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売れないゲーム

2001年10月21日 22時52分更新

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実録:実売500本以下のゲームが世に出るまで

ゲームショップ
※写真はイメージです。実在するショップやメーカーとは関係ありません

 さて、おもしろくないゲームを持たされ、夢の販売本数10万本を目標に営業を開始した僕だが、結果は予想どおり散々だった。基本的に嘘はあまりつけない性格なので(営業に向いてないんだろうか?)、見るからにヤバそうなゲームを無責任に「おもしろいっすよ最高っすよ!」とは言えなかった。僕のことはユーザー重視の、責任感ある営業マンと思ってほしい(絶対向いてないな……)。

 このように売れないゲームによってダメージを受け、ライフゲージが減ってくると、会社は恐怖の呪文を唱えるようになる。“経費削減”である。

 この4文字熟語を簡単に言い換えると、つまりは「開発期間を短くして、お金をかけずにたくさんソフトを作ってたくさん売ろう!」ということだ。こうなったらもう地獄である。そんなことはそうそう上手くいくわけがなく、このような末期状態に陥った場合、もうその会社は死んだも同然と言えるだろう。

 僕はこのような末期状態の会社が作った、ろくでもないソフトを何本か営業したことがある。マスターアップしたばかりのそんなダメダメソフトを持って、大阪の某ゲームチェーン店本部に営業に行った時のこと。

仕入担当者(笑顔)「今回のタイトルは期待しているんですよ。さっそく見せてください」
僕「(ヤ、ヤバ。この人は一体何を誤解しているのだろうか?)……ありがとうございます!!」

 期待してくれているお客様に対して申し訳がない気持ちでいっぱいになるが、見せないわけにもいかない。僕はおもむろに営業用のプレイステーションを取りだし、プレイを始めた。

仕入担当者(ちょっと呆然。しかしすぐに笑顔を取り戻す)「これはまだ開発中ですよね?> この辺のポリゴンとかまだまだですよねー。背景とかもまだ仮の絵みたいだし……(※1)」

※1 このソフトはマスターアップ(=完成)してます。なので、その担当者が指摘する粗いポリゴンも、試作段階のような背景も全て完成品です。どこも仮じゃないです。

仕入担当者(ちょっと真剣な表情)「これは開発は何%くらい終わってるんですか?」
僕(満面の笑みで)「ご、ごごごごごじゅっぱーせんとでございますぅ」
仕入担当者(笑顔に戻る)「あはは、それじゃしょうがないですねー」

 結局、このうそも数日後には真相がバレることになる。それ以降、僕はこの担当者の笑顔を見ることはなかった。本当にごめんなさい。



ゲーム誌でよく見るクロスレビュー。実際には、ここに名前を露出することすら叶わないタイトルがごまんと存在する。※写真はイメージです。実在する雑誌とは関係ありません

 さて、こんな中途半端な営業を日本各地で行った末、最終的な受注数は1200本。最初に発注書を見たときは桁を間違えたのかと思ったほどだ。発注数がこれだけであれば、当然予定していた宣伝、広告費用はカット! そうなれば、それ以降そのタイトルがメディアに露出することはなくなるわけで、露出がなければ、売れるわけもなし。第一それ以前の問題として、そもそもゲームの内容がろくでもないのだからどうにもならない。

 こうしたプロセスを経て、無事に実売数500本以下のソフトは誕生するのであった。

 めでたしめでたし……?



ここに書いたことは、あくまでも筆者の体験がもとになっています。すべてのゲーム会社に当てはまるわけではありません。

【筆者プロフィール】高田哲弘氏。都内某大学を卒業後、とある中堅ゲーム会社に誤って入社し、営業部に配属されて過酷な日々を過ごす。その2年後には早くも会社の将来に絶望を感じ、就職活動を開始。別のゲーム会社にて採用され、また誤って入社してしまう。そしてそこでも会社の将来に絶望を感じたが、時すでに遅く、会社が倒産するという事態を迎えるハメに。そして現在、なんの因果かまたゲーム業界に近い会社に勤務している。しかしやはり過酷具合は変わらず、現在は長期就職活動中。

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