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【HCDP2000展Vol.4】新しい“知恵の流通・知のインフラ”を考える

2000年09月12日 18時25分更新

文● 若菜麻里

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(財)世田谷区コミュニティ振興交流財団が運営する“くりっく 世田谷文化生活情報センター”は、“コミュニティの未来デザイン”をテーマに、“HCDP2000展”を都内で9月7日から10月1日まで開催中だ。HCDPとは、“Human-Centered Design Project”の略。未来に向けて、より豊かで人間的な社会やライフスタイルを模索するのがイベントの主旨である。期間中は、暮らしや医療、福祉などに関する展示やセミナーが開催されている。本稿では、9日に行なわれたテーマシンポジウム“知恵の流通・知のインフラ”の後編となるディスカッションについて報告する。

人はハイパーテキストのようにダイナミックに発想する

シンポジウム“知恵の流通・知のインフラ”の後半では、同じメンバーによるパネルディスカッションが行なわれた。米ナップスターが取り入れたようなピアツーピアのファイル交換方式や、バリアフリー、デジタルデバイドなどについて、意見の交換があった。

渡辺 「前半の竹村さんのスピーチを受けて、“属人的な知識(※1)を図書館や博物館に”という発想について、ブラウンさんはどう思うか?」

※1 属人的な知識:竹村氏は、コンピューターを操作できるといった技術的な問題ではなく、インターネットから得られた情報を編集したり解釈したりする能力が重要だと説く。こういった能力は本来“人”に関わるもの。“属人的な知識”を持った人が、ある情報が信用できるのか、関連情報はどこにあるのかといった、情報についての情報“メタ情報”をつくり出せるということになる

ジャーナリストの渡辺保史氏。ディスカッションの司会進行を務めた

ブラウン 「たいへん面白い。本を読んだり、話をしたりするのは、直線的な活動だ。しかし人は頭の中で直線的でなく、ハイパーテキストのようにダイナミックに発想する。このハイパーテキスト性を書物に最大限に活かせれば、著者の考えだけでなく、それに対する第三者の解釈まで、ジャンプして読み取れる。米国の“netLibrary”(※2)というWebサイトでは、電子的な本のダウンロードを事業化しているが、例えば、大学教授がこのサイトで本をダウンロードして、ところどころにメモを書き込み、学生に回覧すれば、知恵の流通方法として興味深い」

※2 NetLibrary:書籍をデジタル化して図書館に納めている米国のウェブサイト。'99年8月にサービスを開始し、2000年2月までに150万冊を図書館に販売している。http://www.netlibrary.com/

米国コロラド州デンバー大学ベンローズ図書館の専門委員、クリストファー・C・ブラウン氏。図書館と博物館、古文書保管機関、歴史協会が所有している資料を横断的に参照するためのデジタル化プロジェクトに携わる

ハイパーテキストの次に来るのはピアツーピア

高橋 「ハイパーテキスト性を備えたWWWは今や、インターネットの代名詞のような存在になった。WWWの次にくるインターネットの新しい可能性といえば、ピアツーピアのコミュニケーションではないだろうか。米ナップスター(※3)では、同社のサーバーを経由して、エンドツーエンドで音楽ファイルを欲しい人同士で交換できるという方法を取り入れ、何百万というユーザーを一挙に得た*。著作権の問題でもめているが、いいものは見せびらかしたいという人間的な欲求を考えると、こうしたエンドツーエンドのファイル交換プログラムは、発展する可能性がある」

※3 Napster(ナップスター):米Napster社が配布するファイル交換ソフト。MP3ファイルの検索、交換、再生機能が搭載されており、Napsterのサーバーを経由して、インターネットに接続する他のユーザーのHDDに格納されたMP3ファイルを共有できる。昨年末には全米レコード協会が、今年4月に人気バンドMetallicaと、ラッパーのDr.Dreが著作権侵害で相次いで同社を訴えた

インターネット戦略研究所代表取締役会長、高橋徹氏。前半のセッションでは、インターネットの発展のキーワードについて言及

産業構造を変えるITの究極は物々交換!?

筑紫 「オープンソースのLinuxのコミュニティーも、いいものは人にあげたい、という精神で成り立っている。もしかしたらITの究極は、物々交換ということになり、すると貨幣がいらなくなる。ファイル交換が産業構造を変えるかもしれない。エコファンドなどSRIにより金融業界を無毒化し、そしてITにより、産業構造の革命を期待したい、といったところか」

グッドバンカーの代表取締役社長、筑紫みずえ氏。日興證券グループの協力により“エコファンド”を商品化した

竹村 「逆の面もある。今は貨幣の意味が一元化しすぎており、これを多元化することで、貨幣の意味は再生する。また情報が多すぎたり、あるいはフラットで意味を持たないというときに、それを編集する中間的なセクターが必要だ。ナイーブなIT論の中で、これからは間接経済から直接経済だ、とか、流通や卸、中間管理職はいらないという“中抜き”が語られているが、すると、情報を編集するための新しい中間セクターが、多元的に必要になってくる。このHDCPもエコファンドも中間セクターとして知を生み出している」

東北芸術工科大学助教授の竹村真一氏。ネット社会において見落としがちな切り口から自説を展開

パソコンを使えなくてもやっていけるか? デジタルデバイドの問題

渡辺 「その他、最後に伝えたいことがあればどうぞ」

ブラウン 「デンバー大学ではデジタルデバイドの問題が大きな懸念になっているが、日本でも大きな問題ではないか。日本のインターネットの接続コストや、Webサイトの作成費用は、米国に比べて高額だ。デジタルデバイドの問題は日本が提起していかなければ、今後持てる者と持たざる者の差が出てくる。持たざる者が出ないよう、手を差し伸べることをこの会場からも考えていかなければ」

高橋 「日本は世界第2のインターネット大国と言われているが、人口比率や国民総生産などをからめて考えると、インターネット後発国だ。それは日本の社会や政治の構造に問題があるためで、それを意識することなく日常が流れていくのに、そろそろ釘を打たねばならないのではないか」

筑紫 「私としては、インターネットを使えないことがそんなに大きな問題とは思わない。うちには、新聞もラジオもテレビもない。パソコンもたいして使えない。しかし、手紙のやりとりなどで、仕事上に必要な情報や人脈は十分に得られる」

竹村 「インターネットで可能になることは、たくさんある。しかし人間は生活していく上で、特に身体性などで莫大な情報量を持っているわけで、インターネット利用の世界順位が低いのは、それはそれでよいのでは。ほどほどに楽しくやっていくのが大切」

渡辺 「というわけで、明日は地域活動とインターネットをテーマに、“デジタルデバイドなんてなにさ”と、したたかに活動している人たちからの報告が行なわれる予定だ」

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