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“DESIGN IT! Conference 2006 Spring - CMS にみるITデザインの可能性 -”レポート

“大事なのはユーザビリティーよりファインダビリティー”と『アンビエント・ファインダビリティ』のピーター・モービル氏が講演

2006年04月14日 21時05分更新

文● 千葉英寿

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“IT(情報技術)とデザインの融合”をテーマとしたデザイナー/開発者向けカンファレンス“DESIGN IT! Conference 2006 Spring - CMS にみるITデザインの可能性 -”が11日と12日の2日間、東京・秋葉原の秋葉原コンベンションホールにおいて開催された。主催はソシオメディア(株)。

“DESIGN IT!”の会場風景“DESIGN IT!”は2005年2月にプレカンファレンスを行なっており、今回が正式な第1回開催となった

本イベントは、IT産業をデザインの側面から補強・強化していくことを念頭に、ビジネスとITとの関係性をデザインによって“可視化して管理する”こと、利用者に使いやすいITのデザインによって“ビジネスを最大化する”こと、人を中心に置くデザインの諸活動を“企業・行政・教育機関の諸組織のあり方と社会インフラの改善へとつなげる”こと、を目標に掲げている。

第1回のテーマは“コンテンツマネージメント”を中心に、関連の深い“情報アーキテクチャー”や“インタラクション”といった話題について、内外の著名スピーカーが講演した。初日(11日)のセッションは“情報アーキテクチャー/インタラクション・トラック”と“CMSスポンサー・トラック”の2本立てで行なわれた。

情報アーキテクチャー/インタラクション・トラックでは、ロングセラーの『Web情報アーキテクチャー~最適なサイト構築のための論理的アプローチ』の共著者であるピーター・モービル(Peter Morville)氏が、20日にリリースされるエッセイ『アンビエント・ファインダビリティ』((株)オライリー・ジャパン刊)の話題を中心に、“Web2.0時代の情報設計~情報アーキテクチャーと検索の未来~”と題した講演を行なった。

ピーター・モービル氏
なかなかライブで講演を聞くことができないというピーター・モービル氏。今回は初のアジア訪問となった

これを受けてその後のセッションでは、インタラクション戦略について、マイクロソフト(株)/日本アイ・ビー・エム(株)/アドビ システムズ(株)の各ソフトウェアベンダーがユーザー・エクスペリエンス(利用者の豊かな体験)に対する取り組みについて講演した。11日の最後には、新しい試みとしてモービル氏、コンテンツマネジメント専門家のコミュニティー“CM Professionals”創設者のボブ・ドイル(Bob Doyle)氏、および各セッションの講演者が登壇し、各氏によるプレゼンテーションやパネルディスカッションに加え、来場者と直接情報交流を行なうBOF(Bird Of Feather flock together:類は友を呼ぶ)と呼ばれるセッションが“CMSで実現するユーザーエクスペリエンスの可能性”をテーマに行なわれた。

パネルディスカッションと懇親会・親睦会を融合したようなBOF
パネルディスカッションと懇親会・親睦会を融合したようなBOFが開催された

なんといっても多くの参加者の注目を集めたのは、モービル氏のセッションだった。モービル氏は“Web 2.0”を背景に、モバイルコンピューティング時代の検索環境について、『アンビエント・ファインダビリティ』の内容に基づき、さまざまなウェブサイトの事例を紹介しながら、主にユーザーエクスペリエンスとファインダビリティー(高い検索性)について、話を進めていった。

モービル氏のセッションは立ち見が出る大盛況
モービル氏のセッションは補助椅子を入れても立ち見が出る大盛況となった

まず、モービル氏は、マルシア・ベイツ(Marcia J.Bates)が1989年に発表した“Berrypicking(ベリー摘み)”モデルを引用し、ここに今日のインターネットの検索行動を説明した“情報検索の過程”が示されていたことを示した。

マルシア・ベイツの“ベリー摘み”モデル
マルシア・ベイツの“ベリー摘み”モデル

次にモービル氏は、豊かなユーザーエクスペリエンスを形作る要素として考案した、“ユーザーエクスペリエンスのハニカム構造”について説明した。それをまとめると以下のようになる。

ユーザーエクスペリエンスのハニカム構造
ユーザーエクスペリエンスのハニカム構造
Useful(役に立つ)
本当に役に立つ製品、システムなのか
Usable(使いやすい)
ユーザビリティーは必要条件だが、十分条件ではない
Desirable(望ましい)
ドン・ノーマン(Don Norman)が『エモーショナル・デザイン』で著した、イメージ/アイデンティティー/ブランドなどの要素
Findable(探しやすい)
ナビゲーションしやすいか、分かりやすいオブジェクトか
Accessible(アクセスしやすい)
障害を持つ人にとってもアクセスしやすいか
Credible(信頼できる)
サイトに出ている情報をユーザー(読者)が信頼しているか
Valuable(価値がある)
スポンサーに価値をもたらすものか(ユーザーニーズだけではなくビジネスとのバランスも必要)

