ノートPC設計の鬼門「放熱」
ノートPCの高機能化や小型化が進むと、必ず問題となるのが「放熱」である。PCの基板上には、熱を発する素子が多数使われている。CPUやビデオチップなどが代表的な存在だ。この熱をうまく外に逃がさないと、基板上の素子の連続使用耐熱保証温度を超えてしまい、製品寿命が保証できず、最悪の場合故障が発生してしまうのだ。
ノートPCが高速化/高機能化するほど基板からの発熱量は多くなり、筐体サイズが小さくなるほど熱が内部にこもりやすくなる。ノートPCの設計は、「高機能化、小型化」と「放熱」という問題の「いたちごっこ」をしているようなものだともいえる。
この放熱の解決方法は「発熱を少なくする」「熱を効率良く外部に逃がす」の2本柱だ。CPUサイズを小さくして内部の配線を短くしたり、熱ロスが少ない材料を配線材として使用するといった対策は、この「発熱を少なくする」対策のひとつである。また、ヒートシンクやファンを付けて熱が外にうまく逃げる風路を作るという対策は、「熱を効率良く外部に逃がす」対策である。
このように排熱は筐体設計で最も重要な要素のひとつだが、忘れてはいけないことがひとつある。「熱をどこに逃がすか」という問題だ。
例えば、ユーザーがあまり触らないヒンジ部分や底面などから熱を逃がす構造にすれば、使用時に熱くて不快になることは少ない(ただし、マシンをひざの上において使う場合は別)。それに対し、キーボードやパームレストなど、ユーザーが頻繁に触る部分から熱を逃がす構造にすると、「熱による不快感」というもうひとつの問題をつくり出してしまうのだ。
そのため、NECでは使用時の本体発熱に関する厳しい設計基準があり、特にキーボードとパームレストの温度が上昇しないような放熱対策がとられている(コラム参照)。
また、ファンをまわして熱を外に逃がす場合も、「騒音による不快感」という新たな問題が発生する。そのため、NECでは、放熱処理能力にある程度余裕をもった大きさのファンを採用したり(回転数が上がるほどファンの音が大きくなるため)、CPU温度をモニタしてファンの回転数を細かくコントロールするなどの工夫がされている。
もちろん、騒音に対する厳しい社内規格もあり、それをクリアしたものが製品として世に出てくるのである。
このように、ノートPC設計の陰には、カタログスペックには現れない「隠れた性能」との戦いがある。今回取材したIBMとNECはノートPCの老舗メーカーでもあり、厳格な品質管理を通り抜けた潜在能力の高い製品を生み出しているメーカーである。設計する技術者のこだわりや、苦悩もそれに応じて膨らむことだろう。
スペックを基準にした製品選びは簡単だ。しかし、より重要な製品のクオリティという問題に──製品の付加価値が見えにくい現在だからこそ──もう一度立ち返った製品選びをしてもらえたらと思う。