このページの本文へ

アドビのHDポストプロダクションでマルチフォーマットの映像編集をこなしたブラウン監督と主演/プロデューサーの“マウス”マッコイ氏に独占インタビュー

1600kmに渡る荒野を駆け抜けるレースを多種多様な60台のカメラが撮り続けた入魂のドキュメンタリー映画“Dust to Glory”

2006年04月25日 18時38分更新

文● 取材・文:千葉英寿/撮影:小林 伸

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷
Dust to Gloryのスクリーンショット
(C) 2006 GLASSY. All Rights Reserved.

アドビ システムズ(株)は20日、東京・南青山のイメージシアター“RelaX Aoyama(リラックス)”において、夏休みにシアターN渋谷ほか全国で順次公開予定のドキュメンタリー映画“Dust to Glory(ダスト・トゥ・グローリー)”(配給:グラッシィ(株))の監督デイナ・ブラウン(Dana Brown)氏と、プロデューサーで主演も務めたマイク“マウス”マッコイ(Mike“Mouse”McCoy)氏を招いた試写会を開催した。60台のカメラで撮影された250時間にもおよぶ“異なるフォーマットの映像”を素材に、アドビ システムズの“HDポストプロダクションシステム”を活用することで、この映画制作が実現したという。今回、試写会の直後に監督のブラウン氏、主演兼プロデューサーのマッコイ氏にインタビューの機会を得た。



配給元のグラッシィより、公開時期についての情報が更新されましたので、当該個所を編集しました。また、Dust to Gloryのスクリーンショットを追加しました。(2006年5月16日)
デイナ・ブラウン氏とマイク“マウス”マッコイ氏
右が監督のデイナ・ブラウン氏、左がレーサーでプロデューサー、主演も務めたマイク“マウス”マッコイ氏

Dust to Gloryは、メキシコのバハ・カリフォルニアを舞台に行なわれる、1000マイル(約1600km)にもおよぶ史上最も過酷と言われるオフロードレース“Tecate SCORE Baja 1,000”を描いたドキュメンタリー映画。広大な砂漠と空、太平洋につきだした西海岸といった美しくも厳しい大自然を相手にドライバーが単独で戦うレースの模様と、レースを陰日向からサポートにするレーススタッフや地域住民、ファンなどさまざまな人々のレースへの関わりを追った物語だ。サーフィンをテーマにしたドキュメンタリー映画“STEP INTO LIQUID(ステップ・イントゥ・リキッド)”でサンダンス映画祭で受賞したブラウン監督は、波を通じて自然と対峙するサーファーから、今度は岩と砂だらけの道なき道を疾駆するライダー/レーサーたちを監督自身も車に乗り込んで追いかけたわけだ。

バハ・カリフォルニア――メキシコの北西端で南北にのびるカリフォルニア半島全域をそう呼ぶ。近年はその静かで豊かなカリフォルニア湾に集まるクジラを目当てにしたホエール・ウォッチングやダイビングのスポットとしても知られるが、海とは対照的に陸地には荒涼とした山と砂漠ばかりという手つかずの大自然が広がっている。この自然を相手にしたレースに参加するために世界中から集まった、総勢270台もの二輪や四輪の大中さまざまな乗物を駆る1200人のレーサーとそのサポートスタッフ、そして20万人もの見物客の姿を映像に収めるために、60台を超えるカメラとそれを操る90名のクルー、4台のヘリコプターが砂漠地帯に飛び散って撮影を敢行、その成果として全95分の最高にエキサイティングで感動を呼び起こす映像が紡ぎだされた。

Dust to Gloryのスクリーンショット

撮影された映像は、miniDV/HDCAM/24pビデオ(毎秒24フレームのプログレッシブ)/35mmフィルムといったアナログデジタル混交の実に多様なフォーマットで収められており、アドビ システムズの『Adobe Premiere Pro』および『Adobe After Effects』と、米CineForm社の“Prospect HDコーデック”を使用したリアルタイムマルチストリームエンジン『BOXX HD[pro]RTワークステーション』を組み合わせたフィニッシングプラットフォームによってHDポストプロダクションが進められた。250時間にもおよぶ膨大な映像は、すべてデジタルフォーマットに変換してから編集が行なわれ、選りすぐられた映像と重みのある言葉で表現された作品に仕上げられた。

