前回では、企業向けのストレージに必要な条件として、可用性など一般的な指標の観点から考えてみた。今回は具体的なアーキテクチャについて解説したい。
信頼性と保守性を高めるアーキテクチャ
ストレージアレイにとって、信頼性の確保は非常に重要である。企業向けストレージでは、装置を構成するコンポーネント(部品)を二重化(もしくは多重化)することで信頼性を高めるアーキテクチャを採用している。これにより、1つのコンポーネントが故障しても、ストレージ全体の故障やサービス停止にはいたらず、残りのコンポーネントが機能や処理を引き継ぎ、サービスを継続させることができる。
また、保守性の観点から、これらの故障したコンポーネントはストレージアレイの電源を投入したまま交換が行なえるホットスワップ(活性挿抜)機能を備えていることが必要となる。ストレージ製品の選定においては、この点も注意しておくべきであろう。二重化されているコンポーネントを以下に列挙する。
ストレージプロセッサ
ストレージプロセッサ(ストレージコントローラ)は、CPUとメモリおよび接続インターフェイスを備えたユニットである。専用OSとミドルウェアで稼動し、RAIDでHDDを制御するだけではなく、ストレージならではの機能(ボリュームのクローンやレプリケーション等)を提供するなど、機器を構成・制御する上で重要なコンポーネントである。
信頼性の観点では、2台のストレージプロセッサを専用ネットワークまたは装置内部で接続し、メモリ上のデータなどをプロセッサ間で互いに保持することで、信頼性を高める仕組みを備えている。一方、保守性という観点では、ストレージプロセッサのソフトウェアバージョンアップなど計画停止が必要な場合や故障による交換が必要な場合、意図的にフェイルオーバさせながら1台ずつ作業を行なえるアーキテクチャが一般的である。
なお、下図に示す通り、小規模環境向け製品ではRAIDコントローラしか備えていない製品(一般的な定義がないのでここでは便宜上「RAIDタイプ」と呼ぶ)と、後述するストレージプロセッサによって制御されているよりインテリジェントな製品(便宜上「インテリジェント・タイプ」と呼ぶ)に分かれる。
この連載においては、ストレージプロセッサを備えているインテリジェント・タイプのアーキテクチャを中心に紹介する。RAIDタイプのストレージは、性能や拡張性などが限定的であるため、もはや企業の厳しい要求に耐えうる製品とは言い難い状況にある。さらに、現在ではインテリジェント・タイプが、大規模のみならず小規模向けにも低価格で販売されている状況にある。企業向けストレージとしては、インテリジェント・タイプが一般的となっているのだ。
接続ポート
ストレージプロセッサは、サーバ接続向け(フロントエンド)のインターフェイスとディスクエンクロージャ接続向け(バックエンド)のインターフェイスを備えている。フロントエンドには、iSCSI用のEthernetインターフェイスやFCインターフェイスなどが装備されている。こうしたことから、ストレージプロセッサが二重化されている製品では、1台のサーバが2台のストレージプロセッサに接続される構成が一般的である。同様に、ディスクエンクロージャ(HDDを収める筐体)への接続も二重化されている。
電源装置と冷却ファン
電源装置と冷却ファンは、ストレージの稼働を支える重要な構成要素だ。そのため、こうした基本的なコンポーネントは、二重化されているのが一般的である。また、これらのコンポーネントが故障した場合は、活性挿抜できることが必要とされる。
(次ページ、「データ消失を防ぐアーキテクチャ」に続く)

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