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【HCDP2000展Vol.3】属人的情報から得られる“メタデータ”の重要性

2000年09月12日 15時47分更新

文● 若菜麻里

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世田谷区コミュニティ振興交流財団が運営する“くりっく 世田谷文化生活情報センター”は、“コミュニティの未来デザイン”をテーマに、“HCDP2000展”を都内で9月7日から10月1日まで開催中だ。HCDPとは、“Human-Centered Design Project”の略。未来に向けて、より豊かで人間的な社会やライフスタイルを模索するのがイベントの主旨である。期間中は、暮らしや医療、福祉などに関する展示やセミナーが開催されている。本稿では、9日に行なわれたテーマシンポジウム“知恵の流通・知のインフラ”について報告する。

シンポジウムは、スピーカーに、クリストファー・C・ブラウン氏(米国コロラド州デンバー大学ベンローズ図書館専門委員)、高橋徹氏(インターネット戦略研究所代表取締役会長)、筑紫みずえ氏(グッドバンカー代表取締役社長)、竹村真一氏(東北芸術工科大学助教)の4名を迎え、モデレーターはジャーナリストの渡辺保史氏が担当した。

モデレーターとして口火を切った渡辺保史氏

渡辺氏が、今回のシンポジウムのテーマに沿って「知恵の交換こそが、新しい時代のテーマになるのではないか」と口火を切ると、スピーカーは自身の活動に基づいて、それぞれの立場で意見を述べた。

図書館や博物館など4組織の情報をシームレスに検索可能に

クリストファー・C・ブラウン氏は、米国コロラド州デンバー大学ベンローズ図書館の専門委員である。'99年より、デンバー大学で、“インターネット上のレファレンスとリサーチ”および“情報資源と書誌学”の授業を担当している。また、コロラドで、図書館と博物館、古文書保管機関、歴史協会が所有している資料を横断的に参照できるようにするためのデジタル化プロジェクトに携わる。講演では、このデジタル化プロジェクトに関して報告した。

米国コロラド州デンバー大学ベンローズ図書館の専門委員、クリストファー・C・ブラウン氏

「このプロジェクトでの一番の課題は、図書館には本だけでなく、写真や日記などの各種資料があったことだ。博物館、古文書保管機関、歴史協会も、展示品などをそれぞれ所蔵していた。例えば、コロラドは、スキーで有名だが、スキーに関して、4組織に渡り、利用者がシームレスに資料を検索し参照するにはどうしたらよいか、ということが問題だった」

「図書館の蔵書は“メタデータ”で整理されている。メタデータというのは、データに関するデータのことで、図書館の本は、目録カードで整理されており、カードには書籍のタイトルや著者名、出版社名が入っている。博物館やその他の組織では、別の方法でデータベース化しているのも問題だったが、あるメタデータを別の種類のメタデータに変換し、フィールドごとにマッピングするという解決方法で、デジタル化プロジェクトを進めていった」

ラフコンセンサス&ランニングコードでダイナミックな知的生産を

高橋徹氏は現在、(株)インターネット戦略研究所代表取締役会長で、多摩美術大学の教授を務めている。過去には日本インターネット協会の初代の事務局長、東京インターネット(株)の代表取締役などを歴任してきた。

インターネット戦略研究所代表取締役会長、高橋徹氏

「インターネットの発展のキーワードは、ラフコンセンサス&ランニングコードにあると感じている。ラフコンセンサスとは、この辺まで煮詰めておけば、次に行ける、という大まかな合意。またランニングコードというのは、現に動いているプログラムを重視するという方法。インターネットのプロトコルは、こうやってできあがった。そしてオープン性。自分たちが作ってきたものをオープンにして、3人以上で動かしてみて、相互運用性を確認する。スピードの早いインターネットでは、このようにダイナミックに知的生産が行なわれる」

「例えば国連のような、各国1票の組織は、スピードが遅い。多数決原理だと、知的生産という意味ではだめだろう。21世紀的な知の方法は、多数決原理ではなくて、ラフコンセンサス&ランニングコードで、磨き上げていくという作業が重要だ」

ITを活用することと、直感力を養うことは諸刃の剣

筑紫みずえ氏は、コンサルタント会社の(株)グッドバンカーの代表取締役社長である。'99年8月に、SRI(Social Responsible Investment:社会的責任投資)のコンセプトに基づいた“エコファンド”を、日興證券グループの協力により商品化。エコファンドは企業の環境対応度を評価して投資するもので、開始後6ヵ月で2000億円を集め、国際的にも注目されたという。

グッドバンカーの代表取締役社長、筑紫みずえ氏

「SRIの発想は、欧米では'20年代からある。ギャンブルや、軍事関連企業、南アフリカとの貿易で一定以上の収益をあげている企業を支援するのは、間接的に、企業が行なっていることをサポートするのと同じだからだ。日本には、これまでそういった仕組みがなかった。エコファウンドにより、企業が情報を公開し、透明性の高い経営に変わっていくことを期待している。似たような発想で、日本の国債を買い、日本政府のやり方がまずいと感じたときに、みんなでいっせいに売りに出す、すると国債の値段は暴落する、そういった革命もインターネットソサエティーの中では、起こりうる」

「ITと知について言及すると、起こったことを分析するのではなく、これから起こることを判断する能力は、知識でなく、一種の直感だ。インターネットを利用していると、この直感的な能力はかえって育たない気がする。弊社の若い人たちを見ていて思うのだが、企業の環境分析書などを、ホームページから得ようとしている。ホームページに出ている情報は、企業側が都合のいい情報を出しているだけなので、それを鵜呑みにしてはいけない。電話したり訪問したりして、嫌がる相手からもらってくる資料とは価値が違う。ITを使いこなす若手アナリストと、そうでないアナリストでは、パソコンがあまり扱えないアナリストが持っている企業情報の方が価値が高いというアンビバレンスがある」

情報についての情報――“メタ情報”は属人的情報から

竹村真一氏は、東北芸術工科大学助教授で、文化人類学や情報環境論が専門だ。また(株)プロジェクト・タオス代表取締役でもある。

東北芸術工科大学助教授の竹村真一氏

「まさに3人の言ったとおりだ。情報ではなくて、メタ情報や、その情報に対する人にまつわる情報――つまり“属人的”な情報が、今後ますます重要になるだろう。米国では、'91年頃から言われているが、コンピューターを操作できる能力とか、技術的な問題ではなく、インターネットから得られた情報を編集したり解釈したりする能力こそが重要だ。昔は稀少な情報を持っている人が強かった。今は情報はどこからでも手に入るので、情報そのものには価値がない。その情報が信用できるのか、関連情報はどこにあるのかといった、情報についての情報、つまりメタ情報が大事だ」

「クリストファーさんの図書館のプロジェクトはすばらしい。これに関連して、私のアイデアでは、メタ情報といっても、属人的な体験情報をメタ情報とするようなものだ。図書館の本には、目には見えないポストイットに書き込みがされている。特殊な眼鏡でその書き込みは見える。文字だけじゃなくて、詩集には朗読、昆虫の本なら動画ファイルが貼ってあるというように、ひとつの本にみんなで書き込みをして、育てていく。そんな、属人値がいっぱい付いている情報図書館があるといい」

これに続くシンポジウム後半では、同じメンバーによるパネルディスカッションが行なわれた。その模様はVol.4で報告する。

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