発表会に出席した日本法人の代表取締役/アジアパシフィック統括の新岡 亨氏(左)と、英Sonapticの共同創業者/テクニカルディレクターのリチャード・クレモゥー氏 |
英Sonaptic社の日本法人であるSonaptic(株)は9日、東京・大手町の大手町ファーストスクエア(トップ オブ ザ スクエア宴)にプレス関係者を集め、(株)エヌ・ティ・ティ・ドコモ(NTTドコモ)が11月17日に発表した携帯電話端末“FOMA 901iシリーズ”のうち、『FOMA N901iC』『FOMA F901iC』『FOMA D901i』の3機種に同社の3Dポジショナルオーディオ技術が採用されたと発表し、同技術のデモンストレーションを行なった。
会場でデモ展示された3Dオーディオのオーサリングツール『Sonaptic VST Plug-in』 |
発表会には、Sonaptic日本法人の代表取締役/アジアパシフィック統括の新岡 亨(にいおかとおる)氏、英Sonapticの共同創業者/テクニカルディレクターのリチャード・クレモゥー(Richard Clemow)氏らが出席し、同社の技術の優位性や開発の背景などを説明した。
最初に挨拶したクレモゥー氏は、「(自分自身を含むSonapticの主要メンバーは)従来から英Sensaura社でパソコン向けの3Dオーディオ技術を開発・提供してきた。これをモバイル機器で実現するべく、2002年に英Sonapticを立ち上げて2年になる。NTTドコモが世界で初めてSonapticの3Dポジショナルオーディオ技術を採用した。この技術は、TI(米テキサス・インスツルメンツ社)のDSP(デジタルシグナルプロセッサー)をはじめ、ARM、SH-Mobile、PXAシリーズなど、携帯電話向けのCPUに広く対応している。また、ヤマハやロームにもIP(技術特許)を提供し、音源LSIへの搭載に関する提携を行なった。さらに、ボーダフォンやJSI(Java Scripting Interface)などからも関心が寄せられている」と述べ、NTTドコモだけでなく、幅広い携帯電話でのサポートが将来的に見込まれていることを語った。
3Dポジショナルオーディオ技術のひとつで、ステレオスピーカーやヘッドホンで3D音場を再現する“Music3D” | ゲームなど、インタラクティブなアプリケーションで、音源の移動をリアルタイム処理する“Game3D” |
続いて、新岡氏は同社の3Dオーディオ技術について、「もともとパソコンの3Dオーディオを実現する技術を開発していたが、これは豊富なCPUパワーを使って再生できた。しかし、モバイル機器では限られたCPUやDSPなどのリソースを使って実現する必要がある」と、単なる移植ではなく、モバイル機器に最適化する苦労があった点を強調した。
Sonapticの3Dオーディオ技術には、
- “Music3D”
- ヘッドホンや、左右を近い場所に置いた小型ステレオスピーカーで広がりのある音場空間を実現する
- “Game3D”
- 6~8チャンネルの3Dオーディオを、ユーザーの操作に合わせてインタラクティブに変化させる
という2つの技術があり、これらを実装するためのオーサリングツール『Sonaptic VST Plug-in』を合わせて提供開始している。オーサリングツールでは、音源の位置の変化やステレオ(2チャンネル)音源の多チャンネル化などが可能となる。
3Dの音場を再現するために耳の構造や頭を回り込む音波を計測し、計算したという |
3Dオーディオ技術の開発に当たっては、耳の構造による高音/低音の検知領域の違いを、東洋人/西洋人などによる耳の形の違いを合わせて検証し、さらに頭の形を回り込む音の伝播の影響を計算して、リアルな3Dサラウンド音響空間を再現したという。また、近いスピーカーでは、左右の音が同じ方向から混ざって聴こえてしまうため、相互の音を打ち消しあう“クロストークキャンセラー”の技術を利用して、広がりのある音響(遠くでスピーカーが鳴っている印象を受ける)を実現したとのこと。
Sonapticのオーディオエンジンでは、音源が近づいてくる効果(Near-Field Algorithm)や、音の広がりと物体に当たった際の反響/干渉などを再現する効果(Vokumetric Algorithm)、ヘッドホンでも臨場感のある音の伝播を実現する効果(Dynaic Ambient Processor)などが利用できるという。
近いスピーカーでは左右に分けて届くべき音が、反対のスピーカーからも届いてしまう。これを打ち消すのが“クロストークキャンセラー”技術だという | 同社では、APIの開発からオーサリング、搭載するスピーカーへのアドバイス、アプリケーション開発まで、トータルにサポートするという |
詳細は明かされなかったが、3種類の携帯端末のうち、2つはソフトウェアのみで実現、1つは音源チップに搭載されたハードウェアで実現しているという。これは、外部スピーカーで再生する際のクロストークキャンセラーを実現する部分を割り当てており、携帯端末の開発メーカーがDSPの割り当てリソースを引き下げたいという理由があったと説明する。
また、他社の3Dサラウンド技術と比較して、「リアルタイム制御の処理が高速に行なえること、NTTドコモが求める2チャンネルオーディオのリアルタイム制御に対して、同社の技術では同じリソースを使って4~8チャンネルオーディオを制御できること、特にTIのDPSの約10%の処理能力で4チャンネルオーディオの制御を実現できる性能の高さなどが、同社の強みだ」と説明した。
iPod miniの左にある金属の板のようなものが、小型スピーカー(リファレンススピーカー)で、裏側に3Dサラウンドを実現するオーディオチップが搭載されている |
なお、説明会の最後に記者から、「携帯電話以外、例えばオーディオ機器などに搭載する予定はないか?」と質問されると、「現在は携帯電話向けの対応で手一杯の状態。ただ、メーカー名など詳細は明かせないが、確かに引き合いはある」と話し、同様の技術を使ったポータブルオーディオプレーヤーが登場する可能性を示唆した。実際、会場では『iPod mini』のステレオ出力を、同技術を使った3Dサラウンドチップ+小型スピーカーに接続して、広がりのある音場を再現するデモも行なわれた。