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【電総研 創立110周年記念講演会 前編】研究所OBが語る“電総研が成してきたこと”

2000年11月03日 15時14分更新

文● 浅野純也

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1日、電子技術総合研究所(電総研)が主催する特別記念講演会“情報・エネルギー・エレクトロニクス・計測標準技術の過去・現在・未来”が都内のホテルで開催された。電総研は通産省工業技術院に属する研究機関であり、1891年に逓信省の“電気試験所”として設立以来、講演会のタイトルにもある4つの分野において文字どおり最先端の研究開発を行なってきた。今年で設立110周年を迎えるとともに、来年4月には工業技術院傘下の14研究所を統合した“独立行政法人 産業技術総合研究所”として生まれ変わるのを機に、今回の講演会が企画された。

開会の挨拶をする現所長の児玉氏。来年から電総研は新しい体制に移行する

演目は3つのブロックに分けられた。午前中は“電総研における研究開発の変遷”として情報技術、バイオ情報処理技術、エネルギー技術、エレクトロニクス技術、計測標準技術の各分野の研究所OBによる“電総研が成してきたこと”が紹介された。

情報技術について担当したのは東京工科大学教授の棟上氏

“情報技術”は東京工科大学教授の棟上昭男氏が講演した。電総研は戦後すぐに日本で初めてプログラム内蔵式のコンピューターを開発したことで知られるが「電総研のこの分野における研究は、'60年代以降の大型プロジェクトに代表される」と紹介、当時先行していたIBMに追い付き追い越すための“超高性能電子計算機”や“パターン情報処理システム”、“第5世代コンピュータ”などのプロジェクトについて話した(現在は大きなプロジェクトを掲げてというトップダウンのスタイルではなく、公募方式が主流)。内容もハードウェアからネットワークなどソフトウェア寄りのものが増えていると語った。また、研究自体はいいものをやっているのにその成果の売り込みや活用について上手ではないと指摘。研究評価においてもただ論文の数を競うのではなく、インターネット時代を見据えた新しい評価基準があってもいいのではないかとも助言していた。

バイオ情報処理技術を担当したのは理化学研究所グループディレクターの松本氏

“バイオ情報処理技術”分野は、脳型コンピューターの研究で知られる理化学研究所グループディレクターの松本元氏が担当。電総研の歩みというよりも同氏が電総研で研究してきた目指すべき“脳型コンピュータ”のあり方・概念を紹介する講演を行なった。その中で、プログラムを実行するコンピューターと違い、脳は経験をベースにプログラム自体を作り出す機関であり、経験に対してどう反応するかが脳型コンピューターのポイントであると紹介。それに絡めて“出来高評価は人を成長させない”とか“目的に達することが目的ではなくそこに到達するプロセスにこそ意味がある。だから低いレベルにある電総研は上を目指せる”などときおり現在の電総研に向けての厳しい言葉を織り交ぜた。

脳型コンピュータとノイマン型コンピュータの差について話す松本氏。
エネルギー技術については日本クリーンエネルギー総合研究所理事長の堀米氏が担当した。投影されているのは超高圧の交流送電用に開発された10万ボルト1500アンペアのサイリスタバルブ

“エネルギー技術”は日本クリーンエネルギー総合研究所理事長の堀米孝氏が担当。電気試験所時代は強電、特に超高圧の交流送電や直流送電などの送電技術がメインであり、その後原子力発電や核融合、MHD発電などの新発電技術に移行、電総研時代は太陽発電や燃料電池の開発に力が注がれてきた歴史を紹介した。特に原子力開発においては、安全性評価手法やシミュレーターの開発での黎明期における安全性に大きく寄与したこと、またMHDや核融合の研究ではそこから派生した超伝導技術がその後の超伝導研究のベースになったと語った。

エレクトロニクス技術についての講演は元シャープ顧問の片岡氏が担当した

“エレクトロニクス技術”はシャープの社友(元顧問)の片岡照榮氏が担当。この分野における電総研の主な成果としてテレビやラジオに欠かせない電子部品である“高周波セラミックコンデンサ”やコイルの高性能・小型化に寄与したフェライト結晶の研究、太陽電池開発におけるシリコン単結晶の研究、ICやLSIの研究、半導体磁気センサーの研究などを紹介した。特にシリコン単結晶や超LSIの研究については、その後の半導体王国のベースになったものとして重要だったと触れた。

片岡氏が公演中に示した、'57年に試験所から出願されたICの特許の図
標準計測技術についての講演を行なった明大の根本氏

最後の“標準計測技術”は明治大学教授の根本俊雄氏が担当。電総研が電気や高周波、測光、放射線、音響、色彩、真空など多くのカテゴリーにおける基本量に関する国家標準の確立・維持・供給を行なってきたことを紹介した。

試験所と電総研はさまざまな標準化技術に関わってきたを示すスライド

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