データ消失を防ぐアーキテクチャ
電源装置が二重化されていても、外部からの電源供給が突然止まってしまうなど予期せぬ停止の際にデータ消失を防ぐ仕組みが必要である。サーバからの書き込みデータは、ストレージアレイのキャッシュメモリ上に一時的に保存される。しかし、このキャッシュメモリは電源の供給がなくなるとデータが消えてしまう揮発性半導体メモリを採用している製品が多い。
この問題を補うのが、スタンバイ・パワー・サプライ(予備電源供給装置)である。この予備電源は、外部からの電源供給停止時にバッテリーとしてストレージプロセッサとHDDに電源を供給し続ける。これにより、キャッシュメモリ上のデータは安全にHDDに保存され、システム自体も正常にシャットダウンされるため、データ消失を防ぐことができるのである。
なお、この予備電源はキャッシュメモリのデータ保護が目的である点や、バッテリーからの電源供給時間が短いという点において、UPS(無停電電源装置)とは位置付けが大きく違う。UPSは、瞬間的な電源電圧の低下やノイズが発生しても安定した電力を供給し、停電時にもバッテリーから長時間電源を供給する装置である。
また、ストレージ製品の中には、単純にバッテリーで揮発性メモリに電源を供給し続けるだけのものもあるが、停電時間が長引いてバッテリーの電源供給時間を超えてしまうと、結局データは消えてしまう。そのため、電源供給だけでなくHDDへデータを書き込む仕組みがなければ安全といえない。
一方、このキャッシュメモリに「不揮発性半導体メモリ」を採用しているストレージもある。不揮発メモリは、電源が供給されなくてもデータが維持されるメリットがある。しかし、揮発性メモリと比較してアクセスが遅く高価であるという一面があり、ストレージのキャッシュメモリとしては一般的ではない。
拡張性を高めるアーキテクチャ
拡張性の観点では、HDD、コントローラ、キャッシュメモリ、インターフェイスの拡張などが挙げられる。それぞれ簡単に触れておこう。
HDDの増設
ストレージアレイの場合、HDDを搭載する専用のコンポーネント(ディスクエンクロージャ)を追加増設することで、記憶容量を拡張できる。ただし、モデルによってはストレージアレイに搭載できるHDDの数に制限があるので注意しておきたい。
ストレージプロセッサおよびキャッシュメモリ
ストレージアレイにおいては、HDD上にデータを残したままCPUとメモリを搭載したストレージプロセッサ自体を新しい筐体に拡張できることが重要なポイントとなる。なお、ストレージ製品によっては、キャッシュメモリだけ増設できるモデルも存在している。
インターフェイス
通常、ストレージのインターフェイスとしては、FCやiSCSI接続向けのインターフェイスが装備されている。それらのインターフェイスを増設できることはもちろん、将来にわたって最新の技術にも対応できることが望ましい。ちなみに、今後は「FC向け8Gbpsインターフェイス」や「iSCSI向け10Gbpsインターフェイス」が急速に普及すると考えられる。
ストレージ製品のモデルによる違い
ここで、ストレージアレイ製品のモデルによる違いについても簡単に触れておこう。ストレージアレイ製品のモデルは、小規模、中規模、大規模環境向けの3つのカテゴリーに大きく分けることができる。主なアーキテクチャの違いを列挙してみると(下表)、信頼性や拡張性において大きな差異があることがお分かりいただけるだろう。
モデル | 小規模向け | 中規模向け | 大規模向け | |
---|---|---|---|---|
ストレージタイプ | RAIDタイプ | インテリジェント | インテリジェント | インテリジェント |
ストレージプロセッサの構成 | なし(RAIDコントローラのみ/冗長構成可能) | あり(冗長構成可能) | あり(冗長構成が基本) | あり(冗長構成または多重構成) |
キャッシュメモリの有無 | なし | あり | あり | あり |
インターフェイスの拡張性 | 拡張性なし(または限定的) | 限定的な拡張性 | 高い拡張性 | 非常に高い拡張性 |
電源/ファンの構成 | シングル構成 | 冗長構成可能 | 冗長構成が基本 | 冗長構成が基本 |
その他にも、ストレージプロセッサのCPUクロック数やキャッシュメモリ容量、搭載可能なHDD台数などモデルによって大きな違いがある。これらアーキテクチャの差異が、結果的にストレージアレイの可用性や性能の違いにつながる。実際に機器選定する場合、アーキテクチャの違いや接続するサーバ数、データの容量なども考慮して最適な製品を選んでいただきたい。
そのほかのアーキテクチャ「クラスタストレージ」
これまで、標準的な企業向けストレージのアーキテクチャの概要を見てきたが、近年、まったく異なるアーキテクチャで構成されるストレージも開発された。それは「クラスタストレージ」である。
クラスタストレージは、CPU、キャッシュメモリ、HDD、ネットワークインターフェイスを搭載している「ノード」を基本単位として、ノード間をクラスタ接続することで容量と全体としてのスループットも向上するとされている。クラスタストレージでは、おもに安価なSATA HDDが利用されており、性能よりもコスト重視で選ばれているケースが多い。
次回は、標準的なアーキテクチャの続きとして、ストレージアレイの性能面にフォーカスし、性能を高める技術や機能について解説したい。
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