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次世代PHS「XGP」、どこが魅力か? ウィルコム担当者に聞く

2009年06月23日 12時00分更新

文● ASCII.jp編集部

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 ウィルコムの次世代PHSサービス「WILLCOM CORE XGP」。モバイル環境でも上下20Mbpsの高速な通信が可能という触れ込みだ。本格サービスは、今年10月をメドにしており、現在はエリア限定サービスを提供している段階だ。

プレス向けに貸し出しが始まったデータ通信カード。現状ではともにPCカードタイプである

 6月からはプレス向けの機材貸し出しも始まっており、ASCII.jp編集部で実施したテスト(関連記事)でも新宿エリアで下り10Mbpsを超える良好な結果をたたき出した。

 ウィルコムの次世代事業推進室長 上村 治氏は、試験提供とはいえ、「モバイルデータ通信カードでは総合的に見て現状間違いなく最速」と自信を示す。実際ウィルコムが独自に実施した試験では良好な環境下とはいえ、下り18Mbps、上り12Mbpsという高速な結果を記録しているという。

 1995年に32kbpsで開始され、現在では最大800kbpsのサービスも提供されているPHSサービス。料金が安価で、携帯電話(PDC)の9600bpsに対して大幅に高速だったことから、かつてはモバイルデータ通信の代名詞であった。しかしながら、3.5Gなどと呼ばれる3G回線の高速化(HSDPAの場合下り最大7.2Mbps)が進む中、速度面で遅れをとっていた印象があったのも確か。DDIポケット時代からPHSに取り組んできた、ウィルコムの次の一手に注目が集まっていた。

 WILLCOM CORE XGPの利点、そして同サービスでウィルコムが目指すものは何か? 担当者を取材した。



通信速度には自信


 XGPは、世代的には3.9Gに属する。モバイルデータ通信の世界では、限られた周波数帯域をいかに効率よく利用するかが、高速化のカギになってきた。2G(PDC)の時代には、時間で区切って多重化するTDMA方式、3G/3.5Gの時代にはスペクトル拡散を利用したCDMA方式が用いられている。そして、XGPなど3.9G/4Gの通信ではOFDMA(直交周波数分割多元接続)と呼ばれる無線通信方式が核となっている。

取材に対応していただいた、ウィルコム次世代事業推進室長 上村 治氏

 OFDMAは、UQコミュニケーションズのモバイルWiMAXサービス「UQ WiMAX」やNTTドコモなどが計画しているLTE(Super 3G)など次世代のモバイルデータ通信でも使われている技術だ。

 実は、モバイルWiMAXとXGP技術には共通点が多い。通信カードや基地局で用いられるチップなどハードウェアの基本的な部分は一緒で、コストや消費電力の部分で大きな差はない。現在では、ソフトウェア無線(SDR:Software Definition Radio)が主流のため、基本的にはそれぞれの規格に合わせたソフトウェアの書き換えで対応できる。

 それでは、XGPとモバイルWiMAXの違いは何なのだろうか。

 そんな質問に上村氏は「由来としての違い」を挙げる。UQ WiMAXなどのモバイルWiMAXは無線LANの技術をベースにIEEEで標準化された「固定から屋外へ」のアプローチ。一方で、XGPはPHSで培ったマイクロセルの技術・モバイルの技術をベースにした「コードレス→PHS→ブロードバンド」のアプローチなのだという。

 もうひとつ大きな違いは、上下の通信速度だ。5msのタイムフレームのうちXGPは上りに2.5ms、下りに2.5msを割り当てた対称型、UQ WiMAXでは上りに1.7ms、下りにその約2倍の3.3msを割り当てた非対称型になっている。現状ではアップロードよりもダウンロード高速化の需要が高いため、UQ WiMAXの考え方にも合理性がある。しかし逆に言うと、ネットを使って発信するという文化があまり浸透していないことの表れでもある。

 上村氏は「上りの使い方はいくらでもあるはず」とコメント。その上で、上り回線の高速化がもたらす可能性を考えていくべきだとした。上り回線が有効なケースとしてまず思いつくのが「監視カメラ」や「個人放送局」といったネット経由の動画配信。ウィルコムでは、フジテレビと共同で放送インフラとしての活用実験を予定しており、アップロードの優位性を確認できるという。

 こういったプロ用途の動画利用に加えて、デジタルサイネージや定点観測カメラ、カーテレマティクス、さらにはライフログといったM2M(Machine to Machine)、個人用途にも注目しているという。

 また、エリア整備に関しても、当初は無理をして構築した「広いが穴の多いエリア」ではなく、エリアは狭まっても対応エリア内では確実につながり、しかも高速になる「信頼性の高いカバーエリア」を目指している。例えば、東京駅周辺では、200~300mの間隔で基地局が置かれており、広さではなく密度で差別化を図っていく。狭い間隔にきめ細かく基地局を設置する「マイクロセル」の特徴を生かした形だ。

 「この数年間はLTEを含め、技術的に見てある程度有利な立場に立てると思う。LTEはまず5MHzの帯域幅で始めて、いずれ10MHz幅以上になると思いますが、そのころには20MHz幅……といった形で優位性を保っていきたい」(上村)



PC内蔵型、デバイスMVNOなど広がる可能性


 このように速度面では一歩リードしている印象のあるWILLCOM CORE XGPだが、成功は内蔵を含めたデータ端末が今後どれだけ普及していくかにかかっているだろう。WiMAXは今後ノートPCの標準装備のひとつとなっていくことが予想され、国内メーカーでも十数社のPCメーカーが開発に名乗りを上げている。海外のように、WiMAXを数時間~1日だけ割安に利用できるワンデイ・プランなどが整備されれば、公衆無線LANスポットに接続する程度の手軽さで、WiMAXを利用するユーザーも出てくるかもしれない。

 「ノートPCのビジネスという観点では、H”INの取り組みもあり、われわれも難しさを良く知っています。この分野については、PCメーカーとマーケットの様子を見ながら取り組んでいきたいと思います。入れては見たが、ほとんどのユーザーにとって意味のない機能であっては価値がありません」(上村氏)

 また、デバイスの価格そのものに一定期間の通信料をバンドルする形で販売する「デバイスMVNO」も注目している分野のようだ。ここでは、米国のAmazonが展開しているKindleなど新しいビジネスモデルが生まれつつある。

 試験運用ということもあり、現状で提供されているのはPCカードタイプの端末のみ。アンテナとSIMカードを一体化したW-SIMのようなソリューションも使われていない。それでは、高速な通信速度を生かしたサービス、端末の進化、そしてリーズナブル感じさせる料金プランなどを打ち出しつつ、XGPの世界がどのように広がっていくのか? そんな期待を持ちながら10月の本格サービス開始を待ちたい。

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