「現在、われわれが置かれている携帯事業への新規参入という状況は、ADSLで市場形成が起こったころときわめて似ている――。“ワイヤレスジャパン2006”の基調講演に立ったイー・モバイル(株)の種野春夫 代表取締役社長兼COOは、ADSLでイー・アクセスでの成功を携帯市場でも得られると自信をみせた。
種野春夫(たねのはるお)代表取締役社長兼COO |
資金も潤沢に調達し、順風満帆
イー・モバイルは、日本のブロードバンド化を推し進めることとなったADSL事業者の1つ、イー・アクセス(株)の子会社だ。1989年にDDIセルラーやIDOが新規参入して以来、17年間新規参入のなかった携帯事業に、ソフトバンク(ボーダフォン)やIPモバイルとともに新規参入する。
昨年11月に総務省から1.7GHz帯の免許を取得してから約半年。3600億円もの事業資金を、国内外の主要銀行を中心とするグループからの借入と、株式発行により調達した。「まだネットワークもない、客もいない、事業も始まっていないという企業に、最終的に4000億円近い資金が集まった。これは前例のないことではないか」(種野氏)。グローバルでも日本国内でも実績のあるスウェーデンのエリクソンとパートナーを組み、関東・中部・関西を中心に、すでに無線ネットワークの構築を進めつつある。来年3月にはデータサービス、その1年後の2008年3月には音声サービスを開始する。
順調に進む事業計画に自信を見せるように、種野氏は携帯電話料金の国際比較を紹介。米国や香港といった、1分7~8円という最安と比べ、日本の1分47円は確かに高い。こうした状況を種野氏は、イー・アクセスがADSL事業に参入したときに重ねる。
ADSL事業が可能となった背景には、NTT局舎のMDFの開放とコロケーション費用の低下があった。携帯事業では、1.7GHz帯周波数帯の新規割当がある。ADSL黎明期にはドライカッパーやダークファイバーの開放といった水平分離が進んだ。いまは番号ポータビリティーやMVNOによって市場の流動性が高まろうとしている。さらに、ブロードバンド需要の高まりがあったのと同様に、現在はモバイル・ブロードバンドの需要が高まっていると、種野氏は言う。
ADSLサービスの価格比較。日本は世界一安い | 携帯電話の通話料金比較。日本はきわめて高い |
イー・モバイルは新規参入の強みを生かして最新技術を最大限に活用する。「新規事業者ですから、初めからIPベースでネットワークを構築しています」。通信方式も、第3.5世代とも言われる“HSDPA”だ。スタート当初は下り3.6Mbpsだが、技術的には高速化のパスも見えている。
通信の高速化にともなって、音声、着メロ、着うた、着信ムービーときて、次に来るのは動画とリッチなメディアコンテンツが増えると、野原氏は淡々と語る。こうした話をするとき、既存携帯事業者とイー・モバイルが違うのは、どのようなコンテンツをどういう形で提供するかという話が、あまり具体的に出てこないところだ。ADSL同様にオープンな通信プラットフォームの提供によって、どのようなサービスやコンテンツが出てくるかがイー・モバイル成功の鍵となりそうだ。