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“通信電池”が無線通信インフラになるか!?――パネルディスカッションで整理するMVNOの論点

2006年07月27日 20時08分更新

文● 編集部 西村賢

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成功の規模が大きいときには、その歪みや弊害も長く残るものだ。歪みは、おもに3つの点で憂慮されている。

1つは国際競争力の低下だ。日本のマスを狙った端末ばかりが登場。国内市場の爛熟と引き替えに、日本の携帯電話端末の国際競争力のなさは、目を覆うばかり状況となっている。

歪みの2つ目は、参入障壁の高さ。コンテンツやサービス提供者から見れば、新規参入は容易ではない。新たなコンテンツサービスを構想しても、通信事業者にノーと言われれば、サービス開始さえおぼつかない。

最後の、そして最大の問題点は、産業構造の行き詰まりだ。現在、携帯産業は大きな転換点にある。11月に控えたナンバーポータビリティーの開始や、新規事業者の参入といった規制緩和の動きに加えて、新規ユーザー数獲得競争に終わりが見えていることが転換必至と考えられている要因だ。9000万台と言われる端末普及数は、日本の人口を考えれば早晩頭打ちになることが明らかだ。

日本通信(株)代表取締役社長でMVNO協議会会長も務める三田聖二氏は、現状の閉塞感を、こう説明した。「2Gから3Gに移行しても、音質はあまり変わらない。ところが、設備投資には5~10倍の費用がかかっている。この費用は100倍になった高速データ通信サービスで付加価値を付けて回収するしかない。これは、3Gで世界中の事業者が抱えている共通の課題だ」。MNOができることを他事業者がやる必要はないが、MVNOが補完的に狙える市場は多くあるという。莫大な回線設備投資を回収するためにマスに対する優位性確保を優先してきたMNOは、ニッチ市場に対するキャッチアップが遅れがちになる。

三田聖二氏
MVNO協議会会長、日本通信 代表取締役社長 三田聖二(さんだせいじ)氏

NTTドコモやKDDIといったMNOの通信事業者は、今のところMVNOに対して消極的だが、高速無線通信インフラの有効活用の方図として通信インフラ開放に踏み切る意義はある。サイバードの堀氏は、こう語る。「日本人全員に携帯電話が行き渡って出荷台数が頭打ちになったら、1人に何台ももってもらうことです」。犬の首輪にも携帯モジュールというパストフューチャー的な冗談めいた話もあるが、「たとえば、PSPやニンテンドーDSに携帯通信モジュールがあるといいよねというと説得力がある。そういう通信モジュールとしてのMVNOは出てくると思う。少しばかりのエクストラコストを許容してでも、通信機能が加わって便利になるとユーザーに思ってもらえるサービスが登場してくる」。

堀氏が属するサイバードは、ケータイ向けコンテンツビジネスを行なう、MVNOになる側だが、MVNOに対するMNOの見方について、やや過激とも思える意見を披露した。「シェア獲得競争の営業になってくると、キャリアから見たMVNOというのは、ある特定の団体に販売するための法人営業部みたいなものになると思う」。ニッチなビジネスニーズに応えるような法人営業を、MNOに肩代わりしてやってくれるのがMVNOという見方だ。「お金を払って自分で法人営業をやるのか、あるいはお金を払わずに、やりたいと手を挙げてユーザーを引きつけて来れるブランドやサービスをもっている人たちに回線を売って投資を回収するか」。販売対象とするニッチグループは法人に限らず、たとえば阪神タイガースのファンに対してファン向けサービスとともに携帯電話を提供するような手法もあるという。タイガースファン向けのISPサービス“Tigers-net.com”の無線通信版だ。

だだ、一方でイギリスの老舗百貨店“ハロッズ”のように、自社ブランドで携帯電話を提供して失敗するケースも多々あり、「毎日使う携帯電話をスイッチするほどの習慣性や継続性のある“何か”、そうしたものを共通してもっているグループをすくい上げてビジネスを展開できるか」がMVNO事業の成否の鍵を握ると堀氏は見る。

法人利用や営利目的のサービスばかりがニッチではない。慶應義塾大学の中川正雄教授は、地域の公共サービスにMVNOを導入する可能性を指摘。「地方にある防災無線というのは非常に高価。これを既存の通信インフラを使ったMVNOがやればどうか」と話す。今後、放送に続いて無線通信も公共性を帯びてくる。いっぽう地方ごとの事業となると、大手通信事業者は逃げ腰になる。そこに、MVNOの存在価値がありうるという指摘だ。

中川正雄氏
慶應義塾大学 理工学部 情報工学科教授 中川正雄(なかがわまさお)氏


MVNOは、MVNOとMVNEに分化していくか

総務省の大橋氏は冒頭の講演で、行政側としては、現状では市場ニーズの把握をしている段階で行政側として何ができるかを自問するスタートラインに立っていると繰り返した。実際、MVNOに関して議論こそ活性化してきたものの、まだ実例が少なく、ビジネスモデルについての共通認識も形成されていない。

前出乾氏は、MVNOは通信インフラ上でサービスだけを考える本来の意味でのMVNOと、MNOとMVNOの間に入って、技術的な接続部分の面倒をみる、具体的に言えば通信モジュールを提供するような“MVNE”(Mobile Virtual Network Enabler)とに分化していくのではないかという見通しも示したが、そうした分業体制のあり方についても、まだ今後の動向次第という部分が大きい。何より、肝心のMNOが通信インフラの提供に及び腰になっているという現実は、「MNOとMVNOは、互いにWin-Winの関係を構築していくべき」(三田氏)という根本的な認識についても、かなりの開きがあることを示している。

ユビキタス社会の実現に不可欠とも言える無線通信インフラのコモディティー化。その議論はまだ始まったばかりだ。

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