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「どんな端末にもストリーミング配信を」──米ジェネリック・メディアCEOピーター・ハディ氏

2001年03月08日 11時14分更新

文● 聞き手:林信行、構成:編集部 佐々木千之

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米ジェネリック・メディア社CEOのピーター・ハディが、2月27日に開催されたイベント“DEMO Japan 2001/Spring”の講演のため来日した。長年QuickTimeの開発をリードしてきたハディ氏が、アップルを離れて起した会社で目指すものはなにかを聞いた。

米ジェネリック・メディア社CEOのピーター・ハディ氏
米ジェネリック・メディア社CEOのピーター・ハディ氏

米ジェネリック・メディア社CEOのピーター・ハディ(Peter Hoddie)が、2月27日に開催された革新的な技術をもつ企業の発表イベント“DEMO Japan 2001/Spring”で講演するため来日した。

ハディ氏は2000年2月に米アップルコンピュータ社を辞めるまで、10年近くにわたりQuickTimeの開発に携わり、その方向性をリードしてきた。ハディ氏がアップルを離れてまもなく起こしたジェネリック・メディアは2月14日(米国時間)、ストリーミングメディア配信のための画期的なシステム“Generic Media Publishing Service”を発表している。これはAVIやQuickTime、MPEG-1、MP3といったさまざまな形式に対応し、そのうちどれか1つのオリジナルファイルを用意すれば、ユーザーからの要求に応じて、フォーマットやサイズ、ビットレートなどをリアルタイムに変換して送信することができるというものだ。

このシステムを使い、同社は米国でストリーミングコンテンツをさまざまな端末に向けて配信するサービスを開始している。

また、3月1日にはPalm OSハンドヘルド向けに、動画プレーヤーソフト『gMovie Player』と、そのコンテンツを制作するためのWindowsとMacintosh向けプログラム『gMovie Maker』を発表している。

ジェネリック・メディアは何をしようとしているのか、その目指すところについて聞いた。

[編集部] まずジェネリック・メディア社について教えてください。
[ハディCEO] ジェネリック・メディアは1年ほど前にカリフォルニアのパロアルトに設立した会社です。映像コンテンツを、インターネットを通じてパソコンやPDA、そして新しいデバイスで大勢の人が見られるようにするためのソリューションを開発しています。

以前はCD-ROMで映像ファイルを配っていたりもしましたが、いまはインターネットを通じて映像を配信する時代です。しかしながら多くの人が自分の持つ映像コンテンツを、いかに安くいかに簡単にいろいろな人に届けるかということで困っています。

問題はストリーミングのためのフォーマットにはまず、“QuickTime”、“Windows Media”、“Real”という3大フォーマットがあり、さらにほかにもたくさんあります。これからはPDAや携帯電話、ゲーム機、カーナビでも動画が見られるようになるでしょう。しかしこれらは残念ながらみんなフォーマットが異なっています。それにはそれぞれ理由があって、1つにはまとめられません。見る側の端末によっても制約を受けます。

元のコンテンツを提供するコンテンツプロバイダーとしては、なるべく安くいろんな人に見せたいわけですが、それが現在はほぼ不可能です。これがいまひとつビデオストリーミング市場で、利用者の数が増えない大きな問題の1つなのではないか、それを解決する方法はないのかというのが最初の発想でした。

コンテンツプロバイダーの具体的な悩みというのは、いったいどのフォーマットを選べばいいのか、ということです。例えばあるフォーマットにエンコードしたとして、そのフォーマットが来年、あるいは再来年もあるのか、不安に思っているのです。そこで、新しいものが出てきても、それに対応してあげられるようなシステムを提供することによって、将来に対する不安を取り除き、より多くのプロバイダーが映像コンテンツをインターネットに送れるようにすればと考えたわけです。
[編集部] Generic Media Publishing Serviceを発表されましたが、そこでサポートされているフォーマットはなんですか?
[ハディCEO] 現在は5つのフォーマットをサポートしています。QuickTime、Windows Media、Real、MP3、gMovie(Palm OS用)です。ですから、今現在われわれに映像ソースを渡せば、この5つのフォーマットのユーザーに対して配信可能になります。

ではなぜこの5つなのかというと、最初の4つ、3大フォーマット+MP3というのは、パソコン上でストリーミングということを考えたときには必須です。動画に関しては3大フォーマットのサポートによって、パソコンでストリーミング映像を見ている人はほぼカバーできます。