監督のブラウン氏

試写終了後の会場で早速、監督のブラウン氏とプロデューサーのマッコイ氏に話を聞いた。

1967年から毎秋開催されているこのクレイジーなレースには、世界中からライダー、レーサーが集まってくる。もちろん日本からの参加者もいる。自らもライダーとして参戦しているマッコイ氏は「何もないような場所で日本人のライダーにいきなり遭遇することがあります。砂漠のまっただ中で、もちろん誰も日本語はしゃべらないし、彼らはスペイン語がしゃべれないし、英語も通じにくい。そんなところに“レースをしに”やってくる。これは尊敬しています」と熱っぽく語った。

そんな過酷な条件下で、世界中の人々がやってくるレースが継続的に運営できていることについて、マッコイ氏は「組織運営はなされていますが、ある面はまだまだワイルド(野性的)なんです。なにしろA点からB点まで行くのにどこを通ってもいい。こんなレースはバハ以外には見あたりません。バハにはワイルドウエスト(西部開拓時代)の雰囲気が色濃く残っています。それもバハ1000の魅力なのです」と語る。しかし、この世界的にも人気のある魅力的なレースは1000マイルもの広範囲に渡るため、(TV中継などで全貌を)“誰も見たことがないレース”としても知られている。映画“Dust to Glory”はこの状況を打ち破ったわけだ。



レーサーのマッコイ氏

2人が出会い、この画期的な映画製作に踏み出したきっかけは2003年の米国“サンダンス映画祭(Sundance Film Festival)”だった。伝説的なサーフィン映画“エンドレス・サマー(The Endless Summer、1996年)”を監督したブルース・ブラウン(Bruce Brown)氏を父に持つブラウン氏がHDカメラを使って撮影した初監督作品“ステップ・イントゥ・リキッド”がサンダンス2003で上映されたことが、マッコイ氏と知り合うきっかけになった。マッコイ氏は「ステップ・イントゥ・リキッドを見て、彼がふさわしい監督だと思いました。ハリウッドに“アクションを撮ることができる”監督はいますが、“物語を伝え、人間性を見せる”には、彼がうってつけだと思ったのです」とブラウン氏を監督に選んだ理由を語っている。



監督のブラウン氏

これまでとは異なる条件で進められた撮影の取り組みについて、ブラウン氏は「レースにはスピード(時速100マイル=160km/h以上)がありますから、車載カメラ、ヘリコプター、撮影隊のカメラ、ピットにはminiDVのハンディーカメラなど、撮れるものは全部撮っておくことを第一の目的として、ありとあらゆる手法を駆使して撮りまくりました。その後でアドビの技術を使って編集したわけです」と述懐している。

さらにブラウン氏は「90名のクルーと60台のカメラというとすごく多いと思われるかもしれませんが、1000マイル(1600km)に渡って散らばるので、一人の受け持つ範囲は極めて広いんです。それも、自身でもレースに参加している撮影ディレクターのケビン・ワード(Kevin Ward)が集めてくれた優秀なクルーたちのほとんどが、ボランティアに近い安いギャランティー(給料)でやってくれました」とし、さらに「僕はクルーに監督として『こういうものがほしい』というリストを渡し、後は『映画に相応しいシネマティックな映像を撮ってくれ』と言っただけなんです。『後はよい仕事をしてくれ』、とね」と語った。実際、単純にドキュメンタリーという枠でくくれないほどのエキサイティングでシネマティックな映像が次々に現れる。



レーサーのマッコイ氏

例えば、ヘリからの空撮で奥の砂漠地帯を先に行くライダーを追い抜くために、後続のライダーが道路を外れて海岸の砂浜にコースを取って後を追うというシーンがある。ここでは海上のヘリに積まれたカメラで、海と波打ち際のライダー、砂漠への丘陵、砂塵を吹き上げるバイク、そして奥には真っ青な空、というまるで最初から計算されていたかのような一連の美しい映像が織りなされているのだ。このシーンについてブラウン氏は「バハではヘリの夜間飛行が禁止されており、朝日が昇るのとともに飛んで日が暮れるまでの限られた時間の中で撮影しました。そのパイロットが追いかけるライダーの挙動を空から見て“何かがある”と感知し、運良く撮ることができたのです。そのヘリ・パイロットは、ハリウッドでヘリでの映画撮影をしているベストパイロットのひとりでした」と語っている。