このハニカム構造により、複数項目の目的を同時に満たすことでユーザーエクスペリエンスを最も優れた形で実現できるというわけだ。つまりサイトの目標や優先順位によって、どの要素がより重要か? 他の項目についてはどうか? などを検討して、サイトごとに最適な答えが導き出せる。

モービル氏は以前、“米国国立がん研究所(National Cancer Institute)のウェブサイト(http://www.cancer.gov)の再設計を行なった経験から、次のように語った。
「再設計にあたって、訪問するユーザー(がん患者やその周囲の人々)がどうやって目的のコンテンツを見つけるのかが気になりました。これについてNCIでは『大丈夫。Googleで“がん”を検索すればトップで出てきます』としました。それでも懸念は晴れず、リサーチをしたところ、“がん”というキーワードでの検索が最も多かったのですが、同時に“乳がん”や“皮膚がん”といった特定の種類での検索も非常に多いことがわかりました。さらにそれらの特定のキーワードでGoogleやYahoo!で検索したところ、NCIは検索結果の1ページ目にも出てきませんでした。この結果から、ユーザーがより簡単にこのサイトを探し出せるようにファインダビリティー戦略を立て、再設計しました」
この再設計により、NCIは“Web by Award”と“Freddie Award”(ともに優れたウェブサイトに贈られる賞)を受賞、電子政府のための米国顧客満足度指数調査(ACSI)のトップとなった。この成功の基となったファインダビリティーに関して表わしたのが、『アンビエント・ファインダビリティ』というわけだ。

『アンビエント・ファインダビリティ』の日本語版『アンビエント・ファインダビリティ』の日本語版

モービル氏は、GPS機能付き携帯電話機や子ども向けのGPSレシーバー『GPS Personal Locator』、Google Earthなどを紹介し、ユビキタス・コンピューティングとインターネットの接点がもたらす“ユーザーにとっての混乱”に対し、ファインダビリティーが解決の鍵となることを示唆した。

モービル氏は「図書館や博物館では、メタデータを司書が資料へのアクセスを改善するために用いられる記述的情報という意味で使ってきた」と述べ、その上でインターネットの時代にあってはみんな(インターネットの全ユーザー)が司書と言えるとし、「いまや(メタデータは)ホットでエキサイティングでファッショナブルだ」と絶賛した。

さらに、米ヤフー!(Yahoo!)社のオンラインサービス“Flickr(フリッカー)”の画像共有タグやソーシャルブックマークを例に取り、“フォークソノミー”による“フリータギングの世界”についても言及した。フォークソノミーとは、フォーク(人々)とタクソノミー(分類学)が合成されて出てきた新しい言葉で、ユーザーがなんでもいいから自由にタグ付けすることで形成される“新しいデータの分類体系”を指している。

モービル氏は、デヴィッド・ワインバーガー(David Weinberger)氏(『これまでのビジネスのやり方は終わりだ』の共著者)の“The old way creates a tree. The new rakes leaves together.(旧来の手法は樹木を育てようするが、新しいやり方は葉っぱを集めることだ)”という表現を引用し、葉っぱ=タグを集めることがネットサーフィンに非常に役立つとした。

モービル氏は、「フォークソノミーはオントロジー(分類体系)やタクソノミー(分類学)を排他するものではない。多層化が必要だ」とした。メタデータを境界オブジェクトとし、オントロジーとタクソノミーの最上層にユーザーのフィードバックにすぐ反応して分類できるフォークソノミーが存在することで、最上層のフォークソノミーで得られた教訓が下層へと浸透していくという構造が、ファインダビリティーなナビゲーションと言える、とした。


後半では、モービル氏が注目するサイトを紹介した。

PODZINGER
音声の検索ができる機能を持っており、オーディオファイルとPodcastingのデータからキーワード検索ができる。映画やテレビも検索可能になるということだ
Amazon.com
「アマゾンのページは(今後も)あり続けるだろう。アマゾンはほかの会社よりイノベーションで先んじている。パーソナライズしていくことに先頭を切っている」(モービル氏)。Amazon.comのSearch Inside the Book(日本では“中を見!検索”)機能は、本の内容そのものをメタデータにしている
Wikipedia
「逆L字型のグローバルNAVIシステム。古いものと新しいものの融合」(モービル氏)
Google map
集合的知性と言える。共有し、参加できるたくさんのチャンスがある

講演後の質疑応答でモービル氏は、「ユーザビリティーの前にファインダビリティーが重要、としているが?」との問いに対し、「見つけられなければ使えませんので、まずファインダビリティーありきです。ファインダビリティーに責任を持っているエンジニアリングとマーケティングは、どのようにしてお客さまを商品に結びつけるか、さまざまな語彙や(マーケティングとエンジニアリングの)異なる世界観を超えて、よりよいソリューションを提供できるように努力しなければなりません」と語った。

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