あと、Palm OSに関しては、PDAの中では非常に大きなインストールベースがあるのですが、残念ながらCPUが少し弱い。もともとプレーヤーを作るというのはジェネリック・メディアとしては意図していなかったのですが、Palmのストリーミング市場、ビデオ市場を立ち上げるために実験的に作ったものです。最初はソニーのクリエ(※1)でやりましたが、そうすると、そんなことができるんだと注目する人が出てくる。コンペティターも出る。それは結構なことで、いろいろなコンテンツプロバイダーもそれではPalmに送ろうか、という風に広がっていくと考えています。
※1 再生ソフトgMovie Playerは現在、ソニーのクリエにだけ付属しているが、ジェネリック・メディアのホームページから無償ダウンロードできる。このページからは、gMovie Makerの試用版もダウンロードできる。

クリエ上で動作する『gMovie Player』
クリエ上で動作する『gMovie Player』
カラー版『gMovie Player』
こちらはVisor Prismで動作するカラー版『gMovie Player』
[編集部] どのようにしてサポートするフォーマットを決めるのですか?
[ハディCEO] フォーマットの選び方については、ある程度のユーザーがいるというのは大事ですが、新しいものに関しては、意義があるとかこれからスタンダードになると思われるものに関して積極的に対応していくつもりです。例えば日本では“FOMA”とか、そういったものに対応していきます。ただ、我々はまだ日本では事業を開始していません。サーバーやサポート人員など準備を行なっているところで、実際のサービス開始は夏ぐらいからになるでしょう。
[編集部] 現時点で注目しているメディアやデバイスはありますか?
[ハディCEO] たぶん次で一番大事なのは、ワイヤレスデバイスで使われるであろうMPEG-4です。実はMPEG-4といっても、細かな違いのあるものが多数存在し、一筋縄ではいかない状態です。かなりたいへんですが、われわれはそれに挑戦していきます。現時点ではMPEG-4への対応時期はいえないが、そのうち発表します。
[編集部] 特定のフォーマットの特定の機能、例えばインタラクティブな機能についてはどのように扱うのですか?
[ハディCEO] そういった機能は、実際にユーザーが映像を見るうえではほとんど使われていません。これはコンテンツプロバイダーがその機能のために使う、良いツールがないからです。現時点では、いろいろな人にコンテンツを届けるところの方がより重要だと考えて、それを優先して作業しています。
ジェネリック・メディア・ジャパン(株)代表取締役の外村仁氏
ジェネリック・メディア・ジャパン(株)代表取締役の外村仁氏(手前)
[編集部] メディア配信市場の将来性についてどうお考えですか?
[ハディCEO] いまデジタルメディアをインターネットで一番提供しているのはCNNですが、CNNといえども1日に掲載されるのはトータルで1時間か2時間程度しかありません。一方で、CNNは6チャンネルを持ち、24時間放送しているのに、です。ジェネリック・メディアでは、さまざまなサービスを提供することによって、市場を動かし始めるのがジェネリック・メディアのミッションだと考えています。それで、インターネットでの配信を迷っていたコンテンツプロバイダーが参入して、コンテンツが増える>見る人が増える>コンテンツが増える>見る人が増える というサイクルが作れればいいのです。

現状は、3大フォーマットが1つのコンテンツに対して、おれがとる! というふうに戦っています。だから、あるフォーマットでしか見られないとかいうコンテンツが存在することになるのです。コンテンツプロバイダーとしては、なるべく多くの人に見られたいと思っているはずなのに、おかしなことになっています。コンテンツプロバイダー側が見せたいもの、ユーザー側が見たいものが多種多様になってきていますから、1対1に対応させるのは不可能です。だから、これでいいやということでどれか1つのフォーマットに対応して終わってしまうのです。

そこをひっくり返して、コンテンツプロバイダーとユーザーの両方をハッピーにするために、ジェネリック・メディアがサービスを提供します。
[編集部] ありがとうございました。

日本でもCATVやADSLによるブロードバンドサービス普及に伴って、ビデオのストリーミング配信が大きなサービスになるという見方がある。しかし、ハディ氏によると、ブロードバンド先進国である米国でもそれほどの広がりを見せていないという。その理由はハディ氏の言うように、デファクトスタンダードとなる強力なフォーマットがまだないことと、それを受け取る端末が多様化する一方で、コンテンツプロバイダーが対応しきれないということだろう。そんな中でジェネリック・メディアが果たす役割は非常に大きい。日本でも早期にこのサービスが開始され、ブロードバンドに見合う良質なストリーミングコンテンツが安く大量に見ることができるよう期待したい。

3月2日、アスキー本社会議室にて。なおこのインタビューの模様は『MacPeople』『MACPOWER』『Palm Magazine』『月刊アスキー』にも掲載予定。

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