Dust to Gloryのスクリーンショット

映像だけでなく、ドキュメンタリーの要であるインタビューでも心に残る言葉が数多く収められている。俳優ではないライダーやドライバーから、そうした言葉を引き出すコツをブラウン氏に尋ねたところ、「誠実に正直な答えを知りたいという態度でいれば、真摯な答えが返ってくると思います。真っ正面からインタビューすることで、みなさんが誠実に答えてくれたと思う」と控え目に語った。

さまざまな困難を乗り越えて製作された作品だが、最も大変だったことをブラウン氏にうかがったところ、マッコイ氏が「デイナのために僕が答えます。この映画で一番難しかったのは、全部で250時間の映像を結びつけて、意味を持たせた一本の長編映画にすることです」と語った。

レーサーのマッコイ氏

その最も大変な作業を進める上で大きな役割を果たしたのが、アドビの技術を中心としたHDポストプロダクションのシステムだ。

アドビの技術を使おうと思った理由についてマッコイ氏はプロデューサーの立場から、「“NAB(米国の放送業界向け展示会)”に行った際に、アドビが提案している“デジタル中間ファイル”(アナログ/デジタルの各種フォーマットを織り交ぜた映像ソースを使う場合に、いったん統一したデジタルデータに変換して編集する手法)の技術を知りました。デイナにもアドビからその技術を使わないかという話が来ていたこともあって、試してみることにしたわけです。最先端の技術によるHDポストプロダクションを使うことで、いろいろなフォーマットをブレンドしたり、フレームレートの変更やカラー補正をし、シームレスな映像に仕上げて、最終的に35ミリフィルムに移植できました。その結果、こうして映画としてみなさんにお見せできることができて、大変満足しています」と語っている。



Dust to Gloryのスクリーンショット

さらにアドビの技術はエフェクトにも威力を発揮した。ブラウン氏は「ほとんどのスローモーションのシーンはフィルムカメラで撮影したものですが、アンディ・グライダー(Andy Grider)がジョニー(Johnny Campbell)に衝突したシーンでは、Adobe AfterEffectsを使ったスローモーション処理が効果的に使われました。非常に使いやすかったですね」と語っている。

監督のブラウン氏

デジタルビデオカメラやHDシステムに対するリクエストをうかがったところ。ブラウン氏は「撮影に使ったカメラは(細かい砂塵の巻き上がるような)ああいう状況で使用されることは想定していなかったはずですから、それを考えれば十分満足しています。ただ、本当に微々たることですが、フレームレートの違い(ビデオの毎秒30フレームと映画の毎秒24フレーム)が解消されるとさらによかったと思います。それ以外では非常にいい仕事をしてくれました」としている。レーサー、映画のプロデューサーのほかに、デジタル形式で映画配給する技術に関わる会社を運営し、デジタル技術にも大変造詣の深いマッコイ氏は「いずれにしても、画期的な歴史に残るポストプロダクションの技術を使うことができました。デスクトップパソコンでカラー補正し、修正し、35mmフィルムに出力するという一連の長編映画のポストプロダクションが、自宅レベルのマシンでできる時代になったわけですから」とやや興奮気味に語った。



デイナ・ブラウン氏とマイク“マウス”マッコイ氏

最後に、今後レーサーとして、あるいは映画監督として、二人に次の目標を聞いた。

マッコイ氏は「現在、バハ500の2005年のチャンピオンですが、もう36歳になるので、二輪のレーサーを引退するわけではありませんが、次は四輪レーサーとして出たいと考えています。バハ1000では全体でのチャンピオンを狙っています」と語った。

ブラウン氏は「すでに次のプロジェクトのポストプロダクションに入っています。次の作品は、オアフ島のノースショアに冬にはビッグウェーブが出るところがあり、ここで“ハイウォーター”という大会があります。そこへ有名になりたくて集まってくるサーファーたちを追った作品です。これの編集作業を秋頃までには終了し、(米国で)来年公開する予定です」と語った。

カテゴリートップへ

注目ニュース

ASCII倶楽部

最新記事

プレミアムPC試用レポート

ピックアップ

ASCII.jp RSS2.0 配信中

ASCII.jpメール デジタルMac/iPodマガジン