ビデオカードのサンプルを展示してた記憶がある。さすがに驚いて「Tyanもグラフィックスカードにも進出するのか?」と確認すると、これは「単なるお付き合いで実際に販売するつもりはない」という返事があった。つまり、Tyanのようなサーバー向け製品しか出していないようなベンダーにまで依頼しないといけないほど、製造・販売パートナーが限られていたのが実情である。
同じことは、同時期にやはりVolariをリリースしたXGI Technology社(こちらはSiSからのスピンアウト)にも言える。こちらも製造・販売パートナーがほとんど見つからず、結局コンシューマー向けから撤退することになった。それに比べれば、わずかとは言え製造・販売パートナーが見つかっただけS3はマシ、と言えるのかもしれない。

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