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“通信電池”が無線通信インフラになるか!?――パネルディスカッションで整理するMVNOの論点

2006年07月27日 20時08分更新

文● 編集部 西村賢

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携帯電話で使われる無線通信機能のモジュール化が進めば、いずれ“通信電池”とも呼ぶべきモノが登場するかもしれない。電子機器に電池を入れればすぐ稼働するように、携帯ゲーム機や、携帯音楽端末、あるいはノートパソコンに、この“通信電池”を組み込めば即座に通信機能が加わる。

通信電池とは、もともとは日本通信(株)が通信サービス『b-mobile ONE』を発表するにあたって商品コンセプトとして使った言葉だが、電池というアナロジーに込められた通信モジュールのインフラ化は、いずれ現実のものになるのかもしれない。

家電における電力や、電子機器における電池は、それぞれ供給体制が確立された社会インフラとして定着している。そのインフラ上に、さまざまなアイデアをもつメーカーが参入することで、われわれは多様な商品やサービスを享受できている。新たな掃除機を作るために発電所を作る必要はないし、電子辞書市場に参入するために電池の研究開発部隊をもつ必要もない。

無線通信についても同様に、通信部分をインフラとして切り離せば、さまざまな商品やサービスを展開する事業者が現われるようになる――。これが昨今話題の“MVNO”(Mobile Virtual Network Operator、仮想無線通信事業者)の登場によって実現するかもしれない通信産業のあり方だ。

通信電池の供給体制が整うという未来図は、やや先走りした感があるが、無線通信インフラと無線通信サービスの切り離しについて、昨年来、議論が巻き起こっているのは間違いない。(社)テレコムサービス協会で昨年11月に発足したMVNO協議会は、第5回会合となる一般公開セミナーを26日に開催。そのパネルディスカッションの模様から、MVNOに関する議論を整理してみよう。

パネルディスカッション
5回目を迎えたMVNO協議会会合でのパネルディスカッション

他事業者の通信インフラを利用してサービスを提供するMVNO

パネルディスカッションは、モデレーターを務めた日本経済新聞論説委員の関口和一氏が、「そもそもMVNOの定義とは何か」を参加者に問いかけることからスタートした。パネルディスカッションに先立って現状の行政側の認識について講演を行なった総務省総合通信基盤局の大橋秀行氏は、法律上はMVNOという概念はないとしながらも、MVNOの要件を2つ指摘。「自ら周波数帯の割り当てを持たずに無線通信サービスを行なう事業者」、「エンドユーザーから見たとき、無線通信サービスを行なっているように見える」というのがMVNOだという。

たとえば、有線通信で言えば、ADSL通信サービスを提供する@niftyやBIGLOBEは、自前ではADSLネットワーク網をもたず、イー・アクセス(株)の通信サービスを利用する形を取っている。有線通信では、水平分離が進んでおり、物理回線を使った接続サービス、メールやウェブといったISPの通信サービス、動画やコミュニティーを提供するコンテンツサービスの組み合わせの自由度が高い。これは、MVNOのMobile(無線)を取った、VNOモデルにほからなない。

こうしたインフラとブランドの水平分離は、通信事業に限った話ではなく、たとえばクレジットカードビジネスでも見られると、モデレーターの関口氏は指摘する。ビザなど大手と提携して、百貨店がクレジットカードを発行するビジネス形態だ。

大橋氏は、これまでの携帯通信事業の垂直統合モデルが、経済的にも、インフラの構築・維持・普及という社会的責務を果たすという意味においても、非常に有効に機能してきたことを評価しながらも、有線と無線のボーダーレス化が進むとの見解を示し、「従来の垂直統合モデルと有線のISPモデルの間で、なにがしかの化学反応は起こってくる」と説明。行政側として、どういう分業体制となるべきかを提示するものではないが、無線アクセスを部品として組み込んだ製品やサービスという市場ニーズがあるのなら、それをサポートできるガイドライン作りを目指すと話した。MVNOに通信インフラを提供する形になる通信事業者は、“MNO”と呼ぶが、たとえばトラブル発生時の責任関係を契約上どう規定すべきか、通信サービスの品質を維持するために、MVNOに対して、どのような参入要件を課して審査すべきかといったことも、今後重要になってくるだろうという。

関口和一氏 大橋秀行氏
日本経済新聞社 編集局産業部 編集委員兼論説委員 関口和一氏総務省総合通信基盤局電気通信事業部データ通信課課長 大橋秀行氏
現在の携帯電話事業のビジネスモデル概念図現在の固定通信事業のビジネスモデル概念図今後の携帯電話事業のビジネスモデル概念図

(株)インターネット総合研究所取締役の木下眞希氏、UBS証券会社シニアアナリストの乾牧夫氏らも、これまでの携帯通信事業の垂直統合モデルの有効性を評価する。

木下氏は「オペレーター自身から端末が出てきたことは重要だった。iモード上でサービスが百花繚乱とも言えるほど多様に登場したいっぽう、欧米のWAP端末向けのデータサービスは伸びていない」と指摘。乾氏も「インフラから端末まで一気通貫でやってきたのは正解で、現モデルでなければ、そもそも無線通信インフラがここまで普及するかどうかも分からなかった」と話す。そのいっぽう、莫大な投資でユーザー獲得に血道を上げる設備ベースの競争はもはや限界に来ているという認識も共通している。「インフラはできた。これを使って、何をするんだという段階に来ている」(乾氏)。

なぜ日本で花開いた多様な携帯ビジネスが、海外では立ち上がって来なかったかという点について、(株)サイバード代表取締役会長の堀主知ロバート氏は、こう説明する。「コンテンツ産業まで含めると、日本の携帯産業のバリューチェーンは巨大です。このバリューチェーンを誰がコントロールしているのかが重要。どんな業界であれ、その業界に対して最大のリスクを取っているリスクテイカーがコントロールしないと、うまくいくわけがない。つまり“誰がいちばんたくさんお金を突っ込んでるねん”ということです。携帯産業では、インフラを持ってる通信事業者です。海外のモバイルサービスでデータ通信が、うまく立ち上がって来ないのは最大のリスクテイカーが責任を果たしていないからです」。

木下眞希氏 乾牧夫氏 堀 主知ロバート氏
インターネット総合研究所 取締役 モバイル技術担当兼国際戦略担当 木下眞希(きのしたまき)氏USB証券会社 株式調査部 シニアアナリスト 乾牧夫(いぬいまきお)氏サイバード代表取締役会長 堀 主知ロバート(ほりかずともロバート)氏

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