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【コラム】“Apple Store”と何が違う? “Mac Shop”におけるアップルのねらいを考察

2006年09月25日 17時57分更新

文● ITジャーナリスト 林信行

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Mac Shop
ビックカメラ有楽町店の本館5階に登場した“Mac Shop”

9月21日、(株)ビックカメラの有楽町本館に“Mac Shop”の1号店がオープンした。これは米アップルコンピュータ社のビジネスに詳しい人には、時代に逆行した流れに思えるかもしれない。



アップルの直営店“Apple Store”の渋谷店

アップルは1999年頃から日米の量販店内にMac専門コーナーの“Apple Store-in-Store”を設置し、そこでの経験を生かして、顧客のニーズを反映する形で直営店“Apple Store”へと発展させた経緯があるからだ。

米国では、さらにこのApple Storeをエリアごとのニーズにあわせて人気商品の販売に絞った“Mini Store”や、24時間営業の“Apple Store Fifth Avenue”といった形に進化させている。今回、オープンしたMac Shopも、そうした進化の流れの中にあるのだろうか。




直営店のApple Storeより気軽に入れる

現在、アップルのMacビジネスには追い風が吹いており、まさに攻めの時期にある。

昨今のiPodブームで一般ユーザーのMacへの関心が高まっていることに加え、『Windows Vista』の出荷延期が続いて、Windowsマシン市場が今ひとつ面白味に欠けている。

そんな中、アップルは見事にMacのインテルCPUへの移行を果たし、Mac OS XだけでなくWindowsも同時に実行できる環境を整えてきた。Macを買うのはいいが、「普段使っているソフトや周辺機器が、いざというときに使えないと困る」という最後の垣根が取り払われたのだ。

Macに興味を持った人の中には、Apple Storeに足を運ぶ人もいるだろう。しかし、これまでMacを避けてきた人の中には、量販店なら足を運びやすいが、Apple Storeの雰囲気にはなじめないという人もおり、Apple StoreだけでMacの魅力を訴求していくには限界がある。

そうした中で、量販店の中にMac Shopを開設するというのは面白い試みだ。ルイ・ビトンやティファニーの路面店には、ちょっと入りにくい雰囲気があるが、デパート内のストア・イン・ストアならより気軽に入れる、という感覚にも似ているかもしれない。しかも、デパート同様、量販店で購入した場合は、ポイントの還元もある。


“アップルブランドの体験”を重視した作り

Apple Store-in-Store
Apple Store-in-Store

実はMac ShopとApple Store-in-Storeを比べると、明確な違いがあることがわかる。

かつてのApple Store-in-Storeは、Macの先行きが怪しい時代に誕生した。Macの品質の高さを実際に触ってもらおうというねらいもあったが、同時にMac用のサードパーティ-の製品の棚を確保するというねらいもあった。当時、米国の量販店では、Mac用ソフトや周辺機器の設置スペースは狭まる一方だったからだ。

そうした逆境の中で、Mac本体はもちろん、サードパーティー製品も含めた形でMacという生態系をアピールしようとしていた、とも言える。



ビックカメラ有楽町店の“Mac Shop”の隣には、周辺機器や書籍の販売コーナーが設置されている

これに対して、Mac Shopで重視しているのは“ブランドの体験”だ。Macを所有することの魅力、つまり「Macなら、ただ“便利”になるだけでなく、日々の生活も、これだけ楽しくなる」というメッセージを伝えることが目的であって、特にサードパーティーまでも含めた生態系を伝える必要はない。

もっとも、アップルがサードパーティー製品やiPodをおろそかにしているわけではない。Mac Shopから外を見ると、そこは大規模量販店の店内。必要ならいくらでもサードパーティー製品も買い集めることができる。




日本の出荷台数をのばすという目的も?

今回のMac Shopオープンには、もう1つ理由があるのではないかと思っている。日本におけるMac出荷台数を増やすというねらいだ。

日本でもMacの人気は着実に高まっている。周囲で見かける機会も増えてきたし、大量導入事例もメディアに取り上げられるようになってきた。しかし、ここ2、3年の会計報告に目を通し、日本でのMac出荷台数を見てみると、米国での出荷台数などに比べて、グラフが平坦に見える。Mac用ソフトや周辺機器を開発する立場にとってもあまりうれしくないグラフだろう。

部門別の売上高
アップルの会計報告に基づく日米のMac出荷台数

これにはちょっとした理由がある。実はこの会計報告の数値は、日本での本当の出荷台数を示していないのだ。アップルの会計報告には、アメリカ、日本、ヨーロッパといった地域別の出荷台数に加え、“Retail”という項目が用意されている。

ここには国内7店舗を含むアップル直営店での出荷台数が一緒くたに含まれてしまっている。つまり、日本のApple Storeで売れたMacは、国内出荷台数分に含まれていないわけだ。

そしてこのRetailの出荷台数は、日本の出荷台数の3倍近くある。たしかに直営店は150店舗以上存在し、そのうち日本の店舗が7店舗であることを考えると、それほど大幅にプラスになることはないという見方もあるが、日本にあるApple Storeのほとんどが大型の旗艦店であることを考えると、決して無視できる数字ではないはず。

特に日本の顧客はアップルに限らずブランドローヤリティーが高く、ブランドに愛着と信頼を持つ顧客は、製品の購入についても直営店に偏りがちだ。

そんな中、そうした直営店の顧客を一部でも量販店に移行させることができれば、それはMacの日本の出荷台数の足しにもなるし、日本のMac市場にとってプラスとなるーーというのはうがった見方だろうか。


Apple Storeでカバーできない地域をフォロー

“より広いユーザー層をカバーする”という目的もあるかもしれない。アップル直営店は人口カバー率の高い大都市で、もっとも人通りが集中する箇所に店舗を設置することで、1店舗あたりでカバーできる層を広げるという戦略をとっているが、この方法では当然、漏れもある。

一方、量販店であればビックカメラだけでも全部で25店舗ほどあって、より広範なエリアをカバーできる。今後、アップルが他の量販店とも提携すれば、Apple Store開店のペースよりも早く、さらに広いエリアをカバーできることになる。

“量販店の店内”という部分も重要だ。Mac Shopの目玉は、今でこそ“Mac”だが、来年以降、アップルのデジタルライフスタイル戦略で重要になる『iTV(コード名)』などを展示する場合、Apple StoreにはテレビなどのAV機器があまり置かれていない。一方、量販店なら各社の最新式テレビと合わせて展示しやすいだろう。

もちろん、iTVをただテレビの横に並べて展示したのでもいいが、それでは他の類似製品に埋もれてちゃんとしたアップル体験を伝えることができないのだが 。



林 信行
Macを中心に、パソコン/インターネット/携帯電話などのジャンルを広く取材するITジャーナリスト。近著の(株)アスペクト刊『アップルコンフィデンシャル2.5J』では、第1章にてアップルの流通戦略を紹介。インターネット上では自身のBlog“nobilog2”や、マイクロソフト(株)内のMac向け製品コーナー“mactopia”でコラム "Apple's Eye"を執筆している。


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